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女流ABEMAトーナメント2023 1回戦第一試合

3月11日、女流ABEMAトーナメント2023の1回戦第一試合が放映されました。チーム西山「ナチュラル」とチーム伊藤「カメレオン」の顔合わせとなっています。
※本稿は収録当時の呼称で記載させていただきます。

一局目:鈴木環那女流三段 vs 伊藤沙恵女流名人

チーム西山は初出場の鈴木女流三段が、チーム伊藤はリーダーが自ら先陣を切ります。振り駒で先手となった鈴木女流三段が雁木に、伊藤女流名人は左美濃に構えます。伊藤女流名人が右四間飛車にして6筋から仕掛けて銀交換すると、鈴木女流三段は2筋を継ぎ歩攻めで反撃します。鈴木女流三段は飛車取りに銀を打つと、伊藤女流名人も角と銀で飛車を追い、飛車と銀桂の交換になります。鈴木女流三段が飛車を後手陣に打ち込み、もう1枚の飛車を▲6二飛成と竜を作って攻め込むと、伊藤女流名人は金で自陣を補強し、更に△4五角と攻防に打って凌ぎます。鈴木女流三段が一転して1筋から端攻めし、取り合った香を▲3三香と打ち込むと、作戦会議室では西山女流二冠が「おっ打った!これは勝勢だと思う」と声を上げます。伊藤女流三段は1分半以上考えて残り10秒となり、5筋に香を打って凌ぎます。鈴木女流三段は竜で香を食いちぎって後手玉に迫りましたが、伊藤女流名人は冷静に△2九飛と王手桂取りに打って桂を剥がし、△6六桂から先手玉を寄せ切りました。
チーム西山:0勝 - チーム伊藤:1勝

二局目:山根ことみ女流二段 vs 香川愛生女流四段

チーム西山はジャンケンで勝った山根女流二段を送り出します。先手の香川女流四段が三間飛車、山根女流二段が向かい飛車と、相振り飛車の将棋となります。香川女流四段が上着を脱ぐと腕まくりして、8筋の歩を突き捨ててから▲7九角と引いて飛車に当てると、山根女流二段は飛車を浮いてかわし、角をぶつけて交換します。香川女流四段が5筋の歩を成り捨ててから▲6五桂と跳ねて金に当てると、山根女流二段は強く△6四金と出て先手の攻めを催促します。香川女流四段は飛車取りに角を打って馬を作り、5筋に歩を垂らして"と金"を作りますが、山根女流二段は3筋の歩を取り込んで、△5四角と打ちます。作戦会議室では上田女流四段が「なんだぁ!めっちゃ危ないけど」と叫び、香川女流四段は▲5四同馬から飛車で銀を食いちぎって攻め掛かります。山根女流二段は自陣に角を打って根性の粘りを見せましたが、香川女流四段は冷静に寄せ、最後は即詰みに討ち取りました。
チーム西山:0勝 - チーム伊藤:2勝

三局目:西山朋佳女流二冠 vs 上田初美女流四段

チーム伊藤は香川女流四段の連投も検討しましたが、全員がまず一局指すということで、前回のチームメイトの対決が実現しました。先手の西山女流二冠が三間飛車に振り美濃囲いに構えると、オールラウンダーの上田女流四段は慎重に時間を使って居飛車で応じ、天守閣美濃に囲います。西山女流二冠が4筋の位を取って桂取りに▲4六角と出ると、上田女流四段は△6四角とぶつけて交換します。上田女流四段は歩で先手陣を乱して△6九角と飛車取りに打ちますが、西山女流二冠は▲7三歩成と桂を取って"と金"を作ります。上田女流四段は△7六角と打って6筋突破を図りますが、西山女流二冠は飛車取りに▲4六角と打って何か所も駒がぶつかる難解な中盤戦となります。お互いに角を取り合い、銀で飛車を追った西山女流二冠は後手陣の金を1枚剥がしますが、上田女流四段も飛車で先手の"と金"を取ってバランスを保ちます。西山女流二冠が▲2四歩と取り込むと、上田女流四段は△2六歩と銀頭を叩いて先手陣を崩します。西山女流二冠は飛銀両取りに▲6二角と打ち込み飛角交換すると、王手角金銀取りに▲4三飛と打ち込み、金を取って詰めろを掛けて一気に寄せ切りました。
チーム西山:1勝 - チーム伊藤:2勝

