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「観る将」が観た第71期王座戦五番勝負第二局

9月12日、王座戦五番勝負第二局が兵庫県神戸市のホテルオークラ神戸で行われました。先勝した永瀬拓矢王座が一気に防衛にあと1勝と迫るのか、藤井聡太竜王名人がタイスコアに戻すのか、注目の一局となりました。

前日のインタビューで、永瀬王座は「五番勝負なので一局一局頑張るしかないと思っていますので、明日の第二局は一生懸命頑張りたいと思っています」、藤井竜王名人は「第一局に敗れて厳しいスタートになってしまいましたけれど、第二局以降、より集中力を高めて面白いシリーズにできるよう頑張っていきたいと思います」と意気込みを話しています。


藤井竜王名人が右玉

明るい雰囲気の対局室に、永瀬王座が濃紺の着物と濃い青緑の袴に藤色の羽織で入室すると、藤井竜王名人は光沢のある白い着物と灰色の袴に水色の羽織で入室します。先手の永瀬王座が角換わりに誘導し、藤井竜王名人は受けて立ち、右金を5筋に上がって珍しく右玉に構えます。

藤井竜王名人の仕掛け

永瀬王座も意表を突かれたのか、少しずつ時間を使って持久戦調の駒組みが続きます。藤井竜王名人は6筋の歩を突き捨て桂を跳ね、永瀬王座が銀を6筋に上がってかわすと、歩で桂を支えます。永瀬王座が歩で銀を支えると、藤井竜王名人が次の52手目を20数分考えたところで昼休となりました。各5時間の持ち時間の内、残り時間は永瀬王座が3時間41分、藤井竜王名人が3時間10分となっています。

金の進軍

藤井竜王名人が昼休を挟む52分の長考で、力強く△7三金と前進すると、永瀬王座は7筋に桂を跳ねてぶつけます。藤井竜王名人は左金を5筋に寄せ、永瀬王座が33分の熟考で桂を交換して銀を7筋に引くと、更に力強く△6四金と前進します。永瀬王座が入城していた玉を7筋に引くと、藤井竜王名人は左金を6筋に寄せます。

永瀬王座の自陣角

永瀬王座は27分の熟考で▲4八角と打ち、藤井竜王名人が5筋の歩を突き捨て金で取ると、9筋の歩をぶつけます。藤井竜王名人が飛車を5筋に回すと、永瀬王座も飛車を5筋に回して受けます。藤井竜王名人は3筋の歩をぶつけ、永瀬王座が9筋の歩を取り込むと、3筋の歩を取り込みます。

藤井竜王名人が桂得

永瀬王座は5筋の金取りに歩を打ち、藤井竜王名人が3筋の桂を取って"と金"を作ると、角で取り返します。藤井竜王名人が5筋の金で歩を取り、永瀬王座が次の75手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値はほぼ互角の範囲で細かく揺れています。残り時間は永瀬王座が1時間32分、藤井竜王名人が1時間20分となっています。

藤井竜王名人の自陣角

夕休が明けるとすぐ、永瀬王座は金銀交換に応じ、歩で飛車を追います。藤井竜王名人は30分の熟考で一段目に引き、永瀬王座が4筋の歩を伸ばして角の利きを後手陣に通すと、歩の連打で香を吊り上げ△5三角と打ちます。永瀬王座は手堅く桂を打って香に紐を付け、藤井竜王名人が3筋の角頭を歩で叩くと、角を2筋に引いてかわします。

角金交換

藤井竜王名人は4筋の歩を取り、永瀬王座が9筋に"と金"を作ると、金取りに△4六桂と打って先手の角の利きを止めます。永瀬王座は金を6筋に寄って自玉を固め、藤井竜王名人が玉を6筋に引いて早逃げすると、4筋に歩を垂らします。藤井竜王名人は玉を5筋に上がって受け、永瀬王座が3筋の銀頭を叩いて吊り上げ、王手飛車取りに▲4二金と打つと、角で金を取って交換します。

