見出し画像

一芸に秀でる

最近、本田宗一郎さんの本を読んだ。輸送用機器メーカ本田技研工業、通称ホンダの創業者である。本田さんの生きた時代と現代とではあらゆる点で全く異なるが、僕は昭和の日本にも良いところは沢山あったと思っている。昭和の人々が抱いていた思いや苦難には、僕たちが考えもしないことや想像すらできないものがある一方で、気にする必要のない非合理的なこともあっただろう。しかし、あらゆる困難に立ち向かう情熱的な姿勢には心惹かれるものである。

本田宗一郎さんについて知ろうと思ったきっかけは、YouTubeである動画を見たことだ(以上掲載)。音声だけではあるが、その演説の内容と力強さに非常に感動した。

「やりたいものを一途にやらせる方がより立派ですよ。一芸に秀でるということなんですよ。」

本田さんの演説は声に力強さがある。一日一日を本気で生きてきたことが分かる。何に対しても真剣に本気で向き合ってきたのだろう。単純な頭脳明晰タイプの方ではなくどちらかと言えば行動派である。思考を重ね、自分自身の理論をもとに最大限の行動をする。試行錯誤の繰り返しである。それは経営者としての立場に加えて、もともとは技術者であったことが大きく関係しているのではないだろうか。

当時は、当然のことながら現在普及しているようなコンピューターはなかった。しかし、その頃から、コンピューターに備わっている知識や技術を人間に覚えさせることに疑問を提示していた。昭和の人であれば反対のことを主張しそうである。すなわち、気合で何でも覚えろといった内容である。なぜなら自分たちがそうしてきたからで、そこにある種の美徳があると考えているからだ。

時代の流れをいち早く察知し、時代に即した生き方をしていく。その大切さを書籍でも述べている。しかし、この「一芸に秀でる」ことに即した教育は行われていない(少なくとも僕が小学生の頃は)。むしろ数多くの不得意なことまでやらせて、かつそれを点数で示すという方針だ。現代にはやるべきことはそこまで多くないはずだ。子供の頃から得意なことを存分にやらせる。個性が社会的分業の源であることを考えれば、それは社会にとってもポジティブなことである。

子供の頃に、既に興味や関心を奪われたであろう人を数多く見てきた。彼ら彼女らは、社会システムの中で本来やらなくてもいいことをやって、大いに苦しんでいる。現実世界は社会が提示するような枠組みで機能していない。やりたいことを一途にやっている状態が、その人の人生にあらゆる豊かさを与えるのである。

2021年9月13日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?