マガジンのカバー画像

哲学ファンタジー 大いなる夜の物語

42
41の謎をあなたに贈ります。 書籍版発売中:https://amzn.to/2RRwJJv
運営しているクリエイター

2019年2月の記事一覧

哲学ファンタジー 大いなる夜の物語 謎その1

謎その1 どうして日常はつらいのか? ほら、またネチネチ言ってる。よくもまあ飽きもせず、毎日ああやって不機嫌をまわりにまきちらせるもんだ。家に帰ってから後悔することはないんだろうか。 ご機嫌ななめなのは、お天気屋の先輩、村松玲奈(むらまつ れいな)。後輩にはひそかに「お天気お姉さん」と呼ばれている。 一方、さっきからネチネチお説教されているのは、僕の同期の石戸夕璃(いしと ゆり)。僕の家のわりと近くに住んでいて、小学校は同じところに通っていた。低学年のころまでは、近所の

哲学ファンタジー 大いなる夜の物語 謎その2

謎その2 〈どれでもないバス〉って、どんなバス? 今日は日曜日。予定は何もない。 僕は公園に行って散歩でもしようかと、家からバス停へとやってきた。公園は、バスに乗って二十分ほどのところにある。 あれ?歩道の遠くから、石戸さんが歩いてくる。近くに住んでいるとはいえ、こんなところで会うのは珍しいな。 石戸さんもこちらに気づいたようで、こちらに向かって手を振った。笑っているのがわかった。僕も手を振り返した。 石戸さんは微笑みながら歩いてくる。その数十メートルのあいだ、石戸

哲学ファンタジー 大いなる夜の物語 謎その3

謎その3 物語るのは誰の声? さて、今起きたことを、バスの中から見てみましょう。 一台のバスが走っています。一台のバスですが、どのバスでもありません。 運転手が一人乗っていますが、どの運転手でもありません。 〈どのバスでもない一台のバス〉を、〈どの運転手でもない一人の運転手〉が運転しています。 おや、石戸夕璃と草野春人の待つバス停が見えてきました。何やら熱心に話し込んでいますね。あの二人に気づかれると、〈どのバスでもない一台のバス〉は、〈あのバス〉へと変わります。

哲学ファンタジー 大いなる夜の物語 謎その4

謎その4 光る尾を引く鞠とは何? バスに乗ると、乗客はほかに誰もいなかった。 石戸さんと僕は、バスの前のほうに二人ならんで座った。 石戸さんが窓際に座ったので、バスが出発すると、石戸さんの横顔の向こうの景色が流れはじめた。石戸さんの耳で、丸い真珠がゆれている。 「石戸さん、やけに荷物が重そうだね」 「うん、『アルゴナウティカ』が入ってるの」 「アルゴ・・・なんだって?」 「ナウティカ」と言いながら、石戸さんは鞄を開けて、古そうな本を取り出した。赤茶色の革の表紙に

哲学ファンタジー 大いなる夜の物語 謎その5

謎その5 過去にさかのぼって仕返しはできる? バスの行く道には、大きな街路樹が多い。車内に差しこむ木漏れ日が、きらきらと流れていく。 石戸さんは『アルゴナウティカ』を、大切そうに鞄の中にしまいこんだ。 「それにしても、隕石が展示される初日に行くなんて、よっぽど楽しみだったんだね」と僕が言うと、石戸さんは、 「うん。それに、今日はちょうど皆既日食の日だし」と嬉しそうに言った。 皆既月食だって、このまえ訂正したのに。でも、今日は訂正はやめておこう。また困ったような顔をさ

哲学ファンタジー 大いなる夜の物語 謎その6

謎その6 何もかもが小さく見えたら、どんな感じ? やがて、バスは終点に到着した。 僕は窓の外を見た。 「石戸さん、ここで降りるの?」 「そう、ここだよ」 でも、奇妙だ。市営温泉のバス乗り場って、こんなところだっけ。 こんなところだったような、こんなところじゃなかったような。 それに、バスはここへ来るまで、一度も止まらなかった。乗客はずっと僕たち二人だけだった。なんだかおかしい。 石戸さんと僕はバスを降りた。その途端、僕はよろめいて座り込んでしまった。 「どう

哲学ファンタジー 大いなる夜の物語 謎その7

謎その7 遠くの物ほど小さく見えるのはなぜ? しばらく歩いていると、広場のようなところへ出た。 広場に面して、いろんな建物がある。とんがり屋根の建物が、広場に影を落としている。太い柱がいくつもついた建物もある。人はまばらで、荷車が一つ停まっている。小さくしか見えないので、何を積んでいるのかはわからない。うまく歩けるようにはなってきたけど、見えるものはまだ、ぜんぶ小さいままだ。 「荷車で果物を売ってるね。おいしそう。あっちにはパン屋さんもある」と石戸さんは言った。 「そ

哲学ファンタジー 大いなる夜の物語 謎その8

謎その8 オリオンの背中、どうすれば見られる? 医者は、穏やかな声で、話を聞かせてくれた。 「さきほども言いましたが、この街は、夜空がすぐ近くにあります。 ある夜、オリオンが、私に相談をもちかけてきたことがありました。そう、あのオリオン座のオリオンです。ずいぶん年齢を重ねたので、健康診断をしてほしいと言うのです。 『何を弱気なことをおっしゃいますか、オリオンさん。あなたはいつも変わらず、雄々しい姿でいらっしゃるではありませんか』 私はそう言いました。 ところがオリ

哲学ファンタジー 大いなる夜の物語 謎その9

謎その9 宇宙の外にはどうすれば行ける?

有料
100