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女流ABEMAトーナメント2023決勝戦

3月25日、女流ABEMAトーナメント2023の決勝が放映されました。チーム伊藤「カメレオン」とチーム加藤「キングペンギン」の顔合わせとなっています。
※本稿は収録当時の呼称で記載させていただきます。

一局目:上田初美女流四段 vs 中村真梨花女流三段

幼い頃から何百局と指してきたという2人の対決となりました。先手の上田女流四段が中飛車に振り、玉を左に移動させて穴熊に囲うと、中村女流三段は三間飛車に振り美濃囲いに構えます。中村女流三段が△6四金~△5五銀と5筋の歩を取ると、上田女流四段は▲4七銀と上がって4筋の歩を支えます。中村女流三段は飛車を2筋に回して飛成を狙いますが、上田女流四段は構わず▲5六銀とぶつけます。中村女流三段が6筋の歩をぶつけて角の利きを止めると、上田女流四段は銀を交換してから▲8六角と覗いて角成を狙います。中村女流三段が△2七飛成と竜を作ると、上田女流四段も▲5三角成と馬を作ります。中村女流三段が6筋の歩を成り捨てて先手陣を乱してから△2九竜と桂を取ると、上田女流四段は▲6二歩~▲6一銀と攻め掛かります。中村女流三段が△5六金とタダ捨てして角道を通し、△7九竜と金を取り返すと、上田女流四段は▲5五歩と打って角道を止めます。中村女流三段はいったん竜を逃がして1筋の香を取りますが、上田女流四段は▲7二銀成から後手玉に迫り、飛車を6筋に寄せて攻撃参加させると、馬で金を食いちぎって寄せ切りました。
チーム伊藤:1勝 - チーム加藤:0勝

二局目:香川愛生女流四段 vs 渡部愛女流三段

チーム加藤は「キングペンギン!」の掛け声で渡部女流三段を送り出します。後手の香川女流四段が三間飛車に振り、上着を脱いで腕まくりしてから美濃囲いに構えると、渡部女流三段は左美濃に構えます。香川女流四段が石田流の好形を目指すと、渡部女流三段は4筋の歩を交換してから飛車を4筋に回し、銀をぶつけて交換します。香川女流四段が2分程の長考で△4三歩と打って飛成を防ぐと、渡部女流三段は▲8六角と覗き、▲7四歩~▲8五銀と後手の角を追います。香川女流四段が△6三銀~△7二金と組み替え、△7三歩と打って催促すると、渡部女流三段は▲7三歩成と踏み込みます。香川女流四段は△7三同桂と銀に当てますが、渡部女流三段が一度頭に手を当てて考えてから▲7四歩と打つと、香川女流四段は銀桂交換してから△7四銀と歩を取り角に当てます。渡部女流三段が構わず▲8六桂と攻め駒を足すと、残り5秒となった香川女流四段は取れる角を取らずに△8五銀と桂を食いちぎり、△7六歩と垂らして攻め合います。作戦会議室では上田女流四段が「ひぃー」と叫びますが、渡部女流三段が金の両取りに▲7一銀と打つと、香川女流四段は△7三銀と打って金銀交換で凌ぎます。渡部女流三段が王手角取りに▲7四桂と跳ねると、香川女流四段は角桂交換を甘受します。渡部女流三段が▲7四歩と垂らすと、香川女流四段は△6三桂と打って角を追い、銀を打って金と交換します。渡部女流三段は▲7三銀から後手玉に迫り、送りの手筋で▲6二角成と馬を作りますが、香川女流四段は△7二金と打って馬を追い、△8五桂から先手玉に迫ります。両者時間に追われての大激戦となりましたが、渡部女流三段が▲7二馬と詰めろを掛けて下駄を預けると、香川女流四段は△5七飛から即詰みに討ち取りました。
チーム伊藤:2勝 - チーム加藤:0勝

