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Number将棋特集「藤井聡太と将棋の未来」を読んで

ビジュアル・スポーツ総合誌「Sports Graphic Number」の将棋特集第5弾、「藤井聡太と将棋の未来」が発行されました。少し時間が経ってしまいましたが、感想を記しておきたいと思います。

今回は表紙に「八冠達成 完全保存版」と記されています。将棋に関する記事は70ページ、これまでと同様、大きな写真をふんだんに使った印象的な記事が並んでいます。

主な記事としては、後藤正治さんや大川慎太郎さんが振り返った記事、勝又七段による王座戦第三局と第四局の逆転劇の解説、藤井八冠のタイトル戦全記録、この1年に藤井八冠とタイトルを争った永瀬九段、渡辺九段、菅井八段、佐々木(大)七段、羽生九段、広瀬八段に関するインタビューを中心とする記事、次世代を担う7人の若手の紹介などで構成されています。

残念なのは藤井八冠への独占インタビューがなかったことですが、さすがのNumberさんも八冠達成直後で多忙の藤井八冠のスケジュールを押さえることができなかったのかも知れません。

これから読む方もいらっしゃると思いますので個々の詳しい内容は控えますが、特に印象的だった記事をいくつか紹介しておきたいと思います。

藤井聡太「21歳の疾走は続く」

八冠ロードの最後の関門となった王座戦に、本戦から密着取材した大川記者の記事です。誰もが今期の挑戦はなくなったと思ったあの一局、大熱戦となったあの一局、そして五番勝負の一局一局が淡々と、ポイントとなった局面を交えて語られています。八冠制覇という歴史的快挙を見届けることができた私たちが、いつまでもこの瞬間を忘れないために、まさに「完全保存版」の記事だと思います。

菅井竜也「希望という名の振り飛車」

他の棋士の記事は本人へのインタビューを中心に構成されていますが、この記事は振り飛車党の佐藤和俊七段と西田拓也五段へのインタビューを中心に叡王戦五番勝負を振り返っています。第三者の視点ということもあってか、藤井八冠を倒せるのは振り飛車なのかも知れないという期待を感じさせる内容になっています。

受け継がれし大棋士の系譜

木村義雄十四世名人、大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、そして十九世名人の資格を持つ羽生善治九段へと連なる大棋士の歴史が綴られています。観る将歴の浅い私があまり知らない内容が多く、興味深く読むことができました。以前からの将棋ファンの方々にとっては、懐かしい話が多いのかも知れません。

村田顕弘「せめて、人間らしく」

新村田システムで藤井竜王名人を八冠阻止寸前まで追い詰めた村田六段ですが、私にとってはこれまでほとんど知らない棋士でした。彼の独特な戦法は、かつては関西若手四天王と呼ばれた期待の星が伸び悩み、「AIが本流の時代に風穴を開けたい」という思いで編み出したものだと知りました。将棋界には個性的な棋士が多数存在しており、時には彼らが強豪に一泡吹かせるところに面白さがあると思っています。

将棋界がAIを研究に取り入れるようになって久しいですが、AIとの向き合い方は棋士によって様々だということが、今回の特集を通して感じられます。今後もAIが将棋界に新たな風を巻き起こすことは間違いありませんが、どんなにAIが進歩しても人間同士が戦う将棋の奥深さには変わりがないと思っています。

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