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2023年度将棋大賞 升田幸三賞・名局賞予想

将棋界では年度毎に将棋大賞の表彰があります。2023年度も年度末を迎えるにあたり、観る将の観点から、升田幸三賞と名局賞の予想をしておきたいと思います。私はタイトル戦や藤井竜王名人の将棋を中心に観ているので、それ以外の将棋が予想から漏れてしまうことをご了承ください。日本将棋連盟では、「第30回升田幸三賞・第18回名局賞 投票受付開始!」と一般からの投票も受け付けていますので、みなさまもこの1年を振り返り、これはと思う一手や名局があれば参加されてみてはいかがでしょうか。

応募〆切:3月31日 23時59分


過去5年の受賞者

2022年度
升田幸三賞:嬉野宏明 「嬉野流」
升田幸三賞特別賞:該当なし
名局賞:第72期王将戦七番勝負第2局  ●藤井聡太 ○羽生善治
名局賞特別賞:第16回朝日杯本戦2回戦 〇藤井聡太 ●増田康宏

2021年度
升田幸三賞:千田翔太「△3三金型早繰り銀」
升田幸三賞特別賞:田中寅彦「居飛車穴熊や飛車先不突矢倉などの序盤戦術」
名局賞:第34期竜王戦七番勝負第4局 ●豊島将之 ○藤井聡太
名局賞特別賞:該当なし

2020年度
升田幸三賞:大橋貴洸「耀龍四間飛車」
升田幸三賞特別賞:藤井聡太「第91期棋聖戦五番勝負第2局、対渡辺明戦の△3一銀」
名局賞:第91期棋聖戦五番勝負第1局 ○藤井聡太 ●渡辺明
名局賞特別賞:第34期竜王戦ランキング戦2組準決勝 ○藤井聡太 ●松尾歩

2019年度
升田幸三賞 elmo「elmo囲い」
升田幸三賞特別賞 脇謙二「脇システム」
名局賞:第60期王位戦七番勝負第7局 ●豊島将之 ○木村一基
名局賞特別賞:第69回王将戦挑戦者決定リーグ7回戦 ●藤井聡太 ○広瀬章人

2018年度
升田幸三賞:藤井聡太 「第31期竜王戦5組ランキング戦決勝、対石田直裕戦の△7七同飛成」
升田幸三賞特別賞:丸山忠久「一手損角換わりをはじめとした角換わりの研究」
名局賞:第76期名人戦七番勝負第1局 ○羽生善治 ●佐藤天彦
名局賞特別賞:第45期女流名人戦女流名人リーグ ●渡部愛 ○上田初美

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

升田幸三賞・升田幸三賞特別賞の予想

升田幸三賞は、日本将棋連盟の投票受付ページによれば「主にその年度において注目された斬新な発想による戦法・戦術が対象、また感動を与えた新手や妙手なども対象とします」となっています。

村田システム
今年度話題になった戦法としては、村田顕弘六段が王座戦挑決トーナメントで藤井竜王名人を苦しめた村田システム(および新村田システム)しか思い浮かびません。この一局は名局賞候補にも挙げたいと思います。

「感動を与えた新手や妙手」という意味では、下記名局賞候補の中から選ばれる可能性もあります。印象的な手については、符号も添えて予想していきます。

名局賞・名局賞特別賞の予想

私の印象に残った名局を時系列で並べてみます。

第8期叡王戦五番勝負第三局 〇藤井聡太竜王 ●菅井竜也八段
両者1勝1敗で迎えた本局は、菅井八段が優勢となり猛攻を仕掛けましたが、藤井竜王は敵陣に放った守りの角で凌ぎ切り防衛に大きく近づきました。

第81期名人戦七番勝負第五局 〇藤井聡太竜王 ●渡辺明名人
中盤までやや苦しい状況が続いた藤井竜王が、2枚の角を攻防に利かせて局面を複雑化し、飛車を捕獲して鮮やかに寄せ切りました。最年少名人誕生の歴史的な一局は、両者が死力を尽くした名局でした。

