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D2Cから考えるクリエイティブエージェンシーの終焉とNEWクリエイティブ組織

4年前に立ち上げた「301」という会社は、一般的にクリエイティブ・エージェンシーと呼ばれるモデルに近い形で事業を伸ばしてきた。創業期に模索して辿り着いたひとつの答えは、既存の価値を手を変え品を変え魅力的に見せるようなプロジェクトが多い広告の仕事をやめて、新しい価値や事業を0から生み出していくようなプロジェクトにフォーカスしてクリエイティブ面でコミットしていくというものだった。

これまでクリエイティブ業界で新しい会社を立ち上げる場合、大手広告会社や有名デザイン事務所で大企業の案件を手がけた実績と人脈を確立した上で、40歳前後の世代が中心となり独立していく形がほとんどだった。そういう会社が目指したのは、広告業界の安定した高い収益を事業基盤に据え、如何に「+α」の部分の付加価値を生み出していけるかという挑戦だったのだと思う。

自分たちはその次の世代に位置し、業界的な大きな実績や人脈を確立する前の30歳前後で起業し、広告と呼ばれる仕事以外の領域へと視野を広げていく形が多い。その世代の経営者としての大きな悩みであり視点を変えればやりがいとも言えることのひとつは「モデルケースが存在しない」ということ。故に、経営手法は他業界のモデルや独自の思考のマッシュアップで組み立て、実践し、破壊し、再構築する、ということを日々繰り返していかなければならない。

OLDクリエイティブ組織の経営陣のミッションが、看板となる仕事の実績を更新し続けることだとすれば、NEWクリエイティブ組織の経営陣は、組織そのものや組織と社会との関係性をどうデザインするのかという点にエネルギーを投下していかなければならない。表現力の差別化から、思想や価値観やシステムの差別化へとシフトしているのがクリエイティブ業界の今なのではないかと考えている。

世の中を見渡してみると、NEWクリエイティブ組織についての考え方を体系的にまとめている書籍や文献はほぼ存在していない。おそらく体系化される前が今という時代なのだと思う(誰か知っていたら教えてください!)。ではどうすればいいかと言えば、リアルタイムでそれらを実践している人たちの情報を自分で寄せ集め、取捨選択し、統合していくしかない。自分の場合はここ一年以上、デザインイノベーションファーム「Takram」が発信しているTakram CastというPodcastを聴き続けている。NEWクリエイティブ組織の経営陣にとっては驚くほど貴重な情報に溢れているので、ビジネス書一冊読むよりも、30分のTakram Castの中のキーコンテンツを一本聴くほうがよっぽどためになると思う(これは余談になるけれど、現在自分たちのような人たちにとっての価値ある情報の多くは、本の中ではなく、組織のオウンドメディアやイベントでの会話、あるいはNOTEの記事の中にあるように感じている)。

Takram Castを通して知ったD2C(Direct to Consumer)というビジネスモデルの事例を知ったときに、うまく説明はできないけれども何とも言えない自分の思考や価値観との一致を感じ、しばらくその話が頭の中に残っていた。有名な事例は、アパレルの「Everlane」や、メガネの「Warby Parker」や、スーツケースの「Away」など。あとで腑に落ちたのは、自分たちがクリエイティブ業界でつくろうとしている事業モデルが、純粋にD2Cのモデルとそっくりだったということ。

彼らはオンライン直販することで中間マージンをなくして質のよいものを適切な価格で提供し(店舗を構える場合は販売の場ではなくあくまでもブランドの世界観を伝える場)、透明性の高いビジネスを行い、プロダクトそのものよりもコンセプトを売ることを考えている。例えば「Away」の事例で言えば、極論を言えば、スーツケース自体はその価値と価値の交換を実行するためのメディアになっているということ。さらに象徴的なのは、彼らが「HERE」という雑誌メディアを発行していること。やっていることやコンセプトがすべて絶妙につながるようにデザインされているというか・・・西海外スタートアップ競争(狂騒)の時代や価値観を踏まえて生まれてきたブランド、という空気感を纏っている。

自分たちの例で考えると、広告代理店を通さず顧客と直接やりとりすること、透明性のある見積りシステムを徹底していること、クリエイティブワークそのものではなくプロジェクトの進め方や関係性の持ち方を気に入って仕事を依頼されていること、成果物としてのクリエイティブはそうしたもののメディアとして捉えている等。また来年新しくオフィスではなくパブリックな場をつくろうとしていたことも、D2Cでいうところのコンセプトストアの発想に近いし、自分たちのメディア作りに着手していることも「HERE」の発想に近い。

現在という地点にフォーカスして考えると上記のようなことをたくさん語れるのだけれど、もう少し大きなスパンで時代を眺めてみると、Appleや、もしかたしたらLVMHも、同じような発想でビジネスをデザインしてきたようにも思えてくる。

そんなことを考えながら、「301」は今日もNEWクリエイティブ組織創造への妄想と実践を繰り返している。自分たちの仮説がもし正しければ、現在クリエイティブエージェンシーと呼ばれている組織は徐々に時代遅れになり、価値観共有型(あるいはコミュニティ型)の新しいモデルのクリエイティブ組織の時代が到来するかもしれない。

もし同じような考えや価値観を持った仲間がいたら、たくさん意見交換をしたいし、一緒にできることを模索していきたいと思っているので、ご連絡をお待ちしています!

大谷への連絡→ www.facebook.com/shogo.otani.75
301のWEB→ www.301.jp

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