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時間の無い世界で、また君に会う 第3章 楽しいひととき

〜前回までのあらすじ〜

時間の存在に疑問を持つ少年「トキマ」。

時間に対して考えている時に道端で「時間をなくしてみませんか?」と書かれた一枚の紙を見つける。

その紙に書かれたことが気になり、偶然載っていた住所を頼りに埼玉県の川越市へ。

紙に書かれた住所通りの古い建物に着いたトキマは一人の少女"咲季(サキ)"に出会う。

彼女は時の鐘を鳴らすと一時的に時間を無くすことができるのであった。

時間を無くした世界で川越を歩きながら彼女から過去を聞かされた。


次の朝。電車に揺られ学校に向かう僕は耳にイヤホンをさしながらスマホを見ていた。

僕は今流行のライブ配信動画を見ている。

「ハロー!どうもこんにちは…」
今や誰でも動画の向こう側に立てる時代。

気になるけどやったことがないような検証動画を上げる人や歌や料理など自分の得意分野を動画にする人などいろんな人がいる。

「発信しながらお金を稼ぐ…か…」と僕は呟いていると、ふと昨日の彼女を思い出した。

「これだ!」と僕は顔をあげると電車のドアは閉まっていた。

「…やばい!乗り過ごした!」と僕は慌てる。

次の駅で降りた僕は逆のホームに急いで向かって時刻表を見る。

「次に来るの10分後かよ!」と頭をクシャクシャにする僕。

僕は電車を待たずに走って学校に向かった。


学校に着いた僕は階段を二段飛ばしで駆け上がる。

「トキマは休みか?」と出席確認をする先生。

「はい!います!トキマはここにいます!」と僕は膝に手を置いて息を整えた。

「トキマ!5分遅刻だぞ!」と先生は僕に言う。

「すいません…」と言いながら下を向きながら自分の机に座る僕。

「トキマは放課後職員室に来るように!」と先生はいつもより低い声で言った。

━━ちょっと遅れただけなのになんで…

放課後。職員室に向かった。

「来たなトキマ!なんで今日遅刻した?」

「考え事をしてたら乗り過ごして…」

「そっか。考え事は誰でもするからな。先生も分かるぞ。でもな遅刻しないように時間は把握しておけ〜!」

「時間…時間を守ることってそんなに大切なんですか?」と僕は先生に聞く。

「時間をしっかり守った人の時間を奪うことになるからだよ。」と先生は優しい口調で話す。

「それこそ…それこそ時間に縛られているということじゃないんですか?」と僕は大きな声で言う。

僕の言葉が職員室に響き渡る。

周りを見渡すと大きな声にびっくりした先生たちが僕の方を見ていた。

「あ…すいません。。」と僕は謝る。

一瞬の沈黙の後に先生は言う。
「確かに人は時間に縛られているかもしれない。でも時間があることによってうまくいくこともあるんだよ。トキマにもいつかきっと分かる。」

「今日はもう遅いから帰りな。夏休みの宿題しっかりやってこいよ〜!」と先生は笑う。

「はい…」と僕は職員室を後にする。

職員室を出た僕は静かに拳を握っていた。


次の日。
「そうだ!こうしちゃいられない!」
僕は昨日の朝電車で閃いたことを彼女に伝えようと川越に向かった。

「トキマどうしたの?学校は?」と彼女は氷が入ったキンキンの麦茶を出しながら不思議そうに僕の方を見た。

「今日から夏休みだよ!」と麦茶を一瞬にしてゴクゴク飲み干して言った。

「ライブ配信やろう!」とまだ氷が溶けずに残っていたコップを机に置く。

「ライブ配信?」

「今若者の間で流行ってるSNSの一つだよ。リアルタイムの映像を世界に届けて、しかも見てくれている人たちからお金を投げてもらえるんだよ!」と僕は力説する。