第71期王座戦挑決トーナメント2回戦 ●村田顕弘六段 〇藤井聡太竜王名人
新村田システムを採用した村田六段が、絶対王者の八冠達成を阻止するかと思われた大激戦でした。絶体絶命と思われた藤井竜王名人が終盤に放った△6四銀は、多くのプロも気付かなかった今年度最高の名手だったと思います。

第94期棋聖戦五番勝負第二局 〇佐々木大地七段 ●藤井聡太棋聖
終盤まで形勢が二転三転する熱戦となり、藤井棋聖が竜切りの大技で勝負を決めたかに見えましたが、佐々木七段が▲5五角という渾身の返し技でタイトル戦初勝利を掴み取りました。

第71期王座戦挑戦者決定戦 〇藤井聡太竜王名人 ●豊島将之九段
藤井竜王名人が先攻して優勢となり、豊島九段が玉を中段に逃れて逆転する熱戦となりました。両者1分将棋となってからも50手以上激戦が続きましたが、最後は藤井竜王名人が王手を続けながら自玉の詰めろを逃れて挑戦権を獲得しました。

第64期王位戦七番勝負第五局 〇藤井聡太王位 ●佐々木大地七段
終盤まで難解な局面が続く中、藤井王位が▲2四歩と垂らした一手は、AI的には評価値を落としましたが、実質的に王位防衛を決める一着となりました。

第71期王座戦五番勝負第四局 ●永瀬拓矢王座 〇藤井聡太竜王名人
永瀬王座が周到に準備した研究将棋でリードを奪い、評価値99%とフルセットに持ち込んだかと思われました。藤井竜王名人は最終盤の永瀬王座の痛恨の一手を見逃さず、全八冠制覇という偉業を達成した歴史的な一局となりました。

第36期竜王戦七番勝負第四局 〇藤井聡太竜王 ●伊藤匠七段
激しく駒を取り合う華々しい攻防となり、伊藤七段がわずかに優勢の局面もありましたが、最後は藤井竜王が詰将棋の様に美しい即詰みで防衛となりました。

第49期棋王戦五番勝負第二局 ●伊藤匠七段 〇藤井聡太棋王
第一局を持将棋に持ち込んだ伊藤七段が、深い研究に基づき積極的に踏み込みわずかに優勢となりましたが、藤井棋王は先手の竜を封じて形勢を入れ替え、鮮やかに寄せ切ってシリーズの流れを手繰り寄せました。

第73回NHK杯トーナメント本戦決勝 〇佐々木勇気八段 ●藤井聡太NHK杯
佐々木八段が深い研究により形勢をリードし、持ち時間でも大差を付けました。藤井NHK杯は決め手を与えず形勢を入れ替えましたが、佐々木八段は猛攻を凌いで再逆転し、169手の死闘を制しました。

名局賞は従来タイトル戦の中から選ばれることが多いですが、敢えて今年度は王座戦挑決トーナメント2回戦の藤井竜王名人vs村田(顕)六段戦を本命に挙げたいと思います。村田六段が棋士人生を懸けてAIとは一線を画す独自戦法で臨み、追い詰められた藤井竜王名人がAIには思いつけないであろう勝負手を連発して逆転するという、人間同士が創り出す最高の名勝負だったと思います。
対抗には、棋聖戦第二局の佐々木(大)七段vs藤井棋聖を挙げたいと思います。タイトル戦初登場の佐々木七段が、藤井棋聖の大技にカウンターを決め、シリーズを大いに盛り上げました。
歴史が創られた舞台として、史上最年少名人誕生となった名人戦第五局の藤井竜王vs渡辺(明)名人や、史上初の全八冠誕生となった王座戦第四局の藤井竜王名人vs永瀬王座も、選考対象として議論されるかもしれません。

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