三局目:上田初美女流四段 vs 加藤桃子女流三段

チーム伊藤は相手のオーダーをリーダーと読み、リーダー対決を避けて上田女流四段を送り出します。先手の上田女流四段が四間飛車から向かい飛車に振り直して美濃囲いに構えると、加藤女流三段は角道を開けずに△3一角~△5三角と回して左美濃に構えます。上田女流四段は角道を開けますが、加藤女流三段が△4四角とぶつけると、銀を上がって角交換を避けます。加藤女流三段が8筋の歩を突き捨ててから6筋の歩を交換すると、上田女流四段は小刻みに時間を使って飛車の位置を変えます。加藤女流三段は7筋の歩も突き捨てて角取りに△6五桂と跳ね、上田女流四段が6筋に角をかわすと、△4四角と覗いて飛車に当てます。上田女流四段は5筋の歩をぶつけて角の利きを止め、加藤女流三段が△7五銀と前進すると、飛車を7筋に寄せて銀に当てます。加藤女流三段は桂を成り捨てて△8六飛と走り、△8七飛成~△7七歩成と飛角両取りに"と金"を作ります。上田女流四段は飛車を見捨てて角を交換し、▲5三桂成と飛び込みます。加藤女流三段が"と金"を寄せて△6九飛と打ち込むと、上田女流四段は成桂で金を剥がして攻め合います。加藤女流三段が竜を自陣に引いて守りを固めると、上田女流四段は飛金両取りに▲9六角と打ちます。加藤女流三段が金を成銀と交換してから飛車をかわし、△8五歩と打って角道を止めると、上田女流四段は▲3五桂と打ち、▲3二金~▲4三成銀~▲3二銀と後手玉に迫ります。まだ2分以上残している加藤女流三段は落ち着いて△2四金と打って先手の攻撃の拠点となっている桂を剥がし、△3六桂打の継ぎ桂から即詰みに討ち取りました。
チーム伊藤:2勝 - チーム加藤:1勝

四局目:伊藤沙恵女流名人 vs 中村真梨花女流三段

チーム伊藤はリーダーが満を持して登場します。先手の中村女流三段が三間飛車に振り金無双に構えると、伊藤女流名人は向かい飛車に振り相振り飛車の将棋となります。お互いに飛先の歩を交換して浮き飛車に構え、伊藤女流名人が△8四銀と出ると、中村女流三段は▲7四歩と打って拠点を作ります。中盤の難所に差し掛かり、伊藤女流名人が5筋の歩をぶつけると、中村女流三段も4筋の歩をぶつけて飛車で取らせ、▲5五銀と出て飛車を追ってから5筋の歩を飛車で取ります。伊藤女流名人が飛車を7筋に転回し、△7七飛成と桂を取って竜を作ると、時間に追われた中村女流三段は▲5三角成と銀を食いちぎり、▲6四銀打から攻め掛かります。伊藤女流名人が飛車取りに△7四角と打つと、中村女流三段は構わず▲5三銀右不成と踏み込みます。伊藤女流名人が飛角交換してから△7九竜と入って先手玉に迫ると、中村女流三段は▲2一角成と桂を取って馬を作り、後手の角を追って入玉を目指します。伊藤女流名人は先手陣の金銀を剥がすと、豊富な持ち駒で先手玉を包囲し即詰みに討ち取りました。
チーム伊藤:3勝 - チーム加藤:1勝

五局目:香川愛生女流四段 vs 渡部愛女流三段

両チームとも予想通り、二局目と同じ顔合わせになりました。先手の香川女流四段が中飛車に振り1筋の位を取ると、お互いに穴熊に囲います。香川女流四段が▲6五銀と出ると、渡部女流三段は8筋の歩を突き捨ててから△8四飛と浮きます。香川女流四段が飛車を8筋に回すと、渡部女流三段は△7三桂と跳ねて銀に当てます。香川女流四段は▲6六角と上がり、飛車を9筋に追ってから銀を引いてかわし、渡部女流三段が7筋の歩をぶつけると、▲8五歩と突きます。渡部女流三段は7筋の歩を取り込み、香川女流四段が8筋の歩を伸ばすと△9五飛と浮いて受け、作戦会議室では加藤女流三段が「へぇー、そんな手があるんだ」とつぶやきます。香川女流四段が1分以上考えて▲8三歩成と飛び込むと、渡部女流三段は△8五飛とぶつけ、"と金"で桂を取られますが飛交換して先に竜を作ります。香川女流四段が5筋に2枚目の"と金"を作って攻め込むと、渡部女流三段は△1六桂と打って攻め合います。香川女流四段が"と金"で金を剥がしてから角取りに▲3六桂と打つと、渡部女流三段は△2八桂成と銀を剥がしてから角をかわします。渡部女流三段が△7四歩と打って角を追うと、香川女流四段は時間に追われながら▲4二角成と銀を食いちぎり、▲5八飛と竜にぶつけます。渡部女流三段が飛車取りに△5七銀と打つと、香川女流四段も竜角両取りに▲4六銀と打ち返し、角銀交換の後に飛銀交換となります。香川女流四段は竜取りに▲7七角と打ち、後手玉を間接的に睨みますが、渡部女流三段は冷静に銀を打って角の利きを逸らし、△5八竜と入って先手玉に迫ります。香川女流四段は自陣に持ち駒を投じて粘りましたが、渡部女流三段は大駒で先手陣の金銀を剥がして即詰みに討ち取りました。
チーム伊藤:3勝 - チーム加藤:2勝

