時間の無い世界で、また君に会う 第2章 少女の過去
〜前回までのあらすじ〜
時間の存在に疑問を持つ少年「トキマ」。
時間に対して考えている時に道端で「時間をなくしてみませんか?」と書かれた一枚の紙を見つける。
その紙に書かれたことが気になり、偶然載っていた住所を頼りに埼玉県の川越市へ。
紙に書かれた住所通りの古い建物に着いたトキマは一人の少女"咲季(サキ)"に出会う。
夕焼けが綺麗に広がる川越を見渡していながら、咲季は時の鐘を鳴らす。
その鐘の音が川越をゆっくり包み込むように広がっていくと同時にこの世界から時間が無くなっていた。
咲季は時を無くすことが出来るのであった!
にわかに信じがたい僕はスマホの故障だと思い、とっさに腕時計を見る。
しかし、時計の針は消えていた。
━━━紛れもなく時間が無くなっていた。
僕は時間が無くなったという事実に意外とすぐに飲み込んだ。
「ふぅー」と目をつぶって深呼吸をする僕。
落ち着いた僕は目を開けると目の前で彼女が笑っていた。
「さぁ行こう!」と彼女は呆気にとられていた僕の手を取り、時の鐘を勢いよく降りる。
アニメでよくみる時間が止まったという感覚はない。
━━時間そのものの存在がなくなっているのである。
その証拠に川越の人たちはみんな変わらず歩いていた。
「おっかしいな。時計が故障してるのか?」
そんな男性の声がどこかしらからか聞こえてくる。
僕はキョロキョロと無言で周りを見渡していた。
「もしかして信じてなかったの?」と僕の顔を覗き込みながら彼女は言う。
「う、うん…」
僕は顔を隠すように下を向いた。
それから僕らは時間がなくなった川越で色んなものを見て歩いた。
「おばさん!このスイートポテト2つちょうだい!」と元気な声で注文する彼女。
「さーちゃん!いらっしゃい!」とスイートポテトを袋に詰める優しそうなおばさん。
「とてもいい匂いがすると思ったら、スイートポテトの匂いだったのか!」とウキウキする僕。
「川越はスイートポテトが有名なのよ!」
と彼女はしたり顔で解説した。
「あら、もしかしてさーちゃんの彼氏さん?」とおばさんは慣れた手つきで会計をしながら僕の方を見る。
「ち、違うよ!おばさん!こちらの男の子は私のお友達のトキマ!」と慌てる彼女。
「ど、どうも〜!」と僕は頭に手を置いて挨拶した。
「さーちゃんにも男友達いたんだね〜!」とおばさんは微笑む。
「それくらい普通でしょ!」と彼女はムスッとなって外に出た。
僕も彼女の後を追って外に出ようとすると、おばさんに声をかけられた。
「さーちゃんをよろしく頼んだわよ!」
「え?」と僕。
「さーちゃん、最近元気なかったのよ。でも今日はすっごい元気だったから。多分君のおかげよ。ありがとね。」
「いゃ、僕は何もしてないですよ。」
「はい。これおまけ!」とおばさんから2人分のアイスクリームを貰う。
「ありがとうございます!」
「また来てね!」とおばさんは小さく手を振った。
僕はアイスクリームを持ちながら急いでお店の外にでた。
「ごめんごめん!お待たせです!」
「おばさんと何話してたの?」と彼女は僕の方を見る。
「な〜いしょ!」と僕は持っていたアイスクリームを一つ彼女に渡した。
二人同時にアイスクリームを食べる。
「「美味しい」」
それはそれはとても甘い芋のアイスクリームだった。
空が暗くなり出した頃。
「トキマ!ここでご飯食べよう!」と彼女はもんじゃ焼きのお店を指差す。
中に入るとジュージューという音と一緒に美味しそうな匂いが総攻撃を仕掛けてくる。
「お!さーちゃん!いらっしゃい!」と大きな声のおじさん。
「おじさん!いつもの!」と彼女はメニュー表をみずに注文した。
