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カウボーイは、美しく朽ちる

カウボーイが身に着けるものにはブーツやハットやシャツなど、特徴的なものがあり、「カウボーイはカウボーイらしい服装を」と自分たちが自己模倣しているようなところもあるが、基本的にはそれぞれに意味や役割がある。
必要によって生まれて、世代を越えて引き継がれてきた伝統でもある。

ブーツについては過去に紹介したが、カウボーイハットに関して少々語ると(私はカウボーイハットが好きすぎて、語ろうと思えばいくらでも語れるので短くするよう努める……)、これを開発したのはジョンBステットソンという人物で、ハットブランド「ステットソン」は今では最高級のハットメイカーとして頂点に君臨している。
1865年に発売された最初期のカウボーイハットは「Boss of the Plains」という商品名で、「平原に支配者」という意味である。材質は動物(ウサギ)の毛を圧縮して作られたフェルトであったが、現在のカウボーイハットとはやや形状がちがい、てっぺんが平らで、つばの広いカンカン帽のようなスタイルであった。

日陰のないだだっ広い平原で、顔を日差しから守ることが第一の目的で、降雨の際には笠となった。
これが地域の気候や人々の好みによって、さまざまなバリエーションが生まれて今日に至る。高いクラウン(頭を入れる筒)と広いブリム(つば)が共通する特徴だ。
野宿の際の焚き火ではうちわの役割もしたし、バケツ代わりに水も汲んだことだろう。

私は(カウボーイハットをかぶって都立高校に通っていた変な高校生の時代より)、「カウボーイハットのあのかたちはなんなんだろう」と考えていた。つまり、ブリムが外側に反り返った独特のシェイプである。

大きく曲げるとワイルドな感じになるし、緩やかにカーブさせると上品な雰囲気になる。
とにかくカッコいいことは説明不要だったのだが、「あのカーブの役割はなんなのだ」と不思議に思っていた。

調べてみると、ロープを使って牛を捕まえる際に、輪っかをつくって頭の上で回す。その時にハットに引っ掛けて飛ばさないよう、ロープをよけるようなかたちで反り返っているらしい。
ジェイクがもうひとつ答えをくれた。
どうやら「雨が降ったときに、水滴が横に垂れたら肩が濡れる。サイドが反っていれば、体の前(もしくは後ろ)に水が落ちやすい」という意味もあるようだ。なるほど。

長々とカウボーイハットについて語ってしまったが、ファッションとしての要素も大いにあるものの、カウボーイにとっては道具のひとつである。
所詮は、使って使ってダメになったら替える類のものなのである。

ただし、アメリカ(広くはメキシコ、カナダを含む北米)を象徴するアイテムであり、カウボーイの誇りを宿すヘッドウェアでもあるので、愛着をもって扱う。

筆者自身はレザーストアを営む者として、お客さんが「一生モノにします」と喜んでくださるのは大変うれしいことである。
しかしながら、こちらから「これは一生モノです」と勧めることには慎重である。それは言えないのである。
命ある者に死ぬ日が必ず来るように、かたちある物はいつかなくなるから。

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