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「観る将」が観た第45期女流王将戦挑戦者決定戦

9月9日、霧島酒造杯第45期女流王将戦の挑戦者決定戦が放映されました。タイトル戦の常連が次々に姿を消す中、前期も挑決に駒を進めた渡部愛女流三段と、前期は準決勝で敗れた香川愛生女流四段が顔合わせることとなりました。

香川女流四段は2008年プロ入りの30歳で、YouTubeやコスプレを通した普及活動でも知られる人気女流棋士です。女流王将戦との相性が良く、第35期(2013年)に当時の里見女流王将から奪取して初タイトルを獲得し、第36期には挑戦者の清水女流七段を退けて2連覇しています。第37期に失冠したものの、第38期も挑戦者として名乗りを挙げています。今期は木村女流1級、中井女流六段、小高女流初段を降して勝ち上がっています。

渡部女流三段は2013年プロ入りの30歳で、穏やかな人柄とひょうきんな言動で人気のLPSA所属の女流棋士です。タイトル初挑戦となった第29期女流王位戦(2018年)で、当時の里見女流王位から奪取した経験があります。第1期白玲戦では七番勝負に進出しており、女流順位戦はA級を維持しています。今期は山根女流二段、甲斐女流五段、加藤(桃)女流四段を降して勝ち上がっています。


三間飛車対居飛車穴熊

振り駒で後手となった香川女流四段が三間飛車に振り美濃囲いに構えると、渡部女流三段は穴熊を目指します。互いに飛車を浮き、渡部女流三段が4筋の歩を突くと、香川女流四段は3筋の歩をぶつけて仕掛けます。渡部女流三段は1筋の歩を突いて、後手が角を飛び出して飛車に当てるのを防ぎますが、香川女流四段は3筋の歩を取り込み、銀の裏に△3八歩と垂らします。

香川女流四段の"と金"

渡部女流三段は銀を上がって飛車の紐を付け、香川女流四段が△3九歩成と"と金"を作ると、▲1七桂と跳ねてかわします。香川女流四段が"と金"を引いて銀を狙うと、渡部女流四段は▲3五歩と打って飛車を追い、▲2七飛と引いて"と金"の活用を防ぎます。香川女流四段が飛車を4筋に寄せると、渡部女流三段は2筋の歩を突き捨ててから、▲7八金と陣形を引き締めます。

渡部女流三段の角の活用

香川女流四段が1筋の歩を突いて桂頭を狙うと、渡部女流三段は3筋の歩を伸ばします。香川女流四段は飛車を3筋に戻し、渡部女流三段が▲3五銀と前進して歩を支えると、△4三銀と数を足します。少し時間を使って考えた渡部女流三段は6筋の歩を伸ばして角の利きを通し、香川女流四段が"と金"を4筋に寄せると、▲5五角と出て9筋の香を狙います。

香川女流四段の飛車の活用

香川女流四段は△7三銀と上がって角成を防ぎ、渡部女流三段が▲8八銀と穴熊の蓋を閉めると、△3四銀とぶつけます。渡部女流三段が▲4四銀とかわすと、香川女流四段は△2三銀と引いて飛車先を通します。持ち時間を使い切って40秒将棋となった渡部女流三段が、▲3五歩と打って飛成を防ぐと、香川女流四段は△4三歩と打って銀を捕獲します。

両者とも40秒将棋に突入

渡部女流三段は▲1一角成と香を取って馬を作り、香川女流四段が△3三角とぶつけると、馬角交換に応じてから7筋の歩をぶつけます。香川女流四段は△3五飛と走りますが、渡部女流三段は7筋の歩を取り込んで銀に当てます。香川女流四段も40秒将棋に突入し、△7四同銀と応じると、渡部女流三段は更に銀頭を歩で叩いて吊り上げ、▲7七香と打って玉と銀を田楽刺しにします。