「はいよ!」とおじさんは厨房の方へ向かう。
「さーちゃん。今日は彼氏連れてきたの?」とおじさんが手を洗いながら尋ねた。
「違いますぅー!」と口をタコにする彼女。
「咲季さん。川越の人たちの仲良いね!」
「まぁね。川越の人たちはみんな家族みたいなもんだよ!」ともんじゃ焼きの準備をする彼女。
「はいお待ち!」とおじさんが持ってきてくれた具材はとても多かった。
明太子にチーズにお餅にいくつもの歴戦の具材たちがお皿の上に一堂に集結していた。
それらの具材を素早く混ぜて鉄板に流す彼女の手つきは慣れたものだった。
「よく来るの?」と僕は混ぜるのを手伝いながら言う。
「昔は家族でよく来てたよ。最近はあんまり来てない。」と彼女は鉄板の真ん中に具材を整え集めながら言う。
「そういえばお母さんとかお父さんってどうしてるの?」
「お父さんもお母さんも事故で亡くなった━━」
彼女は悲しげな顔で自分の過去について話し出した。
「お父さんはサラリーマンをやってたんだけど、3年前に車にはねられて亡くなったの。」
「車を運転してた人は急いでて目の前が見えなかったらしい…」と小声で話す彼女。
「それからはお母さんが代わりに働いてくれていたの。毎朝早くに家を出て。夜遅くまで残業して。そんな毎日に身体が限界を迎えててね━━」
「ある日。寝坊しちゃって、遅刻しそうになった母親は遅れまいと限界な身体を叩き起こして走っていったの。その夜だった。病院から電話があったのは━━」
「その電話でお母さんが朝飛び出していった後に事故にあったと知ったの。」
「私の両親は時間に殺されたの!」と彼女は拳で机を叩いた。
いつの間にか僕は具材を混ぜている手を止めてしまっていた。
「私は時間なんてなければ…って。そう必死に訴えながら時の鐘を叩いた。」という彼女の手は止まっていた。
「もちろん。何も起きなかった。でも悔しくて悔しくて。だから必死になってずっと鳴らし続けたの。」
━━僕は言葉が出なかった。
「もう何時間経ってて、何百回鐘を鳴らしたか分からなくなってた私はたまたま時間を確認した。」
「そしたら時間が無くなってたの。」と彼女は僕を見る。
「そこで自分に時間を無くす能力があるって気づいたの?」と僕は聞いた。
「その時はさすがに半信半疑だったよ。でもそれから何度か試していくうちに確信した━━」
「一人で生活するにはお金がいるでしょ?だからこの力を使ってお金を稼ごうと思ったの。ついでに嫌いな時間も無くせるし!」と彼女はヘラでもんじゃ焼きの周りを整えていく。
「その時の紙だったのか」と僕はポケットに入れていた紙をおもむろに取り出した。
「でも誰一人依頼こなかった。そりゃそうだよね。普通、時を無くすなんて信じないもん。。だからトキマが来てくれた時…私嬉しかった。」
彼女は無言でヘラを僕に突きつけた。
ヘラを受け取った僕は彼女と熱々出来立てのもんじゃ焼きを食べた。
「あっつ!」と口に手を当てて食べる僕。
「あんまり急がないの!もんじゃ焼きは逃げないよ!」とヘラを片手に笑う彼女。
「でも美味しい!」ともんじゃを食べる僕。
「でしょ?」と彼女は顔に手を置きながら僕を見る。
お店の外に出ると、すっかり空は真っ暗だった。
とても長い時間を過ごしたように感じたが、これは時間を意識する必要がなかったおかげだろうと僕は空を見ながら理解した。
「今日はありがとう!」
彼女は下を向きながら言う。
「こちらこそありがとう!」
僕も下を向きながら言う。
「じゃあまたね!」
彼女がそういうと、静かに秒針の音が鳴り出した。
〜to be continued〜
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