"と金"攻め

永瀬王座が角を1筋に上がって浮き駒になっている6筋の金に当てると、藤井竜王名人は18分考えて残り5分となり、金を5筋に寄ってかわします。永瀬王座は"と金"を8筋に寄り、藤井竜王名人が飛頭を歩で叩くと、飛車を3筋にかわします。藤井竜王名人は9筋の香頭を歩で叩き、永瀬王座が"と金"を7筋に寄って銀に当てると、9筋の香を取って"と金"を作ります。

両者1分将棋に突入

永瀬王座は取れる銀を取らずに飛金両取りに▲6二"と"と入ると、1分将棋に突入した藤井竜王名人は飛車を4筋にかわします。永瀬王座も1分将棋に突入し、"と金"を金と交換してから9筋の"と金"を桂で取ると、藤井竜王名人は少し慌てた手つきで桂を香で取ります。永瀬王座は王手成香取りに角を打ち、藤井竜王名人が玉を3筋にかわすと、▲6二角成と馬を作ります。両者の間を細かく揺れていたAIの評価値は、永瀬王座の60%と傾いてきました。

藤井竜王名人が上部脱出

藤井竜王名人が持ち駒の銀を打って馬に当てると、永瀬王座は飛頭を歩で叩きます。藤井竜王名人が飛車を3筋にかわすと、永瀬王座は金を打って飛車を捕獲します。藤井竜王名人は馬を取り、永瀬王座が飛車を取って王手すると、玉を4筋に上がってかわします。後手玉は上部が広くなり、AIの評価値は藤井竜王名人の70%と逆転模様です。

挟撃態勢

永瀬王座は4筋の歩を成って"と金"を作りますが、藤井竜王名人は玉を早逃げして安全地帯を目指します。永瀬王座は角で9筋の成香を取り、藤井竜王名人が飛車取りに香を打つと、飛車を6筋にかわします。藤井竜王名人は桂を打って追撃し、永瀬王座が玉を8筋に上がって飛車の逃げ道を作ると、9筋の角頭に歩を打って挟撃態勢を目指します。

入玉確定

永瀬王座は角をかわしつつ馬を作り、藤井竜王名人が銀を上がって馬に当てると、馬を見捨てて9筋に歩を打って粘ります。藤井竜王名人は5筋の歩を成って飛車を9筋に追い、銀を馬と交換してから3筋の香を成って上部を開拓します。永瀬王座は銀を打って後手玉の上部脱出を阻みますが、藤井竜王名人は金を打って銀と交換し、入玉を確定します。

相入玉を阻止

永瀬王座は竜を作って後手陣の銀を2枚取りますが、藤井竜王名人は5筋に桂を成って先手玉の寄せに入ります。永瀬王座は竜で6筋の歩を取って脱出路を作りますが、藤井竜王名人は9筋に香を打ち、歩頭に△9七金と打って決めに掛かります。永瀬王座が粘って相入玉を目指すと、点数勝負でも大きくリードした藤井竜王名人はそのまま安全勝ちすることもできましたが、入玉寸前の先手玉の隙を捉えて鮮やかな即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は藤井竜王名人が右玉を採用し、積極的に6筋から仕掛けました。永瀬王座は研究を外されたと思われましたが、自陣角を打って9筋から端攻めして対抗しました。藤井竜王名人は9筋を諦め、飛車を5筋に回して反撃しましたが、永瀬王座は手堅い受けで均衡を保ち、両者とも1分将棋となる中、9筋に作った"と金"で後手玉を守る金を剥がして優勢になったと思われました。藤井竜王名人は永瀬王座が金で飛車を取りにきた隙に玉を上部に脱出し、入玉を確定しつつ点数勝負でもリードし勝勢となりました。永瀬王座は懸命に粘って相入玉を目指しましたが、藤井竜王名人は安全勝ちも狙える状況の中、一瞬の隙を逃さず鮮やかな即詰みに討ち取りました。
111手目から両者1分将棋となり、241手で決着する熱戦を制した藤井竜王名人は、対局直後のインタビューで「あらためて三番勝負という形になるので、気持ちを切り替えて第三局に臨みたいと思います」と話しました。永瀬王座はさすがに疲れた様子で「精一杯頑張りたいと思います」と短い言葉で話しましたが、第三局以降も熱戦が続くことを期待したいと思います。

本稿は王座戦の棋譜利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ouza)に従っています。
第71期王座戦五番勝負第二局、主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟

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