六局目:上田初美女流四段 vs 加藤桃子女流三段

両チームともオーダーに悩みつつ、三局目と同じ顔合わせになりました。先手の加藤女流三段が前局と同様に角道を開けずに駒組みを進めましたが、上田女流四段は居飛車を匂わせて牽制し、玉を上がらせてから四間飛車に振ります。上田女流四段が穴熊を目指すと、加藤女流三段はミレニアムに構えます。上田女流四段が1分程使って△4五銀と前進すると、加藤女流三段も1分程考えて▲7五角と飛び出します。上田女流四段が更に△5六銀と前進すると、加藤女流三段は銀取りに▲5八飛と回して5筋突破を狙います。上田女流四段が飛車と角で5三の地点を受けると、加藤女流三段は▲5四歩と合わせて角交換し、▲2二角と打ち込み香を取って馬を作ります。上田女流四段が取られそうな桂を△3三桂~△4五桂と跳ねると、加藤女流三段は馬で飛車を追い、同じ局面の繰り返しとなって千日手が成立しました。

千日手局は先後を入れ替え、残り時間は継続されるためお互いに20秒前後の持ち時間で始まります。先手の上田女流四段が四間飛車に振り美濃囲いに構えると、加藤女流三段は三局目と同様に引き角戦法で左美濃に囲います。加藤女流三段が8筋の歩を突き捨ててから7筋の歩を交換して角をぶつけると、上田女流四段は飛車を8筋に回して受け、角をかわしてから▲7七桂と跳ねて飛車先を守ります。早くも両者とも時間に追われる中、加藤女流三段が銀桂交換の駒損で8筋を突破すると、上田女流四段は角をぶつけて交換し、▲9六角と打って後手陣に睨みを利かせてから1筋の端攻めに勝負を賭けます。加藤女流三段が2枚の"と金"と成桂で先手陣の金と飛車を剥がすと、1筋を詰めた上田女流四段は▲2六桂から玉頭攻めを図ります。駒得となった加藤女流三段は△3五金と打って守りを固めますが、上田女流四段は▲1三歩成から後手玉に迫ります。加藤女流三段は先手からの攻撃をギリギリでかわすと、△1五香と1筋から反発して即詰みに討ち取りました。
チーム伊藤:3勝 - チーム加藤:3勝

七局目:香川愛生女流四段 vs 渡部愛女流三段

チーム伊藤は相手の読みを外しに香川女流四段を起用し、チーム加藤も対戦相手を変えようと渡部女流三段を送り出しますが、お互いの読みが外れて3回目の顔合わせとなりました。先手の香川女流四段が四間飛車から向かい飛車に振り直すと、渡部女流三段は穴熊を目指します。香川女流四段が▲2五桂と跳ねて角に当てると、渡部女流三段は△2四角とかわします。香川女流四段は▲5五銀とぶつけて金と交換し、▲4四角と飛び出しますが、渡部女流三段は△4三金と上がって角成を防ぎます。香川女流四段は▲2二角成と銀を食いちぎって穴熊を崩しますが、渡部女流三段は△6六角と飛車取りに打ち、△5七角成と馬を作ります。香川女流四段が金銀両取りに▲5五桂と打って金を剥がし、銀を歩で吊り上げてから銀取りに▲4三金と打つと、渡部女流三段は銀取りに△4五桂と打って攻め合います。香川女流四段は金で銀を取りますが、渡部女流三段は銀桂交換してから△4七歩成と"と金"を作ります。香川女流四段が▲3三銀と王手角取りに打ち込むと、渡部女流三段は玉を引き、角銀交換を甘受します。渡部女流三段は△3七"と"~△4七金と先手玉を追ってから△2四馬と銀を取り返しますが、香川女流四段は飛車取りに▲5五角と打ちます。渡部女流三段が構わず△1五歩と突いて詰めろを掛けると、香川女流四段は▲4三金と上がって角道を通して王手しますが届かず、渡部女流三段が即詰みに討ち取りました。
チーム伊藤:3勝 - チーム加藤:4勝

