見出し画像

2018.8.30訪問「トロピスム書店」(ベルギー・ブリュッセル) Tropismes Librairie

 「トロピスム書店」(Tropismes Librairie)に行ってみよう。
 そう考えたのは、ベルギー再訪が決まり久しぶりに開けた20代の頃の旅の記録の中に、この書店のしおりを見つけたからだ。インターネットで調べると公式サイトもある。facebookページもあった。
 あぁ、まだあの書店はあるのだ、とわかり嬉しかった。facebookの写真をみると、記憶とほとんど変わらない様子だ。

 フランス語圏の都市を旅するときは、たいてい書店に寄った。中でも「トロピスム書店」を印象深く記憶しているのは、私にとって初めての海外で、初めて訪れた外国の書店だったからだ。
 当時はまだ欧州への直行便はなく、アンカレッジで給油し、ポーラールート(Polar Route)といって北極の上空を飛んだ。今はないサベナエアーで初めて降り立った欧州の空港が、ブリュッセル空港だった。トランスファーの短い時間にグランプラス(La Grand-Place)だけでも見学できるだろうかと訪れ、路地を歩く中、偶然、発見したのが「トロピスム書店」だった。
 スマホで書店をマップ検索、なんていうことをできる時代ではなく、しかもブリュッセルは最終訪問地でなかったため前知識もなかった。まさしく偶然の出会いだった。

 ベルギーは、北をオランダ、南をフランスに接しており、北部ではフラマン語(ほぼオランダ語らしい)、南部ではフランス語が話されている。首都ブリュッセルはフラマン語圏だがフランス語話者が多い。「トロピスム書店」(Tropismes Librairie)はフランス語の本を扱う書店だ。

 そして2018年8月30日、パリから鉄道でブリュッセルへと向かった。ブリュッセル訪問は4度目になるがいずれもEU統合前。中央駅を降りると、すっかり様子は変わっており美しく整備され、駅舎の向かいには景観に溶け込むようにヒルトンがあった。
 観光の定石に従いグランプラスを再訪。ヴィクトル・ユゴーが世界で最も美しい広場と、コクトーが華麗なる劇場と賞賛したという広場は、変わることなくゴージャスに輝いてた。

 グランプラスから、確かこっちの方向だったと勘を頼りにギャルリー・サンテュベール(Galeries Royales Saint-Huber)に向かった。欧州内でも古いパッサージュ(アーケード商店街)のひとつで、ベルギー王室御用達のショコラティエや宝石店、レストランなどが並び美しい景観で観光客好みの場所になっている。今風にいえば、どこを切り取ってもインスタ映えする一角だ。

 目指す書店は、100メートルほどのこの短いパッサージュのどこかを横に入った小路の先にあるはずだ。その入る場所がなかなかわからず結局パッサージュを2往復し、遂に壁にLibrairie(書店)という小さな看板を見つけた。小路の先には、以前と変わりない店舗が見えた。

 店舗は地階、1階、中2階からなり、1階は新刊を中心に文芸書が、中2階には絵本など児童書が、地階には、専門書が並ぶ。地階にはデスクに座った書店員がふたりおり、ひとりは社会学、心理学、哲学の棚の周りにデスクを構え、もうひとりのデスクは料理、旅などの実用書の棚のあたりにあり、担当する専門が分かれているようだ。さらに奥には、美術と建築の棚があったがデスクは見当たらなかった。文学と新刊が並ぶ1階にも担当する書店員がいた。

 ブリュッセル中心部には大型書店はないようで、「トロピスム書店」はじめ中規模の書店が多いようだ。このベルギー滞在ののち再びパリに戻りカルチェラタン界隈の書店を何軒か訪ねたが、過去に訪ねたことのある中規模の書店は変わらず同じ場所で営業していた。どこも大型書店とは異なる中規模店ゆえの個性があって楽しかった。

 今や、国内外の出版社の出版目録をWEBで見ることができるし、SNSでレビューも読める。アマゾンで注文もできるし、書店もネットショップを持っていることが多いが、店舗に足を運ぶと発見は多い。「トロピスム書店」の公式サイトによると作家を招いたイベントもしているようだ。店舗を見る限りイベントスペースと呼べる場所は見当たらなかったが、dans nos mursとあるので店内で行うのであろう。開催時間を見ると営業終了後で予約制になっていた。

 1階と地階を結ぶ階段に手書きの貼り紙があり、学生は10%引きとの案内があった。旅行者も適用されるのかなと思いつつ、同行していた大学生の息子がレジで学生であると申し出ると、レジのお兄さんはにこやかな笑顔でさっさと割引し、学生証を見せるまでもなかった。きっと選んだ本と風貌から判断したんだろう。
 書店の学割は「トロピスム書店」でしか見なかったが、ベルギー滞在中は、美術館の入館料も鉄道の運賃も、大学生の息子は私が払う大人料金と比べると大きく優遇されていた。学生であるか否かでなく年齢で割引する場合もあった。日本にも学割はあるが、総じて割引が大きく、若者の文化的体験を応援している気がしたことも書いておく。

 話を「トロピスム書店」に戻す。会計の後、レジのお兄さんに「店内で写真を撮っていいですか」と聞くと、笑顔で快諾。
 1階と中2階はゴージャスだが、地階はごく普通の内装だ。中2階から1階全景を撮ろうとしていた時だった。日本語を話すふたりの女性が上がってきてスマホで写真を撮り足早に去っていった。
 帰国して知ったのだが美しい書店として最近、書籍やWEBで紹介されているらしい。ブリュッセルの観光名所に近く、知れば訪れたいと思う人も多いだろう。インスタ映えする撮影スポットの中2階は児童書コーナーで絵本が並んでいる。フランス語がわからなくてもお土産にいいと思う。

Tropismes Librairie
11, Galerie des PrincesGaleries Royales Saint-HubertB-1000 Bruxelles
facebook 
文と写真 水崎真智子【会員番号 309】フリーランスの取材記者・編集者・教育ジャーナリスト。経営者やプロジェクトリーダー、学者、技術者など2000人以上へのインタビュー実績があります。<WEB記事一例>進学実績非公開なのに志願者殺到!謎の中高一貫校・神戸女学院

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?