四局目:西山朋佳女流二冠 vs 香川愛生女流四段

チーム西山はリーダーが連投し、チーム伊藤は悩んだ末に香川女流四段を送り出します。後手の西山女流二冠が四間飛車に振ると、香川女流四段は向かい飛車に振り、相振り飛車の将棋となります。香川女流四段が角道を通すと、西山女流二冠は角交換に応じ、3筋の継ぎ歩攻めで桂頭を狙います。香川女流四段が角を打って受けると、西山女流二冠も角を打って切り返し、飛車を犠牲に角を取ります。香川女流四段が竜を作って2枚目の飛車を▲3二飛と打ち込むと、西山女流二冠は歩で飛車の横利きを止めてから△1四角と飛車取りに打ちます。香川女流四段が▲6三銀とタダ捨てし、王手角取りで角を素抜くと、西山女流二冠は角で竜を取り、取った飛車をもう1枚の竜にぶつけて消しにいきます。香川女流四段が▲4五角と打って王手飛車を狙うと、西山女流二冠は飛車を取らせる代わりに先手陣の金を1枚剥がします。香川女流四段が竜で銀を食いちぎって攻め込むと、西山女流二冠は△7六角の王手から△4九飛と打って詰めろを掛けます。香川女流四段は王手で銀を打って金と交換し、取った金を自陣に投じて凌ぎます。両者時間に追われる中での激闘となりましたが、大きく駒損した香川女流四段の攻めを切らした西山女流二冠が寄せ切りました。
チーム西山:2勝 - チーム伊藤:2勝

五局目:山根ことみ女流二段 vs 上田初美女流四段

チーム伊藤は上田女流四段が後手番でやってみたい作戦があると言って出陣し、いきなり6筋の歩を突いて右四間飛車を採用します。山根女流二段が雁木に構えると、上田女流四段は向かい飛車に振り直して撹乱します。じっくりした駒組みの末、山根女流二段が地下鉄飛車を通して飛車を8筋に回すと、上田女流四段は銀冠に組み替えて受けます。8筋で桂交換した後、山根女流二段が4筋の位を取ると、上田女流四段は飛車を6筋に回して打開を図ります。山根女流二段が▲3五角と飛び出し4筋の歩を伸ばすと、上田女流四段は6筋から反発し△5四桂から銀桂交換します。山根女流二段が4筋に"と金"を作って攻め合うと、作戦会議室では鈴木女流三段が「西山さんを見習って迫力を大事にしてるぞ」とつぶやきます。上田女流四段が残り2秒まで考えて角で桂を食いちぎり、△6四桂から△5六歩と攻めをつなぐと、やや優勢になったと思われた山根女流二段は▲5八歩と受けますが、打った瞬間「あっすみません」と声を上げます。何とこれが痛恨の二歩となり、悔しい反則負けとなりました。
チーム西山:2勝 - チーム伊藤:3勝

六局目:鈴木環那女流三段 vs 上田初美女流四段

チーム西山はうなだれる山根女流二段を「大丈夫、大丈夫」と励まし、鈴木女流三段が明るい笑顔で出陣します。幼い頃から切磋琢磨してきたという2人の対決は、先手の上田女流四段が四間飛車に振り、相穴熊の将棋となります。両者とも時間を6分以上に増やしましたが、上田女流四段は少し時間を使って4筋の歩を突き捨て、角を交換して▲5三角と打ち込みます。鈴木女流三段は8筋の歩をぶつけますが、上田女流四段は馬を作って飛車を追います。鈴木女流三段が飛車を馬にぶつけると、上田女流四段は飛馬交換に応じ、▲8一飛と香取りに打ちます。鈴木女流三段がノータイムで金取りに△1四角と打って馬を作ると、上田女流四段も香を取って竜を作ります。鈴木女流三段が馬を飛車と交換して再度△4七角成と馬を作ると、上田女流四段は▲6四角と打って反撃します。両者とも相手陣の金銀を削り合う寄せ合いとなりましたが、「この将棋だけは絶対に勝たなきゃいけない」と丁寧に指し続けた鈴木女流三段が寄せ切りました。
チーム西山:3勝 - チーム伊藤:3勝

