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「観る将」が観た第49期女流名人戦第四局

2月24日に東京の将棋会館で、岡田美術館杯女流名人戦五番勝負第四局が行われました。連敗スタートから1つ返した伊藤沙恵女流名人がタイスコアに戻すのか、西山朋佳女流二冠が奪取に成功するのか、注目の一局となっています。

女流名人の居飛車穴熊

先手の西山女流二冠が初手で三間飛車に振り美濃囲いに構えると、伊藤女流名人は左美濃から銀冠への組み換えを目指します。伊藤女流名人が6筋の歩を突くと、西山女流二冠は四間飛車に振り直します。持久戦模様となり、西山女流二冠が高美濃に組み替えると、伊藤女流名人は1筋の香を上がって穴熊を目指します。

挑戦者の仕掛け

西山女流二冠が2筋の歩をぶつけて仕掛けると、伊藤女流名人は8筋の歩を突き捨てます。次の46手目を伊藤女流名人が考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は伊藤女流名人が2時間9分、西山女流二冠が2時間16分となっています。

金の進軍

伊藤女流名人が昼休を挟む12分の考慮で玉を潜ると、西山女流二冠は3筋の歩をぶつけます。伊藤女流名人が2筋の歩を取ると、西山女流二冠は力強く▲3六金と前進して攻撃陣を増強します。伊藤女流名人は右金を4筋に寄せて守りを固めますが、西山女流二冠は更に▲2五金と出て後手陣に圧力を掛けます。伊藤女流名人は金頭に歩を打って受けますが、西山女流二冠は▲3四金と出て角にぶつけます。

挑戦者の長考

伊藤女流名人は銀を金と交換してから△2二角と引きますが、西山女流二冠は50分の長考で1筋の歩を突き捨て、▲1三歩と打って香を吊り上げます。西山女流二冠は▲3五銀と出て攻めをつなぎますが、伊藤女流名人は△3六歩と桂頭を叩いて攻め合います。

女流名人の手厚い守り

西山女流二冠は▲2三歩と角頭を叩き、金で取らせてから▲2五歩と合わせます。伊藤女流名人は△1四金と打って手厚く守りますが、西山女流二冠は2筋の歩を取り込んで金銀交換し、▲2五歩と金頭を叩きます。伊藤女流名人が△3七歩成と桂を取ってから金で歩を取ると、西山女流二冠は▲2三銀と詰めろ角取りに打ちます。

後手玉を睨む挑戦者の角

伊藤女流名人が△1二銀と打って詰めろを逃れると、西山女流二冠は角銀交換してから6筋の歩を突き、角の利きを通して王手します。伊藤女流名人が3筋に歩を打って受けると、西山女流二冠は3筋の歩を成り捨ててから▲3四歩と桂頭を叩きます。伊藤女流名人が△4五銀と出て3筋の守りを補強すると、西山女流二冠は桂を取り、▲5七桂と打って銀に当てます。

女流名人の凌ぎ

伊藤女流名人が3筋に銀を引いて守りを固めると、西山女流二冠は▲5一角と打ち込みます。伊藤女流名人は4筋の歩を突いて先手の角の利きを緩和しますが、西山女流二冠は▲7三角成と桂を取りつつ馬を作って飛車に当てます。伊藤女流名人が飛車を3筋に回して守りに利かせると後手陣は固く、駒割りは角桂と銀の交換で先手の駒得となっていますが、形勢はほぼ互角のようです。

女流名人の反撃と挑戦者の歩頭桂

先手からの猛攻を凌いだ伊藤女流名人が3筋の銀頭を叩いてから△3五銀と前進してぶつけると、西山女流二冠は力強く▲4七玉と上がって受けます。伊藤女流名人が銀を交換してから、5筋の歩を突いて先手玉の上部脱出を防ぐと、西山女流二冠は▲4五桂と歩頭に跳ね、自玉の退路を拡げつつ金に当てます。

女流名人の上部脱出

伊藤女流名人は歩で桂を取って王手しますが、西山女流二冠は5筋の空いたスペースに玉を引いてかわします。桂を取ったことで再び先手の角の利きが厳しくなり、伊藤女流名人は△2三玉と上がって角のラインから外しながら入玉も匂わせます。西山女流二冠は▲1七桂と打って金に当て、伊藤女流名人が金を3筋にかわすと、▲2五歩と打って後手玉の上部を押さえます。

