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「オウム幹部13人の死刑執行」を議論の出発点にしませんか?

オウム事件の死刑囚6人の死刑が7月26日に執行されました。教団元代表の松本智津夫・元死刑囚ら7人に対する7月6日の執行を加えると、3週間のうちに合計13人が処刑されたことになります。今回の大量執行に対しては多くの批判があります。でも私は批判はしません。「いまこそ死刑制度の議論を始める好機にしたい」という願いを込めて、ノートを書きました。

批判の中身を点検してみる

今回の執行に対する批判の中身を、私なりに大きく区分けすると、二つの意見があるように思います。

一つ目の意見は、「松本智津夫・元死刑囚に事件を起こすに至った経緯や思いを語らせたあとに、刑を執行すべきだった」というものです。こう主張する人の多くは「オウム事件の真相が解明されていない」とも主張しています。

本当に、一連のオウム事件の真相は解明されていないのでしょうか。

「事件の5W1H」は解明されている

裁判の中では、松本・元死刑囚の指示で幹部や信者が役割分担をして事件を起こしたことが、具体的なエピソードと物証で明らかになっています。罪を全面的に否認している被告もいません(黙秘や一部否認をしている被告はいます)。

「事件の真相が解明されていない」と批判する場合の「事件の真相」とは、なぜオウムができていったのか、教団はなぜ暴走していったのか、なぜロシアで武器を調達したのか、なぜ高偏差値の若者たちが教団にはまり込んでいったのか……といったことを指しているのかなと思います。なぜなら、犯行事実の「5W1H」はほぼすでに明らかになっているのですから。

「真相」が語られる可能性はあったのか

確かに、そうしたことを「事件の真相」と言うのなら、いまだに解明されていないことは幾つかあります。松本・元死刑囚の口から「真相」が出てくるのなら、私も聞いてみたかった。本当にそう思います。

しかし、昨今報じられてきた彼の近況(失禁しているなど)から考えれば、松本・元死刑囚にそのことを語れるだけの覚悟や冷静に自身を見つめる力があったのかは疑問です。

また、「彼は実は意識がはっきりしていたから本当は語れたはずだ」という人もいますが、詐病を装う人間が、事件について素直に語り出すものでしょうか。いずれにせよ、彼の口から未知の事実がいずれ語られたはずだというのは、現実味がない気がします。

死刑を執行することに法的ミスはない

大量執行に対する批判意見の二つ目は、死刑制度に反対する立場の人が死刑執行を批判するものです。でも、日本は法治国家です。死刑制度が現実にある以上、執行することに刑事手続上のミスはありません。

約3週間で13人の死刑が執行された事態を目の前にして、死刑執行をただ善悪論で議論しても前向きな話にはなっていきません。いまこそ、死刑制度の存廃について話し合える絶好のタイミングが訪れたような気がしているのは私だけでしょうか。

日本は「142 対 56」の少数派

国は「世論調査で国民の9割が死刑制度に賛成している」を根拠に死刑制度を維持しています。死刑制度賛成派の中には、「オウム幹部は死刑にすべきだ」と考える人も多く含まれていたように思います。なにせ地下鉄サリン事件は、都心に地下鉄で通勤していた人なら誰もが被害者になる可能性があったという無差別テロだったわけですから、無理もないことだと思います。

しかし、いまこそ立ち止まって冷静さを取り戻すタイミングなのではないでしょうか。

▽死刑制度を廃止または事実上停止している=142国
▽死刑制度を維持している=56の国・地域
 (7月27日付朝日新聞「天声人語」から引用)

こんな数字を書くまでもなく、多くの人たちは、死刑制度を維持している国が世界的には少数派であることを知っています。

死刑囚と獄中結婚した女性との出会い

私はかつて新聞記者をしていました。入社1年目、石川県の金沢支局に赴任しました。身代金目的誘拐と殺人などの罪に問われた被告の控訴審が名古屋高裁金沢支部で審理されることになり、私がその裁判を担当することになりました。裁判を傍聴しているうちに、熱心にメモをとっている女性がいつも法廷内にいることに気づき、あるとき、思い切って話しかけてみました。

「被告のご親戚ですか」
女性「いえ、違います。死刑に直面した人の考えを知りたくて」
「死刑廃止運動をしている方ですか? お仕事は……」
女性「運動の団体には入っていません。金沢市内で会社員をしていますが、裁判の日だけ休暇をもらって傍聴しています」
「どうしてそんなに熱心に傍聴しているんですか」
女性「私……、別の事件で死刑が確定した男性と結婚したんです」
「あ、恋人が事件を起こしたんですか……」
女性「いえ。その死刑囚とは縁があって、最初は接見の付き添いで会いました。それがきっかけで、もっと彼と話をしたくなりました。結婚して家族になれば接見もしやすくなると聞いたので、結婚しました。彼とは手を握ったことすらありませんけど」

もうずいぶん前のことなので、一言一句正確とはいえませんが、こんな内容の会話だったと思います。駆け出し記者だった私はただただ驚いた、という記憶がいまも鮮明に残っています。

その女性からすすめられた1冊の本が私を変えた

その女性から『死刑廃止論』という本を紹介してもらい、読みました。

筆者は元最高裁判事の団藤重光さん。判決が間違える可能性があることを現実のエピソードを交えて書き起こし、裁判官として死刑判決を下してきた団藤さん自身が、死刑廃止論者に変わっていったということを告白する内容でした。すでに故人ですが、私が本を読んだ当時はご存命で、講演会も聞きにいきました。文章や話しぶりから謙虚さが伝わってきて、私もいつしか死刑廃止論者になっていました。

人がやることはどこかに間違いが起こる、無実の罪を着せられた人が無実を訴えながら死刑執行される……。想像力があれば、おのずと結論は出るのだろうと思います。

死刑制度そのものを廃止するのか、死刑判決を言い渡す基準を厳しくするのか、など具体的な方法は幾つか考えられます。そうした議論をする機会にできたらいいのに……。死刑が大量執行された事態を受け、いまそう思っています。

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shoichiro kawano

新聞社で社会部記者や週刊誌の編集をしていました。中退して現在はフリーランスです。独自取材したオリジナルなものを、できるだけ多く書いていきたいと思っています。ダジャレもたまに書きます。Twitterは@shoichirok
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