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「観る将」が観た第73期王将戦第二局

1月20-21日、第73期ALSOK杯王将戦七番勝負第二局が佐賀県三養基郡の大幸園で行われました。先勝した藤井聡太王将がリードを拡げるのか、菅井竜也八段が巻き返すのか、注目の一局となりました。

前夜祭では、藤井王将は「一手一手深く考え積極的な将棋を指したい」、菅井八段は「精一杯力を発揮していい将棋を指したい」と意気込みを語っています。


穴熊対ダイヤモンド美濃

窓から明るい光が射す対局室に菅井八段が藤色の着物と青灰色の袴に濃紺の羽織で入室すると、藤井王将は淡い萌黄色の着物と細い縦縞の袴に白い羽織で入室します。後手の菅井八段が三間飛車に振ると、藤井王将は穴熊を目指します。菅井王将はダイヤモンド美濃に組み、前局に続き持久戦模様の駒組みを進めます。

藤井王将の長考

菅井八段が3筋に桂を跳ねて石田流に構えてから7筋の歩を突くと、藤井王将は次の43手目を20分程考えて昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王将が6時間40分、菅井八段は6時間14分となっています。昼休が明けてからも考え続けた藤井王将は、100分の長考で7筋の歩をぶつけます。

菅井八段の長考

菅井八段も85分の長考の末に角を8筋に覗き、藤井王将が更に62分の長考で7筋の歩を取り込むと、4筋に桂を跳ねて反発します。藤井王将は8筋に角を上がり、菅井八段が銀で7筋の歩を取ると、▲6四角と王手で飛び出します。菅井八段が歩で角の利きを止めると、藤井王将は次の51手目を封じました。形勢は早くも先手に振れてきたようで、残り時間は藤井王将が3時間56分、菅井八段が4時間31分となっています。

藤井王将の竜と菅井八段の馬

藤井王将の封じ手は、最も自然な角を4筋に引く手でした。菅井八段が金を6筋に寄って引き締めると、藤井王将は8筋の歩と銀を押し出して後手の角に圧力を掛けます。菅井八段は飛車を6筋に回して攻撃態勢を整え、藤井王将が2筋に竜を作ると、4筋に馬を作って攻め合います。

藤井王将の垂れ歩

藤井王将が竜で香を取ると、菅井八段は馬で角を追ってから桂を取ります。藤井王将が7筋の銀頭を叩き、6筋に引かせてから4筋に歩を垂らすと、菅井八段は6筋の歩を突き捨て、次の76手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井王将の80%と大きく傾いていますが、人間的には評価値程の差はないように見えます。残り時間は藤井王将が2時間38分、菅井八段が2時間34分となっています。

藤井王将が角切りの強襲

昼休明け、菅井八段が飛車を3筋に戻して角に当てると、藤井王将は角を4筋に上がって飛車に当て返します。菅井八段は飛車を1つ浮いて角に当て返し、藤井王将が▲6二角成と金を食いちぎってから4筋に"と金"を作ると、馬を5筋に引いて先手陣を睨みます。

藤井王将の"と金"攻め

藤井王将は"と金"を5筋に寄せ、菅井八段が6筋に底歩を打つと、5筋に歩を垂らします。菅井八段はやむなく銀で取りますが、藤井王将の▲6五香が厳しく金取りに突き刺さります。菅井八段が3筋に底歩を打って竜の横利きを止めると、藤井王将は金香交換してから、"と金"を引いて銀を追い、▲1三竜と引いて"と金"に紐を付けます。

菅井八段の反撃

菅井八段が銀で"と金"を食いちぎり、△3七飛成と待望の竜を作ると、藤井王将は28分熟考し▲5二竜と潜って後手玉を間接的に睨みます。菅井八段は馬を引いて竜に当て、藤井王将が歩で竜を支えると、攻防に△3五角と打ちます。藤井王将が竜を一段目に潜ると、菅井八段は金取りに桂を打って反撃します。

歩頭金の寄せ

藤井王将は金を8筋に上がってかわし、菅井八段が桂を成ると、構わず歩頭に▲6二金と打って攻め掛かります。菅井八段は歩で金を取りますが、藤井王将は銀の王手で後手玉を端に追い、9筋の歩を突き捨ててから▲8五金と詰めろを掛けつつ馬に当てます。後手陣は受けが難しく、先手陣は金銀4枚の堅陣が健在で寄りがないため、菅井八段はここで投了を告げました。

まとめ

本局は菅井八段が穴熊ではなくダイヤモンド美濃に囲い、叡王戦から続く両者の相穴熊の将棋から変化しました。藤井王将が1日目の昼休を挟む長考で積極的に仕掛けたのに対し、菅井八段は封じ手前に桂を跳ねて反発した手を、終局後に敗着と断じて後悔することになりました。2日目はお互いに竜と馬を作って攻め合う形になりましたが、藤井王将は角を金と刺し違え、"と金"で銀を剥がして後手陣を崩し、菅井八段の反撃を許さず寄せ切りました。対局室にまだ日差しが残る15時台の終局となり、藤井王将としてはわずかなリードを着実に拡げる快勝だったと思います。
2連勝して防衛に向け一歩前進した藤井王将は、次局に向け「すぐにあるので、しっかり状態を整えて臨みたい」と付け入る隙を感じさせません。菅井八段は「島根県は昔から行っている場所なので少しでもいい将棋を指せるように頑張りたい」と話しており、地元近くの対局からの巻き返しに期待したいと思います。

ALSOK杯王将戦は、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟が主催し、ALSOKが特別協賛、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリー、富士フイルムが協賛しています。棋譜は公式サイトをご覧ください。

本稿は「王将戦における棋譜利用ガイドライン」に従い、利用許諾を得ています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ousho)

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