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「観る将」が観た第13期女流王座戦第四局

12月11日、リコー杯第13期女流王座戦五番勝負第四局が東京の将棋会館で行われました。防衛まであと1勝としている里見香奈女流王座が決着を付けるのか、1勝を返した加藤桃子女流四段がフルセットに持ち込むのか、注目の一局となりました。


中飛車対居飛車穴熊

加藤女流四段が紫色のワンピースに濃紺のジャケットを着て入室し、桃色のひざ掛けをして姿勢を正すと、里見女流王座は白いスーツ姿で入室します。先手の加藤女流四段は初手に▲4八銀と上がり、里見女流王座が中飛車に振ると、超速▲3七銀戦法から銀対抗の形に構えて穴熊を目指します。里見女流王座は9筋の歩を突き合ってから高美濃に囲い、加藤女流四段が▲2六角と転回すると、△3三桂と左桂の活用を図ります。

加藤女流四段が金損の仕掛け

加藤女流四段が20分の熟考で3筋の歩をぶつけて仕掛けると、里見女流王座は銀交換に応じて△5四飛と浮きます。加藤女流四段は▲3八飛と寄せ、里見女流王座が△3四飛と回すと、26分の熟考で▲7一角成と王手で捨てて飛車を取ります。里見女流王座は飛金両取りに△4五角と打ち、加藤女流四段が▲3八飛と引いてかわすと、△6七角成と金を取って馬を作ります。

早くも勝負所

加藤女流王座が金取りに▲5二銀と打ち込むと、次の60手目を里見女流王座が考慮中に昼休となりました。駒割りは角金と飛車の交換で、馬も作っている里見女流王座が指し易いように見えます。各3時間の持ち時間の内、残り時間は里見女流王座が2時間20分、加藤女流四段が2時間0分となっています。

角を見捨てて"と金"作り

里見女流王座が昼休を挟む25分の熟考で△3七歩と飛頭を叩くと、飛車で取ると後手の角がさばけそうなので、加藤女流四段は桂で取ります。里見女流王座は19分考えて△6二金引とかわし、加藤女流四段が▲4三銀成と角に当てると、更に20分熟考して角を見捨てて△5六歩と伸ばします。加藤女流四段が成銀で角を取ると、里見女流王座は△5七歩成と"と金"を作ります。

里見女流王座の踏み込み

加藤女流四段は攻防に▲3五角と打ち、里見女流王座が△6八銀と攻め駒を足すと、▲3一飛と打ち込みます。里見女流王座はいったん△5三歩と角の利きを緩和し、加藤女流四段が▲5四歩と合わせると、39分の長考で残り1時間を切り、△7九銀成と金を剥がして踏み込みます。里見女流王座が取った金を△6八金と打ち込み、金銀交換して詰めろを掛けると、加藤女流四段はやむなく飛車で"と金"を食いちぎります。里見女流王座は△7七銀と攻め駒を足し、加藤女流四段が▲7九金と受けると、飛角と馬銀を交換します。

穴熊の再生

里見女流王座は攻防に△5九飛と打ち込み、35分の長考で残り30分となった加藤女流四段が▲5三歩成と成り捨てると、△5三同飛成と竜を作ります。加藤女流四段は▲4六角と打って金に紐を付けつつ後手玉を睨み、里見女流王座が△5九竜と潜ると、▲8八銀と埋めます。里見女流王座が△5七歩と垂らし、角で取らせてから△5六角と打って詰めろを掛けると、加藤女流四段は▲7九銀打と穴熊を再生します。加藤女流四段が決め手を与えず、形勢は混沌としてきたようです。

一瞬の隙

里見女流王座が△6七金と打つと、加藤女流四段はノータイムで▲3五角とかわしつつ先手玉を睨みます。ここでは先に金交換してからかわした方が良かったようで、里見女流王座が△6八金と取ると、加藤女流王座は同角と戻します。里見女流王座は△7八金と捨てる代わりに△6八竜と角を取り、加藤女流四段が▲7九金と受けると、△7八竜から金銀との2枚替えで穴熊を崩します。形勢は里見女流王座に大きく傾いたようです。

手堅い受け

加藤女流四段は▲7九金と持ち駒を投じて粘りますが、里見女流王座は同馬と食いちぎり、飛銀両取りに△1三角と打ちます。加藤女流四段が▲7一飛成と金を食いちぎって王手し、▲6九金と打って銀に紐を付けると、里見女流王座は手堅く△6一金と打って守りを固めます。加藤女流四段は▲4一飛と打ち込み、里見女流王座が金取りに△5八銀と打つと、▲7八金とかわします。里見女流王座は△6七銀成と追撃し、加藤女流四段が攻防に▲3四角と打つと、成銀を金と交換してから角取りに△5四飛と打ちます。

長手数の即詰み

加藤女流四段は▲2三角成とかわすしかありませんが、自玉が安全になった里見女流王座は△7九角成と馬を作って詰めろを掛けます。加藤女流四段が△8八銀と埋めると、里見女流王座は同馬と食いちぎって△6八金と後手玉に迫ります。加藤女流四段は▲5六歩と打って飛車の利きを止め、里見女流王座が△7九銀と先手玉を追ってから△4四飛と詰めろを続けると、▲6五歩と突いて玉の退路を拡げます。里見女流王座は△4七飛成から連続王手で迫り、そのまま長手数の即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は加藤女流四段が穴熊の堅陣を頼りに金損の仕掛けに踏み込み、里見女流王座も角を見捨てて"と金"を作って攻め合いました。加藤女流四段は穴熊を再生して互角の形勢が続きましたが、里見女流王座は一瞬の隙を逃さず穴熊を崩し、手堅く自玉の安全を確保してから寄せ切りました。

本シリーズの総括

里見女流王座は3勝1敗で防衛となり、女流王座3連覇を果たしました。対局直後のインタビューでは「今期は勝負どころで間違えることが多かったので、課題の残るシリーズだったと思います」と振り返っています。本局も含め、堅実な受けが光る内容だったように思います。
加藤女流四段は2期連続の挑戦も実らず、クイーン王座獲得はお預けとなりました。対局後には「内容が良かった将棋もあれば本局のようなあまり良くない将棋もあって、もっと勉強してまた戻ってきたいです」と話しています。来期もまた挑戦者として戻ってくることを期待したいと思います。

リコー杯女流王座戦は、株式会社リコーと日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。


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