先祖はバカとは限らない
前回、フグの卵巣の糠漬けにまつわる「3つの疑問」について書きました。
疑問その1。そもそも昔の人は何故フグの卵巣を食べられるようにしたいと願ったのか。
疑問その2。糠漬けにしたら毒が抜けると、どうしてわかったのか。
疑問その3。3年たてば食べられることを、昔の人はどうやって知ったのか。
答として出てきたのは「先祖はバカだった説」ですが、先祖をバカにしたままで、来世が無事でいられるとはちょっと思えません。
なので、もう少し追求し、できれば他の説も出してみたいと思います。
▽
ところで、フグの毒ってどのくらいヤバイんでしょうか。
まあ相当にヤバイだろうとは思いますが、具体的にどうなのかを調べてみました。
フグ毒の主成分は「テトロドトキシン」といい、呼吸困難をもたらす神経毒です。
強さは青酸カリの850倍。
300度の熱でも分解しません。
煮ても焼いても毒はピンピンしています。
治療法や解毒剤はまだ見つかっていません。
危険すぎるので、フグを調理するには専門的な技術と知識が必要です。
フグ調理人の資格制度が存在します。
意外に思うかもしれませんが、人間の肝臓はフグ毒を分解することができるらしい。
なので理論的には、「呼吸困難を耐え忍べば、毒は肝臓で徐々に分解されるので、いずれ症状が治まる」んだそうです。
耐え忍べませんけど。
フグ食の歴史も調べてみました。
<先史時代>
縄文時代の人もフグを食べていました(貝塚からフグの骨が発掘されている)。
今と違って食料を入手するのが大変だった時代です。
飢餓はあたりまえ。
手あたり次第に食べていたのでしょう。
で、フグを食べて平気だったのか?
そのへんはよくわかりません。
そのころのフグは毒性が強くなかったという説もあるようですが、真偽のほどは不明。
その後、農耕が発達し、ある程度食料が安定してくると。フグを食べなくなった。
<平安時代>
それが平安時代になると、またフグを食べるようになった。
当時の文献にフグが登場します。
なぜ食べるようになったかというと、
「美味しいから」
というのが理由のようです。
フグは漢字で河豚と書きますが、豚に似ているからではなく、もともとこの漢字には「美味しい」という意味があったようです。
<安土桃山時代>
時は下り豊臣秀吉の時代。
朝鮮出兵のために召集された武士たちが、フグ中毒で大勢亡くなる事件がありました。
激怒した秀吉は、フグ禁止令を出します(それでも隠れてフグを食う武士はいた)。
<江戸時代>
江戸時代、藩によってはフグを禁じました。
バレたらお家断絶もあったようです。
それでも庶民はフグ食をしていたらしく、文献にもフグの話題が載っています。
松尾芭蕉が「河豚汁や鯛もあるのに無分別」(意味:鯛があるのに、なんでわざわざ危ないフグを食うのか)という俳句を残したのも、庶民のあいだで
フグが食べられていたしるし。
ただ、公には「フグ禁止」が続きました。
<明治時代>
初代内閣総理大臣の伊藤博文が、フグ食を解禁したとされています。
以来、日本人は堂々とフグを食べています。
▽
この歴史をひとことで言うと、
「危険だから禁止されていたけど、みんなこっそりフグを食べていた」
となるのでしょうか。
フグ食の歴史はこんな感じですが、卵巣についての歴史は、さっぱりわかりません。
しかし、ある程度の想像はつく。
冒頭の疑問に戻ると、
疑問その1。そもそも昔の人はなぜ、フグの卵巣を食べられるようにしたいと願ったのか。
→たぶん、単純に美味しかったから。
疑問その2。糠漬けにしたら毒が抜けると、どうしてわかったのか。
→たぶん、最初は単純に「糠漬けにしたら美味しかった」から始まったんでしょうね。
毒が抜けるとは予想していなかった。
…そんな感じですかね。
ただし、
疑問その3。3年たてば食べられることを、昔の人はどうやって知ったのか。
これについては、やはり全然わかりません。
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