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【特急湘南26号 Vol.16】令和ロマンと列車内コミュニケーションと

いつものように、午前8時11分藤沢駅発の特急湘南26号に乗って、渋谷へと向かう。僕の居場所は相変わらず3号車8番のA席。車内のいつメンたちとともに過ごしているのだが、知らないヒトたちなので今のところ交流は一切ない。

クリスマスの朝、いつもと変わらない藤沢駅のホームだった。列車内では「昨日の令和ロマン最高でしたね!」なんて会話は聞こえてこなかった。もちろん「ニューヨークチャンネルの令和ロマンVS素敵じゃないか、最高でしたよね。M1優勝後に思い出してまた見ちゃいましたよ」「さよなら花鳥風月でのくるまもよかったし、シンりょうのくるまの立ち回りもよかったですよね」という会話ももちろん聞こえてこなかった。僕らはただ同じ車両にいるというだけで、趣味趣向は全くわからない。とはいえ、真横の窓側に座ってスポニチを呼んでいる40代後半〜50代前半あたりのおじさんは有馬記念の結果を食い入るようにみているのでおそらく昨日は賭けていたんだろう。ちなみに僕は馬連が当たった。有馬記念に1,900円だけ投資して、2,080円回収した。いつもと何も変わらない朝だった。

どうすればみんなの趣味趣向を知ることができるのだろうか。知ったからといって喋る気もないし、「じゃあ帰りに飲みに行きましょうか」ともならないのだが、何が好きかくらいは知りたい。よく自己紹介で「映画が好きです」とか「音楽が好きです」って言う人がいるのだが、そんな人など山程いるのになぜああいう言い方をしがちなのだろうか。「ゼロ年代の日本映画が好きです」とか監督名や俳優名でなくてもいいからせめてもう少し狭めて言って欲しいものだ。

コミュニケーション皆無の列車内で僕は「コミュニケーションってなんだろう」と考える。よく面接などで「質問に対してきちんと回答しなくてはならない」と言ったりするが果たしてそれは正しいのだろうか。昨日、僕は妻に「今日(イブ)の鎌倉って人がいっぱいいるのかな?」と聞いたら、「今日みたいな日って鎌倉は人がいっぱいいるのかな?」と返答が来てびっくりした。質問に対して質問で返すどころか、ほぼ同じ言葉が返ってきたからだ。
その場で「あっ」と気づいて、僕らは爆笑した。これでいいのだと思った。令和ロマンが言ってた「どうでもいい正解より、面白いフェイク」のほうが大事なんだ。

だから列車内でのコミュニケーションもこれでいいのかもしれない。僕が一方的にみんなのことを考えているのだが、ひょっとすると隣のおじさんも僕を見て「あいつ有馬記念買ってるかもな」と思っていたかもしれない。

そんなこんなでぼんやりと思考していたら、気づけば渋谷に到着。僕は『今夜はhearty party』でキムタクが冒頭で「ねえパーティーにおいでよ」と囁いたときとほぼ同じ声量で「メリークリスマス」と言って列車を降りた。

こうして僕は明日も知らないヒトたちと一緒に渋谷を目指し、夜になると藤沢に帰るのだ。


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