渡部女流三段の好所の角

香川女流四段は力強く△3八飛成と竜を作って飛車に当て、渡部女流三段が香で銀を取って王手すると、△6二玉と上がってかわします。渡部女流三段は6筋の歩を突き捨て、銀桂両取りかつ取られそうな飛車に紐を付ける好所に▲4五角と打ちます。後手陣は金銀がバラバラで、駒割りも先手の香得となり、形勢はわずかに渡部女流三段に傾いてきたようです。

両者の馬

香川女流四段が△5四角と合わせると、渡部女流三段は▲6三歩と玉頭を叩きます。香川女流四段は玉を5筋にかわし、渡部女流三段が▲2三角成と銀を取って馬を作ると、△2七角成と飛車を取って馬を作ります。駒割りは飛車と銀香の2枚替えですが、先手陣の穴熊は健在で、形勢は渡部女流三段に振れています。

中空の城壁

渡部女流三段は金取りに▲7二銀と打ち、香川女流四段が金を5筋に寄ってかわすと、▲2四馬と引いて金を睨みます。香川女流四段が△3三金~△3四銀と馬を攻めながら中空に城壁を築くと、渡部女流三段は6筋の歩を成り捨て、▲6三歩と金頭を叩きます。馬の攻撃力を削がれた先手の攻めが細くなり、形勢は香川女流四段に大きく振れたようです。

玉の上部脱出

香川女流四段が金銀交換してから△4三玉と上部脱出を図ると、渡部女流三段は▲4五銀と打って上部を押さえます。香川女流四段は銀で馬を取り、渡部女流三段が▲2五同桂と銀を取って金に当てると、力強く△3四金と上がって桂に当て返します。渡部女流三段が▲3六銀打と桂に紐を付けつつ馬に当てると、香川女流四段は馬で銀を食いちぎって銀2枚と交換します。

手堅い受け

渡部女流三段が成香で桂を取って攻め駒を補充すると、香川女流四段は手堅く竜で2筋の桂を取ります。渡部女流三段は▲6一角と打ち込み、▲4五金と後手玉に迫りますが、香川女流四段は△3九飛と攻防に打ち込み、△4三歩と角の利きを遮断します。渡部女流三段は▲5五桂と打って食い下がり、香川女流四段が△3一桂と受けると、▲5二角成と馬を作ります。香川女流四段が△2九竜と飛び込み、2枚飛車の威力で詰めろを掛けると、渡部女流三段は▲4三桂成と王手し、手にした歩を▲7九歩と打って粘ります。

入玉確定

香川女流四段は金頭に△4四歩と打って催促し、渡部女流三段がやむなく金交換に応じると、△6九角~△3六角成と馬を作って入玉を目指します。先手の穴熊はまだ攻略に数10手掛かりそうですが、後手玉は入玉が確定して竜や馬に守られて寄る見込みがなく、渡部女流三段は投了を告げました。

まとめ

本局は序盤に香川女流四段が"と金"を作って主導権を握りましたが、渡部女流三冠は角の利きで後手陣を乱し、香の田楽刺しでリードを奪いました。飛車を取らせる代わりに後手陣の銀を剥がし、挟撃態勢を作った渡部女流三冠がリードを拡げましたが、香川女流四段は先手の馬を追いながら中空に城壁を築き、玉を上部に脱出して形勢を入れ替えました。渡部女流三段は懸命に攻めをつないで食い下がりましたが、香川女流四段は手堅く受けて逃げ切りました。
7年ぶりのタイトル挑戦を決めた香川女流四段は、対局後に西山女流王将との三番勝負に向けた抱負を聞かれ、「一番思い入れのある棋戦で、また番勝負に出られることがとても嬉しく思います。久し振りのタイトル戦なので、楽しめるようにしっかり頑張っていきたいなと思います」と答えています。大技を交えた攻めが持ち味の両者によるタイトル戦が、熱戦になることを期待したいと思います。

霧島酒造杯女流王将戦は、囲碁・将棋チャンネルと日本将棋連盟が主催し、霧島酒造株式会社が協賛しています。棋譜等は下記公式サイトをご確認ください。


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