「時間が存在しない素晴らしさを色んな人に知ってもらいつつ、しかも咲季さんの生活費も稼げるなんて一石二鳥じゃない?」と僕は名案を閃いた博士のような笑顔で言う。

「なるほど〜。それいいかも!トキマやるじゃん!」と僕をみる彼女。

「へへッ」と僕は頬をかいた。

それから二人で一緒にライブ配信を始める準備をした。

「時間を無くして欲しいって依頼を募集して、それをライブ配信で配信しよう!」と本の横から顔を出し彼女に話しかける。

「それ採用!」と彼女は読んでる本を置いて言う。

「私たちのチーム名どうする?」と彼女は顎に手を置いて言う。

「時無し屋とかどう?」と僕は言う。

「地味だけど分かりやすくていいかも!それにしよう!」と彼女は立ち上がる。

「トキマ!今から時の鐘鳴らすから撮影頼んだよ!」と彼女は意気揚々に腕を振りながら時の鐘の方へ歩いて行く。

「任せとけって!」と僕はスマホのカメラを彼女と時の鐘の方に向けた。

鐘を鳴らし終えた彼女はカメラの前にやってくる。

「どうも!時無し屋です。時間に縛られることが嫌になったそこのあなた!私たちが時間を無くします!依頼希望の方は連絡ください!」

「「とりあえずお疲れさま!」」
僕らはキンキンに冷えた麦茶が入っているコップをぶつけて、ゴクゴクと飲んだ。

「最初から依頼なんて来ないだろうけど、続けてればそのうち来るよ。だから頑張ろう!」と僕はコップを置いて言う。

「だね!」と彼女もコップを置く。

それから僕らは時間を無くす依頼を募集しつつ、時間の存在しない素晴らしさを訴え続けた。

「「どうも!時無し屋です。時間に縛られることが嫌になったそこのあなた!私たちが時間を無くします!依頼希望の方は連絡ください!」」

「時間が存在しないと遅刻と言う概念がなくなります!満員電車に乗らずにすみます!」

「時間を気にせずに済むと心に余裕ができますよ!」


そんなある日。ついに一件依頼がきた。

「トキマトキマトキマ!初めての依頼きたよ!」と彼女は嬉しさのあまり僕の肩を何度も叩く。

「どうしたの?」と僕は不思議そうな顔で彼女を見る。

「これ見て!依頼が来た!」とまばゆいばかりの笑顔をする彼女。

「マジか!よっしゃ!!!」と僕はガッツポーズをする。

最初の依頼内容は「川越で時間を気にせずデートをしたい」と言うものだった。

「「今日はよろしくお願いします!」」
依頼主は元気な若めのカップルだった。

「「こちらこそよろしくお願いします!」」と僕らも返事をする。

すぐに彼女は時の鐘の前に向かう。
僕はスマホで撮影モードに入る。

時間はちょうど正午の12時になるところ。
彼女は時刻通りに時の鐘を鳴らした。

時の鐘の優しい音が辺りに響き渡る。

僕も依頼主も時の鐘を鳴らす彼女の幻想的な景色に見惚れていた。

「終わりました!」と彼女はカップルの前に笑顔で戻る。

「もう終わったんですか!」と男性が驚いた。

「スマホでも時計でも時間を確認してみてください!」と指を差す彼女。

カップルは揃ってスマホを見た。

「え…」驚いた様子のカップル。

「あれ…故障したのかな?」と男性は頭に手を置いて笑う。

「私のスマホも故障したかも…」と女性も男性の方を見て笑う。

「そりゃあ信じてもらえないよな…」と僕は心の中で呟いていた。

「では川越デートして来てください!」と彼女はカップルの背中を押した。

少し動揺していたカップルはお互いに目を合わせて笑い、こちらを向いてこう言った。

「「いってきます!」」

二人は笑顔で川越の中へ溶け込んで行った。

「いいカップルだね〜!」と彼女はカップルの背中を見て言う。

「だね。」と僕もうなずく。


日が暮れた頃。二人のカップルが時の鐘の前に帰ってきた。

