オランダの実践研究・トランジションは日本の文化に小さな地殻変動を起こすーオランダ開催 Border Sessions 2019 参加レポートー(1)
現在、オランダに”持続可能な社会への移行(=トランジション)”をテーマに、リサーチトリップ中です。滞在は26日まで。クラウドファンディングもやっているので、ぜひご支援をご検討いただけると嬉しいです!
*この投稿は Border Sessions 自体について色濃く説明したものではありません。Border Sessions についてより知りたい方は、昨年度の投稿ですが、デザイン・リサーチャーの望月重太朗さんのnote記事を共有しておきます。
2019開催のBorder Sessions に参加した雑感
6月12日〜15日にオランダのハーグで開催されたテック・カルチャーフェスティバル・Border Sessions が終わりました。リサーチトリップのメインの目的のカンファレンスでした。一つの区切りとして、オランダへの入国から今までの数日間を振り返ります。
Border Sessions では年々トレンドが移り変わっており、オランダの社会の中でもわりと先進的なテーマを扱っていく傾向にあるようです。参加者はデザインやテクノロジーの領域の人たちを始めとして、学者や行政の担当者など参加者は多岐に渡ります。
社会のあり方をさまざまな領域のトピックのもとで、これまでに作られてきた役割や肩書きを超えて、前向きに話している場でした。まさにBorder Sessions という名前通り、それぞれの Border を超えて議論が巻き起こる楽しい場でした!
Border Sessions の中でシェアされるトピックの変化
オランダに住んでらっしゃる、吉田和充という方と Border Sessions にて、たまたま出会いました。博報堂に勤めた後にオランダに移住されて、現在はオランダで日蘭をつなぐ事業創造や事業づくりのサポートをされています。
https://www.lifehacker.jp/2016/05/160519utrecht_relocation.html
彼の話によると昨年度までは、持続可能性(サステナビリティ)の議論が盛んで、主要なテーマとして扱われていたとのこと。しかし今年度は、持続可能性について考えることは Border Sessions のコミュニティでは当たり前になりつつあり、食やテクノロジーなどの切り口から具体的な持続可能性の実装の方法を検討している印象でした。
サステナビリティという言葉は地球環境の資源や自然の生態系を壊さない社会を構築するという方向性を与えてくれます。社会変革を進めていく時に共通言語があるのとないのでは、進み方はまるで違いますね。そのような議論の前提が成り立っているのはいいな!と思いました。Border Sessions のコミュニティには、持続可能な社会へと移行していく変化を生み出していく人たちが浮かない寛容な雰囲気があるのでしょう。高い熱量で未来をいかに作っていくかを話す時間はとても楽しかったです!
ちなみにプログラム中に会った人の中でも特に関心が重なるオランダ人の方とは、オランダ滞在中にもう一度会うことになりました。Lab というワークショップ形式のプログラムでは周りの方と話す機会がたくさんあります。
持続可能な世界への社会変容の技術・トランジション
私と共著者の僧侶・松本紹圭さんとで5月25日に出版した共著本のタイトルは『トランジション 何があっても生きていける方法』でした。内面の世界の移り変わりのことをトランジションと呼んでいました。実はオランダでも「トランジション」という言葉が使われています。それは主に内面の世界の話ではなく、「持続可能な世界へ移行していくこと」という意味で使われます。ロッテルダムが拠点のDRIFTという研究機関もあるほどです。私もその研究群には注目しています。
私は、6月14日にBorder Sessions の Labの一つ「Food Transition」という食の持続可能性を探求するプログラムに参加しました。プログラムのタイトルに トランジション という言葉が入っていて、当然のようにトランジションという言葉が使われながら議論が成立していました。
トランジションの研究の特徴は、長いスパンでの持続可能な社会への移行がテーマに扱われていることです。今生きている人たちだけが満足するだけではなく、次の世代の人たちにとってより良い社会・経済・環境を残していくことを考えなければなりません。
ロッテルダムの研究施設の存在も、Border Sessions のプログラムでトランジションという言葉が使われ、その議論が成り立つことにいくらか貢献しているのではないかと思いました。(あくまで予測です。)
(もちろん全国民がトランジションという言葉にピンとくるかというと全くそうではありません。社会変革を起こしていこうとする層の人たちが使う言葉の中にトランジションという言葉が入ってきているのだと思います。)
今年は、持続可能性を形にしていくためのテクノロジーの利用や食のプログラムが多かったのですが、これを持続可能な社会への移行=トランジションという切り口から眺めてみると納得できます。
Border Sessions のWEBサイトを見ていたり、現地でスタッフの人たちや参加者の人たちと話す中で、社会が健やかな形になっていくように前向きに考えているのが伝わってきました。
Border Sessions では人間性というキーワードも掲げられています。
プログラムに参加している中で、地球資源を枯渇させずに(犠牲にせずに)扱っていくことをなんども強調している参加者の方が多かったのですが、同時に人間も犠牲にしないという視点が入っていました。地球の持続可能性についての話は多かったのですが、人が犠牲になっていく社会・経済の形で生活を続けていこうとすることはそもそも持続可能だと言えないのではないでしょうか。
