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【特急湘南26号 Vol.11】プリクラ青年がiPhone拾いニキと出会った

いつものように、午前8時11分藤沢駅発の特急湘南26号に乗って、渋谷へと向かう。僕の居場所は相変わらず3号車8番のA席。車内のいつメンたちとともに過ごしているのだが、知らないヒトたちなので今のところ交流は一切ない。

今日は朝から気分がいい。乗車前にPASMOをチャージしようと券売機に行ったのだが、なぜかそこにiPhoneが置いてあった。おそらくさっき自分の眼の前で乗車券を購入してた若者のものだろう。iPhoneの裏面にはプリクラが挟まっていて、目がデカい彼と目がデカい彼女が写っていた。僕はチャージをやめてiPhoneを手に取り、あわてて彼を追いかけた。そして「すみません! これ違いますか?」と声をかけた。構内でいきなり声をかけると、今のご時世は私人逮捕系Youtuberだと思われる可能性がある。だが、彼は僕に対してそんな疑いの目を向けることなく「あ! ありがとうございます」と言った。『アイシールド21』の中坊(チューボー)のような礼儀正しさ。そして爽やかな笑顔だった。加工されている表情しか知らなかったので、あまりの爽やかさに軽くめまいがした。それにしても、彼はなぜわざわざ真っ白で目がデカい加工のプリクラを撮ったのだろうか。あれはダウングレードではないのか? 「そんなことをしなくても、君は十分そのままでいい」と返事をするべきだったかもしれないが、僕は「うっス」とだけ言った。一応説明しておくと、「どういたしまして」という意味だ。いまだに高校時代の部活の名残りで「〜っス!」口調が抜けない。

その後、彼は湘南新宿ラインのホームに向かい、僕は特急湘南のホームに向かった。申し訳ない。指定席で都内に向かってごめんよ。そう思いながら彼のほうを見ると、向かいのホームで彼は「兄貴(iPhone拾いニキ)、羨ましいっス」と言ってたとか、言ってなかったとか。

そんなことをずっと考えていたら、渋谷に着いてしまった。今日も『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』をプレイするためにわざわざNintendo Switchを持参していたのに。いっこうに進まないではないか。こうして僕は明日も知らないヒトたちと一緒に渋谷を目指し、夜になると藤沢に帰るのだ。


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