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SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2023 決勝戦

12月24日、3年目を迎えたSUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2023の決勝戦が行われました。本棋戦は、ファン投票によって選出された棋士(東西各3名)と、予選を勝ち上がった棋士(東西各3名)による東西対抗の団体戦です。出場する棋士については、下記記事にまとめましたので、興味がありましたらご確認ください。

本棋戦は持ち時間なし(初手から一手30秒未満)で、対戦カードは各チームの話し合いで前日に決められています。当日は明治神宮会館に約1,000人のファンが詰めかけたようで、非公式戦ではありますが、ファンの皆様に喜んでいただく棋戦という形で定着していきそうです。


第一局・第二局

主催者と羽生将棋連盟会長の挨拶の後、第一局と第二局が並行して行われました。

第一局 東軍:永瀬拓矢九段 vs 西軍:豊島将之九段

先手の永瀬九段がが角換わりに誘導しますが、豊島九段は角道を開けずに駒組みを進めます。永瀬九段が棒銀から銀交換し、1筋の端攻めで攻め掛かると、豊島九段は飛車を追い返して押さえ込みを図ります。永瀬九段は飛車を1筋に回して飛角交換に応じ、豊島九段が4筋に"と金"を作ると、後手陣に角を打ち込んで馬を作ります。永瀬九段は後手玉に攻め掛かりますが、豊島九段は玉を中段に逃れて凌ぎます。豊島九段は△8八飛と打ち込んで竜を作り、△7八竜と金を食いちぎって即詰みに討ち取りました。

第二局 東軍:渡辺明九段 vs 西軍:菅井竜也八段

先手の菅井八段が向かい飛車に振り穴熊を目指すと、渡辺九段は角を交換してから穴熊に囲います。菅井八段は3筋の歩を突き捨ててから飛車を3筋に回しますが、渡辺九段は8筋から飛車先突破を図ります。お互いに3筋に銀を打ち込んで穴熊を崩しに掛かりますが、菅井八段が▲3一角成と金を食いちぎって攻め込むと、渡辺九段は△3八銀成と攻め合います。菅井八段は▲3三銀とタダ捨てして王手竜取りに▲4三角と打ち、竜と角を交換して王手角取りに▲6一飛と打ちますが、渡辺九段は玉を上部に逃れ、△3七桂から即詰みに討ち取りました。

第三局・第四局

両チーム1勝1敗となり、続いて第三局と第四局が並行して行われました。

第三局 東軍:野月浩貴八段 vs 西軍:稲葉陽八段

先手の野月八段が相掛かりに誘導し、お互いに飛先の歩を交換してから、稲葉八段は7筋の歩も交換します。野月八段は角を交換して▲8二角と打ち、稲葉八段が角を合わせると、再度交換して▲5六角と飛車取りに打ちます。稲葉八段が飛車で金を食いちぎり、△3九角~△2八金と飛車を捕獲し、飛金交換して馬を作ります。野月八段は角で馬を消して、▲8一飛と打ち込みますが、稲葉八段は△8六歩~△6九角と詰めろを掛けます。野月八段は玉を上部に脱出し、△8一香の王手を竜で食いちぎり、王手銀取りに▲5五角と打って自玉に迫る銀を取ります。野月八段は▲2二飛成と銀を食いちぎって王手し、即詰みに討ち取ったかに見えましたが、▲4四銀成が痛恨の失着となり、稲葉八段が逃げ切りました。

第四局 東軍:青嶋未来六段 vs 西軍:久保利明九段

公式戦を含め初手合わせという対局となり、先手の久保九段が三間飛車に振り美濃囲いに構えると、オールラウンダーの青嶋六段は居飛車を選択し穴熊を目指します。久保九段は飛先の歩を交換し、銀桂交換すると、▲4五銀~▲3四銀と進出して角を攻めます。青嶋六段が△9九角成と馬を作ると、久保九段は▲9一角成と馬を作り、飛車をぶつけて交換します。お互いに馬を自陣に引き付けて玉頭戦となり、青嶋六段が△4五馬と銀を食いちぎると、久保九段は▲5五角と打って攻防に利かせ、▲3一銀と詰めろを掛けます。青嶋六段はいったん△3二歩と受け、△1七銀の王手から即詰みに討ち取りました。