挑戦者の左辺脱出

伊藤女流名人が5筋の歩を突いて角の利きを止めると、西山女流二冠は▲5一馬と入って攻め込みます。伊藤女流名人は残り時間が30分を切り、△4六金と王手で寄って攻め合います。伊藤女流名人は金で先手玉を7筋まで追ってから、△3四玉と自玉の上部脱出を図ると、西山女流二冠は▲2四銀と打って防ぎます。

難解な中盤戦

伊藤女流名人が△4四銀と打って玉頭を守ると、西山女流二冠は飛車取りに▲4二金と打ちます。伊藤女流名人が構わず4筋の歩を突いて上部への脱出を図ると、西山女流二冠も残り時間が30分を切り、飛金交換してから金取りに▲6二飛と打ち込みます。難解な中盤戦となり、一手毎に形勢が入れ替わる大熱戦になっています。

金銀6枚の護衛

伊藤女流名人が銀を打って金に紐を付けると、西山女流二冠は馬を寄って2枚替えを狙います。伊藤女流名人が1筋の銀を引いて更に紐を付けると、西山女流二冠は▲6四飛成と竜を作ります。伊藤女流名人が△5四金と打って竜に当て、金銀6枚に守られて入玉を目指すと、西山女流二冠はいったん▲6三竜とかわします。

歩の痛打

伊藤女流名人が△4五玉と上がると、西山女流二冠は3筋の金取りに歩を打ちます。この歩を取っても金をかわしても金銀の連結が切れて先手の攻めが加速するので、伊藤女流名人は△4七歩成と入玉の拠点を築きますが、西山女流二冠は金を取って"と金"を作ります。伊藤女流名人は残り10分を切り、△5三金と引いて竜に当てますが、西山女流二冠は"と金"を引いて銀に当てます。両者の間を揺れていた形勢は、西山女流二冠に大きく傾いてきたようです。

飛車を追う女流名人

伊藤女流名人は一転して6筋の飛頭を歩で叩き、西山女流二冠が1筋にかわすと、△2六桂と打って追撃します。西山女流二冠が2筋にかわすと、伊藤女流名人は△3八桂成と成り捨て、金で取らせてから△6三金と竜を取ります。西山女流二冠が▲4七金と"と金"を食いちぎり、飛車の横利きを通してから▲4三"と"と銀を取ると、伊藤女流名人は△4六玉と上がって入玉に望みを託します。西山女流二冠が"と金"でもう1枚銀を剥がすと、伊藤女流名人は飛車に当てて△3八金打と上部を開拓します。

激闘の終焉

西山女流二冠は▲3五銀と王手し、▲3九銀と打って上下から後手玉を挟んで追い詰めます。伊藤女流名人は△4八飛と王手で打ち、銀で取らせて粘りますが、ついに後手玉には即詰みが生じたようです。西山女流二冠が金のタダ捨てから飛車で王手を続けると、伊藤女流名人は駒台に手をかざして投了を告げました。

まとめ

本局は西山女流二冠が金を突撃して後手陣の銀を剥がして主導権を握り、攻め続けることで渡した金を守りに使わせ後手の攻撃力を削ぎました。伊藤女流名人は強靭な受けで先手の攻めを凌ぐと、上部脱出して逃げ切りを目指しました。西山女流二冠は後手陣に生じた一瞬の隙を逃さず、痛烈な歩打ちから金駒を補充し、後手玉に入玉を許したものの即詰みに討ち取りました。両者が持ち味を存分に発揮し、終盤までどちらに転ぶかわからない名局だったと思います。
西山女流二冠は3勝1敗となり、初めて参戦した女流名人戦でタイトル奪取を果たしました。終局後のインタビューで今後の抱負を聞かれ「目の前の1局1局を大事に、今後もやっていきたいなと思っています」と言葉少なに話しましたが、更にタイトルを増やして自身最高の四冠、五冠を目指して欲しいと期待しています。
伊藤女流名人は前期に初めて獲得したタイトルを、残念ながら1期で手放すこととなりました。終局後には「1年で失ってしまうのは悔しいといえば悔しいですけど、自分なりに一生懸命やった結果ですので、しっかりと受け止めてまた前を向いて歩いて行きたい」と話しており、再び二強を切り崩す機会が訪れることを楽しみにしたいと思います。

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