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若者よ、五意達者を目指せ。

国土交通省が国の基幹産業である住宅産業が抱える喫緊の課題である職人不足、特に大工不足を何とか改善しようと、次世代の担い手を育成するために行っている若手大工育成プロジェクト。私が副会長を拝命している全国工務店協会の地域団体である京阪神木造住宅協議会でも今期からその事業に参画し、協議会メンバーの事業所から入職3年目の若者を集めて実習研修を行っています。今回、道具の手入れやその重要さをレクチャーした流れで新神戸駅近くにある竹中大工道具博物館に塾生と共に行ってきました。訪れるたびに新たな発見がある竹中大工道具館ですが、今回も我が意を得たり!と思えるような展示に目が釘付けになるとともに、若い大工見習いたちに贈るエールとして書いておきたいと思います。

西岡棟梁の至言

竹中大工道具館には伝説の棟梁と言われる西岡常一棟梁の名言や至言が数々の名人作の道具とともに展示されてあります。適材適所など、大工が使っていた建築用語から一般的に使われるようになった言葉も数多くあり、それらはそれぞれ建築の狭いカテゴリーのみに限らず、日常生活のあり方を見直すきっかけとなるような深い示唆を与えてくれます。今回、まさに若手大工にこのように成長してもらいたいと私は常々思っていて、繰り返し伝えている内容がシンプルな4文字熟語にまとめられているのに改めて気づき、今後、私が行う若手大工育成プロジェクトの研修のメインテーマとして使わせてもらおうと思った次第です。

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脱、作業員

私が若手大工育成塾で繰り返し言い続けているのは、決められたことをその通りに作業するだけの職人ではなく、自分の頭で考え、単なる作業員ではない現場作業1+ αの付加価値を生み出す大工になってほしいと言うことです。それは、技術の熟達も当然必要ではありますが、幅広い建築の知識を身に付け、建築士の資格も取得した上で、現場全体の取り仕切りをできる現場のトップに立って、施主の窓口まで勤められるようになってもらいたいとの思いです。現在の建築業界では工種や役割の細分化が進み、大工は現場での木工事のみを行うのみになっていることが殆どで、しかも、プレカットと呼ばれえる構造材の工場加工が普及して、大工は組み立て工の様になってしまっています。また、日本人の生活様式の変化から和風の建物は殆ど建たず、日本間のない住宅ばかりになって、昔ながらの大工の技術を生かす建物は見かけなくなってしまっています。新築を一棟任されるまでの技術的なハードルは下がりましたが、その分、付加価値も消え去った訳で、全国平均の一人親方の大工の日当は2万円を切るくらいになってしまっています。年収で換算すると600万円程度、そこから道具代や車両費、ガソリンに保険などの経費を差し引くと、年収450万円にも満たない有様で、しかも社会保障は何もなし。これでは若者は寄り付かないし、大工になりたいと学生が言ったとしても親御さんが泣いて止めるのは当然です。

五意達者

そんな、社会的弱者と言っても過言でない大工の待遇をなんとか向上させなければ、若者は寄り付かず、深刻な職人不足に陥り、建築業界を衰退の一途をたどります。とはいえ、低い単価がスタンダードになったこの業界で、自社だけ大工の手間代を高くするのは競争力を失うことになります。この非常に難しい問題を解決するには職人自らが意識を変え、働き方を変え、自ら付加価値を生み出すしかありません。そのロジックを西岡棟梁は「五意達者」との一言にまとめられ、大工のあるべき姿を非常にわかりやすく、そして本質的に指し示してくれています。一人前の大工とは、建物の複雑な収まりを図面に起こし、具現化する力を持ち、材の拾い出しから、建築工事にまつわる総予算の金勘定ができ、もちろん、高い技術力を兼ね備え、絵心を持つ等のアーティスティックな才能を発揮して、彫刻までも出来るべきだ、それぐらいの付加価値を生み出してこそ本当の大工、棟梁と言えると言われています。現在の住宅建築では
彫刻を施したり、欄間を突いたりする事はなくなりましたが、ただ家を建てるだけではなく、付加価値を生み出す存在になるべきだと言う言葉は今も昔も変わらない本質だと思います。若い大工達には、その本質をよく理解して、子供たちに憧れるような圧倒的にかっこいい、蒸しを生み出す職人になってもらいたいと心から願います。神戸に立ち寄ることがあれば、是非とも竹中大工道具館に立ち寄って、西岡棟梁の心意気に触れていただきたいと思います。
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高い付加価値を生み出す職人への変容を促す研修を行っています。



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