トークショウ

東軍・西軍、各棋士に同じ質問をぶつけ、トークを引き出す企画です。

東軍

■今年一番大きな声が出た(一番驚いた)瞬間
増田七段が、この後「クリスマスデート」の予定があることを告白し、大きく盛り上がりました。

■来年挑戦してみたいこと
羽生九段は「次の100年に将棋をつなげる」と会長らしい一言をあげ、青嶋六段は「海外チェス大会」に参加すると宣言していました。

西軍

■今年一番大きな声が出た(一番驚いた)瞬間
菅井八段が増田七段に対抗し「結婚」と書いて会場を驚かせようとしましたが、ちょっとスベった感じでした。

■来年挑戦してみたいこと
豊島九段が「筋トレ」、久保九段が「マラソン」、菅井八段が「運動」と、体力づくりをあげていました。

第五局・第六局

トークショウの後、2勝2敗となっている団体戦に戻りました。

第五局 東軍:増田康宏七段 vs 西軍:山崎隆之八段

先手の増田七段は角換わりに誘導し、山崎八段が△3三角と上がる趣向を見せると、▲3三同角成と角を交換します。山崎八段は独創的な駒組みを進め、増田七段が飛先の歩を交換すると、銀冠の形に組み替えます。増田七段は▲4六角と据え、山崎八段が飛車を2筋に回して受けると、穴熊を目指します。山崎八段は△8四角と据え、9筋の歩を突き捨ててから7筋の歩を交換して△7五同角と出ます。増田七段が飛車を3筋に寄せて突破を図ると、山崎八段は9筋の香を交換します。増田七段は▲6五銀と桂を食いちぎり、金取りに▲7五桂と打ちますが、山崎八段も△7五同角と食いちぎり、金取りに△6七香と打ちます。山崎八段は先手陣の金駒を剥がして玉頭から攻め掛かり、最後は即詰みに討ち取りました。

第六局 東軍:羽生善治九段 vs 西軍:藤井聡太竜王名人

先手の藤井竜王名人が角換わりに誘導しますが、羽生九段は角道を開ける手を保留します。藤井竜王名人は3筋の歩を突き、羽生九段が角道を開けると、飛先の歩を交換します。羽生九段は3筋の歩を突き捨て、△3六歩から桂を取り、角を交換してから△6五銀~△5四角と飛車先突破を狙います。藤井竜王名人は▲2六飛と浮きますが、羽生九段は飛先の歩を突き捨て、△4五桂と跳ねて銀を上がらせてから△7六銀とぶつけます。藤井竜王名人は銀交換に応じ、2筋と3筋の歩を成り捨ててから銀で桂を取ります。羽生九段は△7五桂と援軍を送り、藤井竜王名人が金桂両取りに▲6六角と打つと、△2四金と飛車を追ってから△8六飛と走ります。藤井竜王名人は角取りに▲8八桂と打ち、羽生九段が△6七桂成と飛び込むと、▲3三角成と王手し、▲7六飛と角を取って更に飛車を交換します。羽生九段が△7八成桂と金を取って先手玉に迫ると、藤井竜王名人は王手成香取りに▲9六角と打って成香を取ります。羽生九段は王手馬取りに△3九飛と打って馬を取りますが、藤井竜王名人は▲5五桂の王手から一気に寄せ切りました。

リレー将棋

西軍の4勝2敗と優勝が決まり、最後にリレー将棋が行われました。リレー将棋は、東軍から羽生九段と渡辺九段、西軍から藤井竜王名人と豊島九段が出場します。1手20秒未満で、1人5手ずつ交代して指し継がれ、両チーム1回ずつ作戦タイムを取ることができます。