たとえば、プログラムでは農業を担っている人たちにもっとお金が返っていくように社会の構造を変えていく必要があるのではないかという議論をしました。
納得がいかないシステムであっても人は面白いことに、そして恐ろしいことに、それに違和感を抱かなくなっていきます。慣れは行動を自動化します。初めの頃に感じていた納得のいかなさを「まぁいいか」とスルーしてしまうようになります。
ただ、そのような抑圧状態の継続は生活を持続可能なものにはしません。身体や精神、心理への不調が起こっていきます。不調和を継続するような社会システムは、ゆるやかにほどいていってもいいのですよね。
Border Sessions の全体のテーマとして、人間性という言葉も入っていることを考えても、オランダでもテクノロジーやサイエンスを社会実装していく流れの中での人の内面の不調和が起こっていっているのかもしれないなぁと改めて思いました。単純にオランダのやり方を真似て、日本人はこうなるべきだ!という短絡的な話には至らないように意識したいところです。(※日本でも相当に起こっています。)
前の時代に作られてきた固着化してしまった社会構造をどう健やかに変革していくのかという観点が、オランダも日本も課題だと思います。というかいつの時代もそれぞれの状況の中で課題に挙がる観点です。
社会の変化を進めていくためには、自分自身が身体・精神・心理的な不調和を我慢して受け入れていくことではなく、調和のもとで健やかなあり方を模索し、さらに自分も他人も地球も犠牲にならない、いい塩梅のあり方を模索していくことなのだと思います。
サステナブルとはいうけれど
オランダの全国民がサステナブルの意識が強いとは思いませんでした。多くの人が自然と意識しているのかもしれませんが、当たり前だけど、スーパーに行ったらペットボトルの商品はたくさんあるし、プラスチックの容器はたくさんありました。
自分自身が、持続可能というキーワードのもとでオランダを見ていたので、都合がいいところだけをみていたのだと思います。その思い込みをほぐすことができたのは、こちらの環境に来てみたからこその収穫でした。よかったです!
ただとはいっても、自然環境への意識は高い人は多いのでしょうね。もっといろいろな人と話してみたいと思いますが、サステナビリティの話題が当たり前のように通じる人たちは日本よりも圧倒的に多いのではないでしょうか。そこにどっぷり入ってみる価値はあると思います!
日本のトランジションアプローチを作っていく
トランジションというキーコンセプト。あと数年くらいしたら日本でも語られるようになるのではないかと思っています。(あくまで勘です。語られるようになるように、自分自身でも学び、そのエッセンスを共有していけたらと思っています。)
もう一度繰り返すと、オランダではトランジションが研究されています。それは主に持続可能性、持続可能な社会への移行という切り口において、です。石油の使用などのエネルギー問題や、自然環境保護、社会構造の変革という点の研究がより多く行われています。
しかし、そこには”文化”の継承の話が抜けてしまっている印象がありました。
オランダでお会いした吉田さん曰く、伝統産業が現代のイノベーション?の数々の影響で、破壊されていったとのこと。また具体的に調べてみようと思いますが、伝統文化の継承の意識はオランダの方々は強くはないのかもしれません。もちろん日本でも同様のことは急速に進んでいます。
日本側にトランジションのアプローチを取り入れていく際に、オランダのものをそのまま日本で適用していくのは無理があります。理論はあくまでオランダの地域の感覚やそこで成り立つ話が反映される形で発展していきます。日本はその土壌とは違うので、理論をただ日本で適用することは乱暴なことだとおもいます。
皇族や伝統文化など、物事をご縁の中で長く続けていこうという姿勢を持つ人たちが相対的に多い日本では、持続可能な世界への移行を考える際に、文化的な思想、智慧や技術の継承、さらにはその周りの経済のあり方のアップデートを進めていくことをその射程に入れていくのがいいと思いました。特に自分がお寺出身だということもあって、そのように考えてしまうんでしょうね。
とはいえ、トランジションの研究・実践は私にとってとても参考になるもので、この研究に理解を深めることは、過渡期を流れるボートの運転の仕方を覚えるようなものです。短期的な目線だけではなく、物事の長い継続を前提として考えることは逆に短期的な思考になりがちな資本主義社会に重きを置いている人たちにとっては参考になるはずです。
今後、世界で重要になっていくであろう考え方と、古来から紡がれてきた思想・技術・智慧を結びつけて、日本発のトランジションアプローチを紡いでいきたいところです。
私のこれからの展望
オランダのリサーチはあと1週間半くらい時間がありますので、まだまだ好奇心に任せていろいろ見てこようと思います!
オランダの学びを日本に返ってから共有し、その学びを触媒にしながら、自分たちの生活を、仕事の仕方を、社会の作り方をどのようにアップデートしていけるのかをお会いする人たちと一緒に考えていけることに、とてもワクワクしています。
日本の伝統文化領域が行うことができることは多いと思うし、お寺に生まれた自分としても、なんとか伝統文化が社会の中で犠牲にならない活路を見出していけるように楽しんでいこうと思います。
お願い
現在、オランダのクラウドファンディングを実施しています。
今回は直感に任せてオランダに来ないと!!!!と思って、やってきました。個人で活動しているので、自費での渡航です。持続可能性を考えているくせに、自分の状況が持続可能ではないので、自分のあり方もアップデートしていかないといけません(汗)
頂いた資金はオランダのリサーチトリップにかかった費用を補填するのと、今後の伝統文化領域での活動へとつぎ込んでいきます。
どうぞご支援をご検討ください!
読んでくださって、ありがとうございました。
頂いたサポートは、生活と創作(本執筆)のために、ありがたく使わせて頂きます!