「現地視察」って実際のところどうなの?(前編)

今年もオフィスの同僚たちが休暇に入り、省庁やNGOも閉まって、一年の振り返りや溜まったオンライン研修を行う時期に入りました。今年の自分の仕事を振り返ると、今年も現地視察には出なかったのはユニセフのプログラムの職員としては極めて珍しいと思います。大半のユニセフ職員、特にインターナショナルスタッフは現地視察の重要性を説きますが、私はこれに結構懐疑的なんですよね(&私を採用するような上司も結構懐疑的)。

確かに現地視察のコストに見合うだけの、政策や支援に活かせるだけの知識や経験が得られれば有意義な視察だと言えますが、これって結構難しいんですよね。まず現地視察を有意義なものにするためには、データが完全に頭に入っている必要があります。そんなの当たり前やないか、というツッコミが飛んできそうですが、途上国にインターンやスタディツアーに来る学生さんや青年海外協力隊に限らず、国際協力の専門家でも結構主要なデータを記憶していない人を見かけます。

では、データが頭に入っていない状態で現地に赴くとどのようなことが起こるか、ここマラウイでよく遭遇する事例を紹介しましょう。

「マラウイでは小学校の教員給与が月に日本円で約1万円と低いうえに遅配もあって、教員たちの生活が苦しい。これではマラウイの教育はいつまでたっても良くならないから、教員の給与を上げる必要がある」

これは、教育現場で日々現地の先生と生活を共にしている人がよく口にする言葉です。では、この観察や経験を基にした話を教育省の官僚が聞いて、私に教員給与を上げるべきかと聞いてきたら、私は断固としてNoと答えます。なぜでしょうか?

まず、マラウイは既に国の予算の18%を教育に割いています。この比率はOECDのどの国よりも高い比率となっているうえ、保健・農業・インフラ整備の必要性や国債の償還(実はこれが予算の15%を占めていて、大きな問題になりつつある)を考えると、これ以上教育予算を増やすのは現実的ではありません。そして、既に初等教育予算の90%以上が人件費に費やされていて、これ以上人件費の比率を増やすのも現実的ではありません。なぜなら、マラウイの子供たちの約1/3は青空教室で学んでいる状況ですし、教科書も低学年で2人で1冊、高学年で3人に1冊という状況なので、むしろ人件費比率を下げて、建設費を増やす必要があるぐらいです。つまり、教員給与を上げる余裕なんてどこにもないのが現状なのです。じゃあ、教員の数を減らしてその分給与を上げればいいじゃないか、という意見もあるかもしれませんが、マラウイでは教員一人当たりの生徒数が80人を超えているだけでなく、高い人口増加率のお陰で生徒数が毎年5%ずつ増えているので、教員を減らすだなんてとんでもない、ということになります。

ここで感の良い人なら気が付くかもしれませんが、実はマラウイの教員給与は高いのです。月一万円なのにそんな馬鹿なと思うかもしれませんが、ここマラウイの国民平均所得は300ドルにも満たず、教員給与は国民一人当たり所得の5倍以上もあるのです。他の英語圏アフリカの国々を見ると、教員給与は国民一人当たり所得の約3倍が相場となっており、ここマラウイの教員給与が如何に高いものかが分かります。そして実際に、去年は教職希望者の半分程度しか新たに雇用されず、教員採用倍率が2倍を超えている状況であり、教員給与が安くて教員のなり手がいない、なんて状況ではありません。

ここまでデータを頭に叩き込んだうえで現地視察をすれば、どのような給与設計にすれば教員のモチベーションを上げられるか?、という政策課題に行き着きますが、このデータが一つでも抜けていれば、教員給与を上げなければ!、という間違った結論にたどり着くはずです。しかし、ここまでデータを頭に叩き込んでいる教育関係者なんてなかなかいません。。。


そして、データが頭に入っている以上に重要なのが、データを分析したうえで狙ったターゲットの現地視察をすることです。例えば、マラウイである小学校を視察したとしましょう。そこで得られた知見はどれだけマラウイ全体を代表し得るものでしょうか?マラウイには小学校が5800校以上あって、北と南で言語が違って、西と東で宗教も違います。20%の学校は都市部にある一方で、80%の学校は農村部にあります。農村部の学校もある程度アクセスの良い所もあれば、近くの道路まで半端ない距離があって行くだけで一日かかってしまうようなところもあります。たかだか数校の経験でマラウイ全体の教育について何が言えるのか?、という感じがしますし、統計的なサンプリングをしたうえで全部回ろうとすれば、休日の多さを考えれば1年かかっても全部回れないでしょう。

そこで重要になるのが、現地視察の目的を決めて、データを分析したうえで行く場所を決めるということです。それではちょっと具体例を見てみましょう。

上の図はユニットは郡で、Y軸に総就学率、X軸に生徒一人当たり支出(USD)を取ったものです。郡内で生徒一人当たり支出が増えると、生徒の就学状況が良くなるという関係が見て取れます。ここでライン上の郡に出かけても得られるものはそれほど多くありません。ここで注目すべきはA群とB群に位置する郡です。

A群は生徒一人当たり支出の割に生徒の就学率が高い、いわゆるGood Practiceとして挙げられる郡たちです。これらの郡に出向けば、どのように教育へのリソースを効率的に使用して就学率を高めているのか、他の郡に対する示唆を得られる可能性があります。

これに対してB群は生徒一人当たり支出の割に生徒の就学率が低い、問題を抱えている郡たちです。これらの郡に現地視察に出かければ、何がボトルネックとなっているのか、これも何に気を付ければよいかという点で他の郡に対する示唆を得られる可能性があります。

このような散布図を使って現地視察に出向く場所を決められる分野は沢山あります。例えば、X軸に総就学率、Y軸にGender Parity Indexを取れば、一般的な教育状況の割に女子教育の状況が良い/悪い場所を特定して政策的な示唆を得に行くことが出来ますし、こういった分析は教育へのアクセス・質・ガバナンスや教育の需要・供給など幅広く適応することが出来ます。

このように、事前に現地視察の目的を決めて、さらに現地視察の場所を決めておけば、やみくもに現地に出向いて、そこで見たり経験したことがどの程度その国や地域にとって代表的な問題なのか悩んだり、現地に赴いたものの何も得られるものがなかった、という事態に陥ることは比較的避けられます。「比較的」、と書いたのは、途上国の教育データは結構いい加減なところがあるので、データ分析をしていく場所を決めたものの、そのデータが間違っている、なんてケースがあるからです(苦笑)。

こういったことをしてから現地視察に出向けば、それなりに有意義なものになりそうですが、とはいえインターナショナル採用の国連職員がそれをすることに、3つの理由から私は結構懐疑的です。3つの理由とは、1.インターナショナルの国連職員が現地視察に行くコストの高さ、2.インターナショナルスタッフが現地視察に行った際に直面する現実、3.国連職員が携わる途上国の政策や支援が昔とは大きく変化した、です。というわけで後編ではこの3点について具体的に書いてみようと思います。

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