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ブラチスラバ世界絵本原画展「絵本でひらくアジアの扉」@東大阪市民美術センター

ブラチスラバとは、スロバキア共和国の首都だ。ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB:Biennial of illustrations Bratislava)は、その名の通り、世界中の絵本原画のコンクールで、2年に1度おこなわれる。
その受賞作品の展覧会が、地元の東大阪市にもやってきた。

展示は全体として、韓国と日本のものが中心で、最後の章に国関係なく最新2021年の受賞作品の紹介があった。

まずはプロローグから。ブラチスラバ世界絵本原画展とはなんぞや、ということが説明され、日本、韓国、中国の今までのノミネート作品が展示されている。

プロローグ

ここの展示物は手に取れないので、こんな絵本たちが受賞したんだなぁとなんとなく眺めて、展示室へ。

まずは、韓国の絵本ではじまった。
最初の部屋に展示されている3つの作品はすべて絵本というよりアートブックと言って良いような、きれいな絵だった。
特に印象に残ったのは、「黒うさぎ」というタイトルの絵本で、装丁からこだわりがみえる。
原画をみると、きらきらが自然の葉っぱや綿毛に付いていて、とてもきれいだった。けれど、このきらきらはなんだろう?と思っていたら、作品のキャプションを読むと、きらきらは、色とりどりのプラスチックごみを表現しているということだった。うさぎは対比するように黒色で描かれていたのだが、ごみを詰めたごみ袋を閉じた姿を現していたのだった。

その後もまだまだ韓国の作品が続く。
特にわたしの興味を引いた絵本は、「草のなかま」と「すごいゆき」という絵本で、「草のなかま」の、草ひとつひとつに顔があって、個性があるような表現が好きだ。草が刈られる絵をみると、反射的に痛がっているのかと考えてしまったが、キャプションによると別にそんなこともなく、それは主題には関係ないようだった。
「すごいゆき」は、雪の白色は描かないで下地のそのままで表現しているのも良いし、遠近感をあやふやにすることで、はじめは何をしているかわからないところから、ページを進めると、あ!これは顔だったのか!とわかるところが面白かった。よくある表現方法かもしれないが、やっぱり良い。

展示は、原画だけでなく、数枚の原画のあとに、その原画の絵本が手に取れるように置いてくれている。ほとんどの絵本は、文字を使わなくても成り立つぐらい、絵を中心に物語が紡がれていて、外国語の絵本でもなんとなくわかるのが良い。
最初はひとりで見に行ったが、これは良い展示だし、誰かとわいわい話しながら見たいなぁと思って、後日友だちと見に行った。これは大正解で、自分とは違う見方を知れたり、自分の思うことを聞いてもらったりして、満足した。

また、韓国での取り組みのひとつに絵本をウェブ上でより深く、また楽しめるコンテンツがあり、展示場でQRコードを読み取り、遊んでみた。

このような取り組みからも、デジタル大国である韓国の先進性を感じるが、それは絵の作画技法にもいえる。ほとんどの作品がデジタル作画をしているのだ。そのため、絵本と原画で発色に差異がほぼなかった。
原画展という意味ではデジタル作品は味気なく、どの部分の絵を展示するのかの問題しかない。
しかし、絵本を作る際におこなったドローイングやダミー本も展示してくれているので、原画展としての楽しみはある。ドローイングを展示している作品は少なかったが、どれも素敵で面白かった。

対して日本の絵本は、色々なアナログ技法を使っている分、原画をみる楽しみは韓国のものよりあった。どの原画を見ても、わくわくする。特に、アクリル絵の具の塗り重ねた厚みや和紙の質感などを感じることができたのは原画展ならではだった。
しかし、「絵本」という完成形と、原画を見比べたときに、原画の方が素敵で良いのだろうか?本来、より良いかたちになって、読者の手に渡るべきではないか?
作者の伝えたいものをほぼ同じ形で伝えることができているのは韓国の作品だと感じた。
単純にどちらのほうが素晴らしいと断ずることはできないが、アナログ技法で原画を描き、デジタル印刷されたものとして完成する場合には、工夫が必要なのだと思う。

また、日本の作品をみていて素晴らしいなと思ったことは、ミロコマチコや荒井良二など、絵本に詳しくなくても名を知られているような有名で人気な作家の作品がノミネートされており、実際に手に取られている作品と国際的に評価されている作品との齟齬がないということだ。良いものが知られ、子どもたち、もしくは大人たちの支持を受けているということは、子どもたちが素晴らしいものに触れる機会を増やしている。

そして最後の章に、2021年度の受賞作品の紹介と実物の絵本が展示されていた。
個人的には、「el Mar(海)」というメキシコの絵本が気になった。詩人の詩に、3人の作家が絵を付けたそうだ。別々の人の作品が組み合わされているのに、調和が取れていて、美しかった。しかも、3人の略歴を見ると、美術ではなく哲学を学んできたとの経歴が!美術の裾野は広く、そして深いのだと思う。

また、子どもたちによる人気投票が壁に貼られており、「たまごのはなし」がダントツ一位人気だった。ユニークなキャラクターが彼らの心を掴んだのだろう。絵本というより、児童書のような文章量だったが、そのキャラクター造形の強さによって力ある作品になっている。

展示にも、切り抜きパネルでプロローグのところや出口付近に登場し、楽しませてくれた。

2階の展示場に向かう道中。

2021年度に金のりんご賞を受賞した韓国のイ・ミョンエ作の「明日は晴れるでしょう」より、絵本に出てくる登場人物に塗り絵をするコーナーもあった。
黄色い線で人が繋がっている絵本と同じように、塗り終わった絵は、黄色い糸に貼り付けて完成だ。

友だちが色塗りをしている。
わたしは女の子をオレンジの服にした。


東大阪市民美術センターでの展示は終わったが、栃木、埼玉、新潟と巡回する。
近くに巡回するのであれば、地元に展示がまわってきた幸運を噛みしめて、見に行って欲しい。
子どもたちにより良い物語を、より良い形で与えたいという優しい気持ちを持った人たちがたくさんいるということがわかる、あたたかい展示だった。
関係したすべての方の思いと努力に敬意を。


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