西軍が意表を突く三間飛車

先手の豊島九段が3手目に三間飛車に振り、後ろに控える渡辺九段が頭を抱える仕草を見せますが、羽生九段は淡々と飛車先の歩を伸ばします。藤井竜王名人が美濃囲いに構えると、羽生九段は穴熊を目指します。豊島九段が7筋の歩を伸ばしてから▲5九角と引くと、いつになく緊張した面持ちの藤井竜王名人は飛先の歩を交換し、▲6五銀~▲5四銀と繰り出します。

東軍が作戦タイム

渡辺九段が△7三歩と打って飛車を追ってから△5二金と上がって4筋の歩を支えると、豊島九段は銀を引きます。羽生九段は△8四飛と浮き、豊島九段が▲7七桂と跳ねると、早くも作戦タイムを取ります。羽生九段は右金を自玉に引き寄せ、豊島九段が▲7二歩と垂らすと、△5三角と受けます。

西軍も作戦タイム

藤井竜王名人は5筋の歩をぶつけ、負担になりそうな銀を▲5六銀と引き、渡辺九段が飛車を5筋に回すと、作戦タイムを取ります。藤井竜王名人はチームメイト(振り飛車党の久保九段や菅井八段)の助言を期待していたようですが、昨年からチームメイトの参加はなくなっており、「全然わからない」とこぼします。

飛車交換

藤井竜王名人は▲6五銀と飛車にぶつけ、渡辺九段が飛車を2筋に戻すと、▲5四歩と角頭を叩きます。渡辺九段が角を4筋に引くと、豊島九段は▲7一歩成と"と金"を作ります。羽生九段が7筋の歩を突いて飛車の捕獲を狙うと、豊島九段は▲7四同飛とぶつけて交換します。羽生九段は△7八飛と打ち込み、豊島九段が歩で飛車を追ってから▲6五桂と跳ねると、△7六歩と垂らします。

好所の角

藤井竜王名人は▲6三銀成と攻め駒を足し、渡辺九段が△7七歩成と"と金"を作って角に当てると、▲5九角とかわします。渡辺九段は△7五角と飛び出し、藤井竜王名人が▲5三歩成と"と金"を作ると、△6六角と要所に進めます。藤井竜王名人が▲4八角とぶつけると、渡辺九段は△5七歩と金頭を叩き、角で金を食いちぎります。

"と金"攻め

羽生九段が"と金"を寄せて攻めると、豊島九段は▲7五角とかわしてから▲6六角打と2枚角を攻防に利かせて竜に当てます。羽生九段は△6八竜と寄せてかわし、豊島九段が▲3九金とかわすと、角の両取りに△7六金と打ちます。豊島九段が▲4三"と"と攻め合うと、羽生九段は金で角を取ります。

着実な寄せ

藤井竜王名人が▲3二"と"と金を剥がし、金を交換して▲4二同角成と馬を作ると、渡辺九段は手堅く△3三銀打と馬の位置を変えてから、△5七角と詰めろを掛けます。藤井竜王名人が▲5一飛と詰めろを掛けて形を作ると、渡辺九段は△3九角成と王手します。先手玉には即詰みが生じており、豊島九段は数手指し続けてから投了を告げました。

表彰式

西軍が2021年以来2度目の優勝となり、藤井竜王名人をはじめ笑顔が溢れる表彰式となりました。リレー将棋では、子どもの頃から居飛車党だったという藤井竜王名人が振り飛車を指すという、アマチュアに根強い人気の振り飛車党にとっても存分に満足できるイベントだったと思います。
SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦も3年目を迎え、年末を彩る将棋イベントとして定着してきたものと思います。来年以降も、非公式戦ならではの楽しめるイベントとして継続されることを期待しています。

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