「時間を気にせず彼女と遊べて楽しかったです!ありがとうございました!」と笑顔な男性。

「気付いたらこんなに日が暮れてました。ありがとうございました。」とこちらも笑顔な女性。

「良かったです!」と言う彼女の横顔はとても満足していた。

「「またいつでも依頼してください!」」と僕らはお辞儀した。

「「イエーイ!!」」
僕らはカップルを見送った後にハイタッチをした。

「二人とも幸せそうな顔してたね。」と彼女は嬉しそうに言う。

「うん!ってか見てるこっちまで幸せになったよな!」と僕は照れながら言う。

「この仕事案外楽しいかもね!」
彼女は上を向いて微笑んでいた。

「ああ!俺もそう思う。」
僕は彼女をチラッと横目で見てから上を向いた。

それからというもの、まるで鐘の音が広がるように、見てくれる人、依頼をしてくれる人が少しずつ増えていった。

「学校に遅刻したくない」という依頼があったり。
「時間が無い世界を体験してみたい」といった依頼があったり。

ネット上でも僕らのことが少しずつ知られていった。

「依頼すると時間を無くしてくれる人たちがいるって知ってる?」

「知ってる知ってる!確か名前は時無し屋!」

「時を無くせるって嘘っぽい話。マジらしいぞ!」

「ってか時無し屋の女の子可愛いよな!」

「わかるわ〜!」

話題が話題を呼び、いつの間にか有名グループの一つになっていた。


ある日の夜。僕らはお疲れ会を開催した。

彼女は鼻歌を歌いながら茹で上がったばかりのそうめんを皿に載せて持ってくる。

トマトやネギの入ったトッピング皿と冷しゃぶの入った皿もやってきた。

「「かんぱーい!」」
二人はいつものキンキンに冷えた麦茶を飲む。

「乾杯って一度言ってみたかったんだよね!」という彼女はなんだか嬉しそうだった。

「マジで分かりみの鎌足だわ!」と笑顔な僕。

僕らは静かに手を合わせる。

「「いただきます!」」

「トマトさっぱりしてて夏に合うな〜!」と僕はトマトを口に入れる。

「トキマが教えてくれた冷しゃぶも意外とそうめんと合うね!」と彼女は冷しゃぶを口に入れる。

「ねぇ。そういえばさ。最近、時が無くなる感覚伸びてない?」と僕はそうめんをスルスルと食べながら彼女に目を向ける。

「…トキマ。気づいたのね!」と箸を置いて彼女は僕をじっと見つめた。

「トキマの言う通り、この力を使うたびにどんどん無くせる時間が伸びていってるの。」

「やっぱり!」と僕も箸をそっと置く。

「しかも時が無くなる範囲が川越だけじゃ無くなってるみたい。」と彼女は小声でいう。

僕は最初は数秒しか無くならなかった時が次第に1分、10分、1時間と伸びていったこと、時無しの範囲が川越の外に及び出したことを彼女から聞いた。

「今日はどのくらいの時が、どのくらいの範囲でなくなってる?」と僕は聞く。

「多分…1日だと思う…範囲はわからないけど恐らく隣まで…」と言う彼女はどこか不安そうだった。

「俺さ、時間に縛られて生きるのが嫌だったんだよね。そんな時に時間をなくせる咲季に会って、時間がない世界を生きられて感謝しかないよ!」

「俺みたいに時間が無くなって喜ぶ人だっている!だから不安な顔すんなって!」と僕は彼女を精一杯励ました。

「ありがとう!」
彼女は雲が晴れたような顔をしていた。

「ねぇ。口にネギついてるよ?」と口に手を置いてクスッと笑う彼女。

「こ、これはわざと付けてるんだよ!」と赤面する僕。

この二人の時間を忘れた他愛もない会話は夜の川越に静かに響き渡った。

〜to be continued〜


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