八局目:伊藤沙恵女流名人 vs 中村真梨花女流三段

後がなくなったチーム伊藤は「頑張ってぇー」とリーダを送り出し、四局目と同じ顔合わせになります。後手の伊藤女流名人が向かい飛車に振り、中村女流三段も三間飛車に振ります。中村女流三段が飛先の歩を交換し、お互いに矢倉のような陣形に構えます。ジリジリした中盤戦が続きましたが、伊藤女流名人が4筋の歩をぶつけて角道を通すと、中村女流三段は角交換に応じます。中村女流三段は7筋の金頭を歩で叩いて桂交換し、▲8五桂と金取りに打ちますが、伊藤女流名人は銀で桂を食いちぎり、飛銀両取りに△6七角と打ち込みます。中村女流三段は▲7四銀と捨ててから飛車を浮いてかわしますが、伊藤女流名人は馬を作って飛車を追います。中村女流三段が歩で後手陣の金銀を上ずらせ、飛車取りに角を打ち込んで▲3三角成と桂を取って馬を作ると、伊藤女流名人は馬を飛車と交換して△5九飛と打ち込み竜を作ります。中村女流三段が金取りに▲4一角と打ち込んで▲5四銀成と攻め込むと、伊藤女流名人は1筋に追いやられていた飛車を馬角両取りに4筋に回して馬と交換し、△8六歩と反撃します。中村女流三段は▲7九飛と自陣に打って後手の竜を引かせますが、伊藤女流名人は金取りに△6五桂と打って先手陣を崩します。中村女流三段は金取りに▲8六桂と打って後手玉に迫りましたが、伊藤女流名人は上部に脱出して入玉し、絶対に負けない形にしてから即詰みに討ち取りました。
チーム伊藤:4勝 - チーム加藤:4勝

九局目:伊藤沙恵女流名人 vs 加藤桃子女流三段

決勝戦に相応しくフルセットにもつれ込み、決着局は今大会負け知らずのリーダー同士の決戦となりました。改めて振り駒が行われ、先手となった伊藤女流名人が振り飛車も匂わせる立ち上がりから雁木に組んで右玉に構えると、加藤女流三段は銀矢倉を組みます。伊藤女流名人は6筋の位を取って飛車を6筋に回し、5筋と4筋の位も取ってから、角をぶつけて交換します。加藤女流三段は8筋の歩をぶつけますが、伊藤女流名人は飛金両取りに▲7一角と打ち、後手の飛車を5筋に回させます。時間に追われた伊藤女流名人は銀取りに▲2五桂と跳ね、加藤女流三段が角取りに△7二飛と回ると、銀桂交換してから▲2六角成と馬を作ります。加藤女流三段は△7四飛~△8四飛と飛車の活用を図りますが、伊藤女流名人は丁寧に応じて許しません。加藤女流三段が△7四桂~△7九角と飛車を追い、飛角交換して攻め込むと、伊藤女流名人は飛車取りに▲5一角と打って攻め合います。両者時間に追われる終盤戦となりましたが、加藤女流三段が△5九飛と打ち込み竜を作り、竜を取らせる代わりに馬を取ると、作戦会議室では渡部女流三段が「うゎ、うわぁー」と叫ぶ大熱戦となっています。加藤女流三段は攻防に△1五角と打ち、伊藤女流名人が▲2六歩と中合いすると、金で桂を食いちぎってから詰ませにいきます。伊藤女流名人は10連続王手を凌ぎ切り、▲4二"と"から即詰みに討ち取りました。
チーム伊藤:5勝 - チーム加藤:4勝

女流ABEMAトーナメント2023決勝戦の結果

チーム伊藤は、リーダーの伊藤女流名人が2試合で5戦全勝と大車輪の活躍でチームを優勝に導きました。上田女流四段は体調不良でエンディングを欠席するような状態だったようですが、香川女流四段とともに着実に白星を挙げて貢献しました。伊藤女流名人は個人戦だった第1回に続く2回目の優勝、香川女流四段も前回に続いて2大会連続優勝と、優勝候補の名に恥じないチーム力の高さを見せつけました。
チーム加藤は、リーダーの加藤女流三段と渡部女流三段が2勝ずつ挙げて意地を見せましたが、初出場の中村女流三段が決勝では白星に恵まれず、惜しくも準優勝となりました。勝っても負けても「キングペンギン!」と明るい掛け声でチームメイトを送り出す姿は、優勝してもおかしくない抜群の結束力の好チームだったと思います。
次回の女流ABEMAトーナメントでは、是非チーム数を増やして、より多くの女流棋士が参加できる大会にして欲しいと思います。

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