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「観る将」が観た第6期叡王戦本戦トーナメント 藤井二冠2回戦

5月31日に行われた叡王戦本戦トーナメントの2回戦、藤井聡太王位・棋聖と永瀬王座の対局を観た感想です。本局の注目度の高さを反映してか、ABEMAの解説は名人戦第五局の副立会人だった阿久津八段と村山七段が務めています。

藤井二冠は段位別予選八段戦を勝ち抜き、本戦1回戦で行方九段を破って2回戦に進出しています。本棋戦との相性はあまり良くなく、本戦での勝利は今回が初めてでした。

永瀬王座は前期の豊島竜王との死闘が記憶に新しいところですが、今期はシードされていたため本戦からの出場で、1回戦で佐々木(勇)七段を降して2回戦に進出しています。今年度も各棋戦で上位に進出していますが、棋聖戦と王位戦ではあと1歩のところで挑戦権を逃しており、四強の一角としては本局に勝って存在感を示したいところです。

両者のこれまでの対戦成績は藤井二冠の3勝1敗ですが、最後に対局した昨秋の王将戦リーグでは、永瀬王座が意表を突く四間飛車を採用して勝っています。

振り駒で先手となった永瀬王座の作戦が注目されましたが、角道を止めて居玉のまま右銀を▲4六銀と進めます。藤井二冠が22手目に△6五歩と反発すると、永瀬王座は飛車を6筋に振って受けました。ここまで永瀬王座は1手10秒以内で指し進め、用意してきた研究手順であることを感じさせます。

永瀬王座は藤井二冠の△4四歩を見て初めて時間を使い、16分程度の考慮で▲3七桂と跳ねます。一触即発かと思われた序盤でしたが、この手を境に両者は自陣を整備し落ち着いた序盤の駒組みに戻ります。

藤井二冠も飛車を6筋に振り、自玉を△2二玉と入城させます。永瀬王座が銀取りに▲5五歩と突いたのを見て、藤井二冠は22手目に突いた歩を40手目にようやく△6六歩と交換します。いったん矛を収めた後、藤井二冠は飛車を7筋に、永瀬王座は2筋に回します。

藤井二冠が7筋の歩を交換すると、永瀬王座は3筋から仕掛けます。2筋の継ぎ歩攻めが厳しくAIの評価値は永瀬王座の65%と少し傾いてきました。藤井二冠はハンカチを顔に当てて考えています。藤井二冠はいったん辛抱して受けに回りますが、永瀬王座が更に1筋から端攻めを見せると△6五桂から反撃です。永瀬王座はこの桂を銀で食いちぎり、相手陣の金を取りに行きます。藤井二冠はここで早くも1分将棋となり、△8六歩と攻め合いを選択します。

藤井二冠は更に△6六歩~△7五歩と、歩だけで相手陣を崩していきます。続いて飛車を切って角を取り、△7六歩~△6七銀と相手陣に迫ります。阿久津八段は「ワクワクする終盤戦になりました」と解説しています。AI評価値もほぼ互角に戻っています。時間に余裕があった永瀬王座ですが、ここでついに1分将棋に突入し、▲6六金と歩を払います。

藤井二冠は飛車金両取りに△4八角と打ち、飛車を奪うことで自玉の危機を緩和します。永瀬王座はしきりに首を傾げながら、取ったばかりの銀を相手陣に打ち込み攻撃を再開します。永瀬王座が桂で金を取り▲3一飛と打ち込んだ局面は絶体絶命に見えましたが、藤井二冠が攻防に△2九飛と打ち込んだ辺りで、1手毎に揺れていたAI評価値がついに藤井二冠に傾いたようです。永瀬王座は▲2四金と王手して天を仰ぎ、更に王手を続けてから▲1一竜と詰めろを掛けて下駄を預けます。藤井二冠の背筋がすっと伸び、永瀬王座は項垂れています。即詰みを読み切った藤井二冠は落ち着いて△7八竜と切り、最後は華麗に打ち歩詰め回避の手順で討ち取りました。

本局は、どこまで永瀬王座の研究範囲だったかわかりませんが、序盤は永瀬王座がペースを掴んだように見えました。藤井二冠が玉頭から攻め込まれ、明らかに劣勢の局面で1分将棋に突入した辺りでは、このまま完封されてしまうのではないかとさえ思いました。しかし、藤井二冠は82手目から50手以上も続く1分将棋の中、歩の妙技でほとんど手付かずだった永瀬陣を切り崩し、自玉への攻撃をギリギリの受けでかわし、いつもながらに美しい寄せを魅せました。永瀬王座にも1分将棋の中チャンスはあったのかもしれませんが、どちらが勝つのかわからない攻防には見応えがありました。恐らく久しぶりだったと思われる感想戦では、通常の2局分にもなろうかという濃密な検討が行われ、時々笑みを浮かべる両雄の表情には、激闘の余韻に浸る満足感のようなものを感じました。

この結果、藤井二冠は本戦トーナメントベスト4に進出し、準決勝では昨年度竜王戦の決勝トーナメントで苦杯を喫した丸山九段と対局します。過密日程が気になりますが、豊島竜王を挑戦者として迎える王位戦七番勝負に続き、叡王戦五番勝負では逆の立場で顔を合わせることを期待しています。

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