余白をデザインする―「SDGs de 地方創生」を体験して―

2015年に国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」は、現在、各自治体や行政の活動に多く取り入れられています。そのSDGsの理解を深めるカードゲームの1つに「2030SDGs(以下、「2030」)」がありますが、それとは別の「SDGs de 地方創生(以下、「地方創生」)」というカードゲームを先日体験してきました。
カードゲームを体験して感じたのは、「余白」があることで人の想像がかきたてられるということです。以下で詳しくまとめていきます。

「SDGs de 地方創生」とは

まず、このゲームがどんなものかというと、運営事務局のホームページには、

SDGsの考え方を地域の活性化に活かし、地方創生を実現する方法について参加者全員で対話し、考えるためのゲーム

とあります。
ゲームとしては、
①各グループに対して、目標(ゴール)が設定され、目標達成のために、お金を集めたり、プロジェクトを実施する
②プロジェクトを実施するには、お金や資源が必要なので、それも集める
というのが大まかな流れになります。よく例えに出されるのが「人生ゲーム」ですので、あんな感じのをイメージしてもらえればいいと思います。

「2030SDGs」との違い

「2030」との違いは、扱う事例の抽象度の違いです。「2030」の方は、いまや国内だけではなく海外でも実施されており、その内容はどこの国や人でも扱えるように抽象度が高めの設定にしてあります。ですが、「地方創生」は日本の自治体の具体的な事例を取り扱っているので、より身近に感じられると思います。
また、ゲームとしての難易度も「地方創生」の方が高いと個人的には感じています。「2030」の方は、プロジェクトを実施した後にどんな効果が出るか分かるのですが、「地方創生」の方はそのプロジェクトをやってみないとどんな効果が出たりリターンがあるか分かりません。より現実世界に近いと言えると思います。

※ゲームの詳しい説明は運営事務局のホームページをご覧ください。
https://sdgslocal.jp/cardgame/

プロジェクトカードにある「余白」

プロジェクトカードには、そのプロジェクトを実施するために必要なお金の額や資源カードが書かれています。例えば、食育のプロジェクトを実施するには、いくら必要で、「先生」と「学生」のカードが必要みたいなことが書かれています。そして、そのプロジェクトを実施すると、リターンとしてお金がもらえたりするわけです。実施した後の結果を見て、「意外とお金もらえたな」とか「こういう効果があると思ったのに違った」みたいなことがけっこうあります。この「思ってたのと違う結果が出た」というのをもう少し深く考えると、「このプロジェクトを、この金額と資源を使って実施すると、こういう結果が出た」という考えができます。ということは、「プロジェクトカードに書かれている金額や資源はあくまで一例で、現実では違ったやり方をすることができる」と捉えることもできます。
先ほどの食育の例を出すと、「先生や学生だけでなく、クリエイターも交えたら」とか「いっそのこと、中央省庁も巻き込んで」とかいろんなやり方が現実では考えられて、そうやってプロジェクトに対して投資する金額や資源が変わってくれば得られるリターンも変わってきます。プロジェクトカードには、そのような考えができる「余白」が残されています。

「余白」が人の創造力を刺激する

余白が残されていると、何か不備があるようで嫌う人もいるかもしれません。ある意味、ツッコミどころというか、付け狙われるポイントというか。ですが、それは余白があることで議論が生まれたり、人の思考を刺激しているのだと言い換えることもできます。
今回のカードゲームだと、余白があることで人それぞれの気づきが促されているといえます。僕の場合だと、「他の資源を組み合わせたら、どうなるんだろう」という気づきでしたが、他の人は違うことに気づいたのかもしれません。それは、余白をそれぞれが好きなように埋めていった結果だと思います。

製作者が意図していなかった形で商品が使われたりすることがありますが、それはその商品にそういう使い方をすることができる余白があったのだと思います。それは商品だけでなく、「場」に対しても言えるものだと思います。セミナーや勉強会に出ていると、そのテーマに関係が無いことに気づくこともあります。

僕の好きな言葉の1つに、教育者ウィリアム・アーサー・ウォードのこんな言葉があります。

普通の教師は言わなければならないことを喋る。
良い教師はわかりやすいように解説する。
優れた教師は自らやってみせる。
そして、本当に偉大な教師というのは生徒の心に火をつける。

「余白」は偉大な教師の一人だと思います。余白が人の創造性を引き出し、気づきという火を付けてくれます。これからも余白に気づく力を大切にしたいと思います。