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ほぼ北欧旅行記<コペンハーゲン篇>制約×プライド×チームが創造性を爆発させる

二つ目の目的地は、デンマークの首都コペンハーゲン。

アムステルダムからコペンハーゲンへは鉄道で半日掛けて移動。ハンブルクでトランジットだったので、オランダ→ドイツ→デンマークと国をまたいだことになるけれど、EU圏だからなのか鉄道で国を越える時にパスポートチェックは特にない。こちらでは「国境」という概念がだいぶゆるいのかもしれない。「国境」とは何だろう、と考えさせられてしまう。

<コペンハーゲンの食の現在地点>
この街での視点はもちろん「食」。「noma」が世界一のレストランに君臨して以降、そこで学んだ若い世代が次々と独立して「108」や「Relæ」といった第二世代の新しいレストランをオープンさせていった。さらにそうした店たちがミシュランの星を獲得して安定した売り上げが見込めると、よりカジュアルなシーンで自分たちのコンセプトを表現しようと「Manfreds」や「Bæst」といった第三世代のお店を続々とオープンさせている。

コーヒーもレストランほどじゃないにせよ同様の流れがあり、「The Coffee Collective」や「Democratic Coffee」といった勢いのある店で修行したバリスタたちが新しいカフェをオープンさせている。個人的にカプチーノとクロワッサンが最高に美味しかったカフェは、もともと食肉加工地域だったエリアに気鋭のレストランが続々とオープンしている「Meat Packing District」にある「Prolog Coffee Bar」。ここも「Democratic Coffee」にいた人が立ち上げた店。そしてレストラン第三世代が徐々にカフェやベーカリーにまで手を伸ばしてきているので、そうした流れの中でコーヒーはまだもうひとつレベルを上げるのではないかと思う。

まるで音楽の世界の人たちが新しいアルバムを出すくらいの軽やかさで、新しい(そして実力のある)お店が次々と生み出され続けているのが、コペンハーゲンの現在。自分たちは結構抜群のタイミングで、この街の空気を吸うことができたのかもしれない。

<「制約」が生み出す創造性>
「noma」がオープンするよりも以前、北欧のシェフたちによって「新しい北欧料理のためのマニフェスト」というものが発表された。これは簡単にいうと「北欧の食材や旬を徹底的に活かすことで、新しい料理を生み出していこう」という、極めて当たり前のことをコンセプトに昇華させたものだった。

じゃあ何がよかったのかと言えば、料理表現に「制約」が与えられたことではないかと思う。自由なテーマでクリエイティブなものをつくってください!と言われても人はなかなか創造性を発揮できないもので、あるテーマなり制約があるほうがクリエイティブに発想できるものである。

こうしたコンセプトが徹底していることの証拠として、レストランのHPをみると多くの店がそこにマニフェストを掲げている。コンセプトという名の制約が、コペンハーゲンにおける料理の世界の創造性を、まるで人々がゲームに夢中になるかのように加速させている。そしてその手法は、創造性を求める他の業界にも応用可能なことでもある。

<人材の質を高める「世界一」というプライド>
「noma」効果により、コペンハーゲンで食の仕事に携わる人々の中に、世界一の流れの中で仕事をしているという"プライド"を感じることができるし、彼らはとても楽しそうに仕事をしている。さながらITの世界でシリコンバレーに注目が集まっていたような空気が、食の世界で今のコペンハーゲンには流れているように思える。そんな空気の中でも特に楽しそうに仕事していたのが、「noma」の次の店舗の準備のためにシェフたちが世界を飛び回っている期間、コペンハーゲンに残ったスーシェフと30名の「noma」チームが開催しているpopupレストラン「Under the Bridge」のスタッフだった。

そして勢いがある世界には必ずいい人材が集う。「Mikkeller」の例のように、コンセプト設計やデザイン面も優れた店が多いことから見ても、デンマークではクリエイティブで優秀な人材が食の世界に流れ込んできているように思える(それに比べると日本の飲食店で働く人たちの多くは余りにも視野が狭いしテーブルの上で起きていることしか見えていない気がする)。

ただし、彼らの根底にあるのは、アメリカのような「誰もやっていない新しいものを生み出そう」という発想ではなく、「より心地いい生活を送ろう」という北欧らしい発想を極めて現代的に表現しているだけなのかもしれない。彼らのそうした気分を表現する言葉に「ヒュッゲ」というものがあるが、屋外でファミリースタイルでカジュアルに美味い料理やナチュラルワインを楽しむ「Under the Bridge」は、「コンテンポラリー・ヒュッゲ」あるいは「ヒュッゲ2.0」のひとつの答えなのではないかとも思った。

<チーム意識が才能を連鎖させる>
日本のレストランやデザインオフィス等とちょっと違うのは、突出した個人がワンマンで立ってすべてを決めていくのではなく(もちろん才能とカリスマ性のある人物が中心にはいるものの)、その成果はチーム全体で生み出しているという特徴があり、これは偶然なのか北欧地域特有なのかわからないけれど、現代的なクリエイティブ組織の考え方にも重なるものがある。

チーム「noma」の船頭であるレネに偶然そうした気質がありチームを大事にするからこそ世界一になったのか、あるいはたまたま世界一のレストランがチームを大事にする組織だったのか、どちらなのかはわからない。しかし、少なくもその結果、自らコンセプトを料理に落とし込める人材を多く生んだことは確かだし、そこから生まれた才能の連鎖が街全体にクリエイティブな空気を生み出していることも事実だと思う。

コペンハーゲンについて書くのには結構時間が掛かった。なぜかと考えてみると、たぶん言いたいことが多かった(つまり刺激を受けた部分が多かった)ことと、自分がクリエイティブの世界で目指していることに近い状況がコペンハーゲンで起きていたのが理由だと思う。その説明は長い話になるし、まだきちんと言葉にしきれてないこともあるので、また別の機会に。

とまあ食の視点ではコペンハーゲンはとても面白い街だったけれど、視点を広げてみると、街中がレンガ造りの茶色い建物ばかりで味気ないというか、とても地味な街である。「都市」という視点でみれば、やはりヨーロッパで最も活気ある街はロンドンであり、他の追随を許さない国際都市「NY」「ロンドン」「東京」の存在とクリエイティビティは圧倒的である。コペンハーゲンは「noma」という北欧における突然変異が生み出した歴史の一幕に過ぎないけれど、そんな突然変異の遺伝子が世界をどう変えていくのか。とても楽しみである。

コペンハーゲンに来てからというものクロワッサンとカプチーノを毎朝欠かさず摂取する習慣を保ちつつ、次は「Fuglen」本店のある街オスロへと飛ぶ。

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