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PLUTO 〜AI進化のリアルと自律社会への扉〜

私が子供の頃、輝かしい21世紀の象徴として鉄腕アトムがありました。TVでアニメを見ながら、ロボットと人間の共生は、どんなに素晴らしい世界を創り出すのかと子供心にワクワクしながら、当時、21世紀への想像と期待を膨らませました。
最近、Netflixでアトムの進化版?のリメイク作品をたまたま見つけて視聴してみたら、シンギュラリティの深刻な世界観が展開されていて、テクノロジーの進化は単純に人間の幸せに結びつかないのかも。と、とても考えさせられました。

AIの人権問題

昨年、手塚治虫の「鉄腕アトム」の人気エピソード「地上最大のロボット」を、YAWARAでブレイクした漫画家の浦沢直樹さんがリメイクした「PLUTO(プルートゥ)」のアニメ化がNetflixで公開されていたとのこと。全く知りませんでしたが、そのタイトルを見ただけで子供の頃の記憶が蘇り、懐かしさもあって視聴してみようと思いました。
「地上最大のロボット」は鉄腕アトムの中でも有名で人気のエピソードであり、大枠のストーリーは知っていた通りだったにもかかわらず、全く違う物語の様な印象を受けました。
象徴的だったのは「ロボットの人権」がメインテーマの一つに据えられていると感じたことです。
マンガやアニメで繰り返しみてきた鉄腕アトムのエピソードの中でも地上最大のロボット、プルートゥとの戦いは非常に印象に残っており、プルートゥが世界中の最高レベルのロボットに戦いを挑み、それらを次々に破壊していくくだりはロボット技術の進化の危うさを子供心に怖く感じたのを覚えています。しかし、破壊されるロボットの人権について考えた覚えは無く、あくまでロボットは感情を持つ機械との認識を持っていた気がします。
生成AIが普及して、今後、ムーアの法則と言われる指数関数的な発達進化を遂げれば、あっという間に人を超える頭脳になると言われます。自ら思考し、感情を持つ様になればもはや機械とは言えず、人権が付与されてもおかしくはありません。それは同時に、人間を凌駕した人口知能による人間への支配の可能性も示唆していると感じました。

ⒸTezuka Productions「手塚治虫文庫全集 鉄腕アトム⑦」(出版:講談社)

すぐそこにあるリアルな未来

現代版にアレンジされたプルートゥは圧倒的なリアリティを感じさせられました。大量殺戮兵器の開発の可能性、それを阻止する連合国の査察、確固たる物証を提示せずに戦争を仕掛ける国々、焦土と化したその国の人々の恨み、憎しみからの報復、世界を一瞬で壊滅させる力を持つ超兵器の開発と、それを実行しようとする人間の狂気、そして、人間を凌駕して人類を滅亡させようとする人口知能。物語に登場するのは空想の世界の産物では無く、大まか今の世界に既に実存するものばかりです。
究極のロボットは、苦しみ、悲しみ、怒りの感情を人間と同じ様に感じて人が殺せる、とプルートゥを生み出した科学者が言っておりました。
戦いに破れて、一度死んでしまうアトムを生き返らせるために天馬博士がプログラムするのは本来、人しか持ち得ないはずの恨みや怒りでした。人の心の複雑さをAIが解き明かすのも時間の問題であるとすれば、プルートゥで示される世界が現実になるのはそんなに遠い未来ではないのかもしれません。

最適化社会から自律社会への扉

情報の収集や整理、選別やアレンジ、比較検討や合理的結論を導くこと等、人間よりもAIの方が長けていることは山ほどあります。選択をAIに委ねることで間違わなくなるのなら、人間は思考する必要が無くなります。AIを使いこなす事でこれまで時間がかかっていた事が一瞬で片付く様になるのを、近年、多くの人が体感し、便利なツールを手に入れたと喜んでおられると思います。まさに、SINIC理論で予測された最適化社会の到来と言える状況です。
しかし、人間から思考を取り除いてしまえば猿と同じです。表面的な損得では無く、本質的な目的に立ち返っての最適解を求める粘り強さと、判断と選択を人は絶対に手放すべきではないと思うのです。昨今のAIの急激な進化は、今一度、人の存在意義を見直すきっかけを私達に与えてくれているのではないかと思うのです。SINIC理論では2025年から自律社会への移行が始まるとされており、その示唆する意味が感じられる作品だと思います。名作を更に名作にしたプルートゥ、是非視聴もしくはご一読してみられるのを強くオススメします。

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