12月23日に、銀河戦決勝トーナメント決勝が無料プレミアで公開されました。連覇を目指す藤井聡太銀河に挑むのは、丸山忠久九段です。

藤井銀河は本戦Hブロックの最終勝残者として決勝トーナメントに進み、1回戦で斎藤(明)五段、2回戦で千田七段、準決勝で杉本(和)五段を降しています。
丸山九段は羽生世代の一員で、名人2期・棋王1期を誇る強豪です。今期は本戦Dブロックの最終勝残者として決勝トーナメントに進み、1回戦で矢倉七段、2回戦で渡辺(明)九段、準決勝で永瀬九段を破っています。

両者の対戦成績は1勝1敗で、2020年の第33期竜王戦決勝トーナメントでは、二冠を制して更に竜王挑戦を目指す藤井銀河を、丸山九段が千日手指し直しの末に一手損角換わりで降して健在を示しています。

角換わり相腰掛け銀で藤井銀河が右玉

振り駒で先手となった丸山九段が角換わりに誘導し、お互いに相腰掛け銀の駒組みを進めます。藤井銀河が△6三金～△6二玉と右玉に構えると、丸山九段は▲8八玉と入城し、飛車を5筋に回します。藤井銀河が力強く△5五銀と出ると、丸山九段は少し時間を使って4筋の歩を突き捨ててから、2筋の歩もぶつけます。

お互いに時間を使う中盤の難所

藤井銀河は銀で取り、丸山九段が▲4五桂と跳ねると、8筋の歩をぶつけます。丸山九段が少し時間を使って銀で取ると、藤井銀河も少し時間を使って6筋の歩をぶつけます。丸山九段が▲5六銀と出ると、藤井銀河は銀交換に応じて持ち時間を使い切り、更に考慮時間を2回使う長考で△5四銀と桂取りに打ちます。

丸山九段が後手の玉頭から圧力

丸山九段は▲4三歩と金頭を叩き、藤井銀河が△5二金と寄ってかわすと、▲5三桂成と踏み込みます。藤井銀河が△5三同金寄と取ると、持ち時間を使い切った丸山九段は5筋の歩を伸ばして銀に当てます。藤井銀河は考慮時間を1回使って△6三銀と引いてかわし、丸山九段が▲5四銀と畳み掛けると、遊んでいた銀を△3三銀と引いて守りに利かせます。ほぼ互角の範囲で揺れていたAIの評価値は、丸山九段の66％と傾いてきました。

後手の玉頭を巡る攻防

丸山九段が考慮時間を1回使って▲5三銀成と金銀交換し、取った金を▲5四金と打つと、藤井銀河は△5二歩と打って金を支えます。丸山九段が▲6三金と銀と交換し、取った銀を▲5四銀と打つと、藤井銀河は考慮時間を2回使って△5四同金と金銀交換に応じます。

自陣角の睨み

藤井銀河は△6三金と補強し、丸山九段が▲3七角と打って自陣から後手陣を睨むと、△4四角と攻防の要所に据えます。丸山九段は慎重に考慮時間を2回使って▲5五金と打って角を捕獲し、藤井銀河が△8四桂と反撃すると、▲7七銀と引いて7筋の歩を支えます。AIの評価値はほぼ互角に戻っています。

藤井銀河の反撃

藤井銀河は考慮時間を1回使って7筋の歩をぶつけますが、丸山九段は構わず▲4二歩成と飛び込みます。藤井銀河が7筋の歩を取り込むと、丸山九段は考慮時間を1回使って▲8六銀とかわします。藤井銀河は△5五角と金を食いちぎり、更に考慮時間を2回使って△4二銀と"と金"を取りますが、AIの評価値は丸山九段の99％と大きく傾きました。

歩で金を捕獲

丸山九段は▲7四歩と桂頭を叩き、藤井銀河が金で取ると、更に▲7五歩と金を捕獲します。受けが難しくなった藤井銀河が天を仰いで首を振り、最後の考慮時間を使って△7七銀と王手で打ち込み銀桂交換すると、丸山九段は力強く▲7七同玉と取ります。藤井銀河は△7六銀と王手しますが、丸山九段が玉を6筋に引いてかわすと、先手玉は右辺が広くて寄せはなく、潔く投了を告げました。

まとめ

本局は角換わり相腰掛け銀の将棋となり、藤井銀河は右玉に構えました。丸山九段は飛車を5筋に回し、藤井銀河が積極的に銀を中央に繰り出すと、強く反発して後手の玉頭から攻め掛かり、わずかに優勢となりました。藤井銀河は懸命に凌いで一時は形勢を互角に戻しましたが、反撃にいつもの切れがなく、決断良く応じた丸山九段が考慮時間を4回残しての快勝となりました。
丸山九段は意外なことに、53歳にして銀河戦初優勝となりました。銀河戦史上最年長優勝になるそうです。そして何より、全八冠を制覇して無敵の勢いで勝ち続ける藤井銀河を倒しての優勝には大きな価値があると思います。表彰式では「一度は優勝したいなという気持ちはあったんですけど、年齢的にも正直できるかどうかわかりませんでした」と挨拶していましたが、今後も益々の活躍を期待したいと思います。
藤井銀河は八冠制覇後初めての黒星で、惜しくも銀河戦の連覇、および2年連続の一般棋戦完全制覇を逃しました。年明けには王将戦七番勝負や朝日杯がありますので、万全の体調で素晴らしい将棋を魅せてくれることを楽しみにしています。