七局目:山根ことみ女流二段 vs 伊藤沙恵女流名人

チーム西山は「伸び伸び指してきて」と山根女流二段を送り出します。先手の山根女流二段は雁木を匂わせる序盤から、伊藤女流名人が居飛車を選択したのを見て向かい飛車に振ります。伊藤女流名人は左美濃に構えると、角を飛車と交換しますが、山根女流二段は▲4六角と出て後手の飛車のコビンを狙います。伊藤女流名人が△6九飛と打ち込むと、山根女流二段は
▲4八角と自陣に打って銀に紐を付けます。伊藤女流名人が竜を作って角取りに△5五銀と出ると、山根女流二段は角銀交換に応じます。伊藤女流名人は更に△5七銀と角金両取りに打ち、2枚の角を持ち駒にします。苦しくなってきた山根女流二段が▲4三歩と垂らすと、作戦会議室では西山女流二冠が「おーぉ、良さげな手ですね」とつぶやきます。伊藤女流名人が飛車を引いて受けると、山根女流二段は銀で金を1枚剥がします。伊藤女流名人は△7七角~△7四角と2枚の角を打ち、角で銀を食いちぎると、もう1枚の角を△6六角成と馬にしてから歩を食いちぎり、鮮やかに寄せ切りました。
チーム西山:3勝 - チーム伊藤:4勝

八局目:鈴木環那女流三段 vs 香川愛生女流四段

後がなくなったチーム西山ですが、まだ見ていない組み合わせを狙って鈴木女流三段を送り出します。先手の香川女流四段が四間飛車から三間飛車に振り直すと、鈴木女流三段は角を交換します。香川女流四段が斜め上に視線を送り少し考えて▲9六角と端角を放つと、鈴木女流三段も激しく体を前後に揺らして考え△5四角と応じて飛車に当てます。香川女流四段が飛車を5筋にかわすと、鈴木女流三段は7筋の歩をぶつけます。香川女流四段は桂を8筋に跳ね、鈴木女流三段が7筋の歩を取り込むと、▲7四歩と垂らします。鈴木女流三段は飛車を浮いて受けますが、香川女流四段は飛車を8筋に回して突破します。鈴木女流三段は飛車をぶつけて竜を消しますが、香川女流四段は"と金"を作って攻め込みます。苦しくなってきた鈴木女流三段は△3五桂で先手の玉頭を攻め、1筋の端攻めで嫌味を付けますが、香川女流四段は丁寧に応じて隙を作りません。最後は香川女流四段が▲4一角成~▲3二馬と金を食いちぎり、鮮やかな即詰みに討ち取りました。
チーム西山:3勝 - チーム伊藤:5勝

1回戦第一試合の結果

チーム伊藤は、リーダーが2戦2勝とチームを牽引しました。香川女流四段も気迫を前面に押し出しながら華麗な技を連発して2勝し、上田女流四段も落ち着いた差し回しで1勝と、メンバー全員が白星を計算できる層の厚さを見せつけました。リーダーの伊藤女流名人は「チーム西山に勝てて自信にはなりましたが、倒したからには優勝しなければいけないという責任もあると思うので、3人で全力で頑張りたい」と意気込みを語りましたが、優勝候補が順当に決勝に駒を進めたと思います。
チーム西山は、リーダーが連投で2連勝して意地を見せましたが、山根女流二段が痛恨のアクシデントもあり、この日は白星に恵まれませんでした。鈴木女流三段は初出場とは思えない時間の使い方を見せ、周到な事前準備を感じさせましたが、決着局では惜しくも力尽きました。リーダの西山女流二冠は、前日に「どんな結果であっても、良い思い出になると思います」とメッセージを送ったそうですが、意気に感じた鈴木女流三段がチームの苦境にもメンバーを励まし、明るい雰囲気作りに努めた姿が印象的でした。

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