驚異と怪異-想像界の生きものたち-

国立民族学博物館で現在開催中(2019.8.29-11.26)の特別展「驚異と怪異ー想像界の生きものたちー」をみてきた。
第一部が『水』『天』『地』『驚異の部屋の奥へ』で、第二部が『聞く』『見る』『知る』『創る』で構成されていた。

『水』のゾーンでは、人魚(ディズニー的なマーメイドではない)やカッパ、龍などが絵や置物、人形などであらわされている。
この最初のゾーンで、地面に何かの生きものの足跡があることに気付く。展示の道順を示しているのだ。『水』のゾーンではカッパ、『地』のゾーンでは巨人の足跡で順路を楽しく教えてくれている。順路を示すという役割だけでなく、目に見えない彼らの存在を感じさせる素晴らしい演出だ。
区切りがはっきりとない展示室に迷宮感を出しつつ、順路はわかりやすく。
混沌とうずまく彼らの存在をうまく表現していて、見事だった。今回の展示の仕方で一番のお気に入りだ。

『天』のゾーンでは、翼をもつものへの憧れを思い出させてくれた。
特に、展示されていた影絵の細かさに感嘆した。透明の展示台の上から光を当てて、影を見ることができるように展示してくれているのも良かった。色んな角度から楽しんだ。
世界のどこの生きものたちも、丁寧な細工で作られていて、彼らが民族の精神世界にとって重要なものであることがわかる。

『地』のゾーンは、『水』や『天』と違って、人間の住む世界の延長にあり、だからこそなのか、不気味さが増すような感じがした。身近にいるような、そんな怖さがある。正直、気持ち悪くて足早に進んだ場所もあった。
SF映画の金字塔である「2001年宇宙の旅」の監督であるスタンリー・キューブリックさんが、「想像もつかないことは想像できないってことがわかった」と語ったらしい(「月刊みんぱく」2019年8月号より)。当たり前のようだが、確かに想像上の生きものというのは、結局地球上にいる生物を組み合わせたり、一部分の大きさを変えたりすることでしか生み出されていない。そんなことをしみじみと考える。

そして、1階の最後、『驚異の部屋の奥へ』。
驚異の部屋を避けてはこの特別展は語れないだろうと思っていたが、しっかりと展示を盛りあげてくれていた。
驚異の部屋とは、博物館の始まりと言われており、奇妙なものを集めた部屋のことだ。驚異の部屋を模した棚も置かれてあった。
しかし、このゾーンは『驚異の部屋』ではなく、『驚異の部屋の奥』。
近世の日本を中心に、驚異の部屋に集められるような奇妙なものの扱われ方に焦点を当てている。
江戸時代、生きた人魚は捕まえられなかったが、死んで骨となった状態でなら、たくさん発見(?)されていた。なにかしらの加工をしたとわかる(というかレントゲンとともに展示されている)人魚のミイラや骨がたくさん展示されていた。いや、これはおかしいでしょ、とツッコミを入れざるを得ないものもあったが、当時大衆はこれをみて、やっぱり人魚はいた!!!!と驚いただろうなぁ、と思った。
それと同時に、作った人が絶対にいるのだから、彼らはどんな気持ちでこれを作ったのだろうか、ということにも思いをはせた。

このゾーンで第一部は終わり、第二部の展示がある2階に場所を移す。

『聴く』のゾーン。
ここも素晴らしかった。
とにかく怖い!
音が人間にとって、とても大事な感覚器官のひとつであることを実感する。
布で区切られた空間になっていて、その中に入って目を閉じて音を聞いていると、恐ろしいのにこの場にいたい、不思議な気持ちになった。お化け屋敷に怖いのに行っちゃう感覚って、こんな感じなんだろうか?
『驚異と怪異』なんだからやっぱり怖くなくっちゃなぁ!と嬉しかった。
音を文字でも表記していて、聴覚障碍者への配慮をしているところもみんぱくらしく好感が持てた。

『見る』のゾーンではイエティやネッシーが、ぬいぐるみなど商品化までされていたのが面白かった。

『知る』のゾーンは大きく立派な本や学術的な本なのに、書かれていることは「驚異と怪異」のこと、という真面目さが面白かった。

『創る』ゾーンでは、来館の目的のひとつ、五十嵐大介さんの作品がみれて大満足!特別展『驚異と怪異』のための描き下ろしとはいえ、「異類の行進」は連載中の『ディザインズ』と世界観はほぼ一緒だ。
現在もなお生まれ続ける想像上の生きもの。彼らは本当に想像上だけなのか?
現在に生きる私が、五十嵐大介のマンガにそう思わされているんだから、過去の人々が脅威や怪異の伝承を信じていたって、なんの不思議もないのだ。

最後に。
驚異について、この展示の企画者である山中さんがこんな風に書いている。
‘‘この世には自分が知らないもの、説明できない不思議なものがあるという驚きは、知的探求心を刺激するだけでなく、興奮や快感をもたらす‘‘(『驚異と怪異———想像界の生きものたち』より)。
それを読むだけでは、そんなものか、と思うだけだが、まさに自分が体感してしまった。わけのわからないものをみることによる快感を。
『驚異と怪異』、最高に気持ちよかった。
この特別展に関わってくださったすべての方に、感謝と敬意を。

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