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「OLD ROOKIEs」 第5話 -スタートライン-

「森くん、このまま雑誌の広告をどんどん売って、会社を成長させていこうや」

森がフューチャーワークスの社長を任されて半年ほどが過ぎた頃。親会社のワークスコーポレーションの社長である主森は、『DTPWORLD』や『CGWORLD』をはじめ、雑誌を中心に既存の出版事業をさらに伸ばしていきたい意向が強まっていた。

「はい。もちろん、雑誌広告はこのまま頑張って売っていきたいと思っています」

森は、主森の意向に沿うように返事をしながらも、心の中で別の考えを抱いていた。

今は好調な雑誌広告だが、将来的にこの状況が続くことはないだろう。新しい時代へ向けて、新しいことをやっていきたい。

「主森さん。僕は出版ビジネスを伸ばすと同時に、コンピュータや通信の分野で、新しい販促支援をやってみたいと考えています」

森は紙媒体だけでなく、インターネットなどの新しいメディアを活用し、外資系のIT企業へ向けたマーケティングや販促支援の事業に挑戦したいと考えていた。

それに、『DTPWORLD』や『CGWORLD』はあくまで主森と永田が立ち上げたメディアだ。人が作った商品のスペース(広告)を売るという仕事だけで満足できるはずはない。森はフューチャーワークスの社長として、裁量を持って自分の商品を作りたいという思いがあった。

しかし、主森からのGOが出る様子はない。

「まずは、今のビジネスを成長させることが先や」

1年も経たずして、それぞれの思惑の違いは明らかになり、事業の方向性で意見が分かれてしまっていた。

主森はフューチャーワークスの株を所有する親会社の社長であり、オーナーだ。一方、森は社長とはいえ、雇われ社長。本気で対立すれば、その勝負の結果は決まっている。

しかし、主森はその権力を行使することはせず、辛抱強く森の意見に耳を傾け、できるだけ森のわがままを受け入れていた。

ところが、その主森の優しさが、森にとって大きなプレッシャーとストレスになっていった。

森は、どうしてもこれからやって来る「コンピュータと通信」の波を無視できなかった。

そして、1998年。
二人が出した答えは、MBO(マネージメント・バイ・アウト)。
冷静な話し合いのもと、森が会社の全株式を買い取ることになった。

こうしてフューチャーワークスは名実ともに森の会社となった。

さて、どうしようか。

森は本当の意味で起業のスタートラインに立ったのだった。

つづく。
第6話 -スタイル- https://note.mu/showcase/n/n4b6d5391be52

株式会社ショーケースの「これまで」と「これから」を描くノンフィクション小説『OLD ROOKIEs』は、毎週1話ずつ公開中!

第1話 -卒業- https://note.mu/showcase/n/nd305564958cc
第2話 -挑戦- https://note.mu/showcase/n/n2b1a8afc07fc
第3話 -犬のウン- https://note.mu/showcase/n/nfb96f0b7d7ee/edit
第4話 -予感- https://note.mu/showcase/n/nb2813ef9f60d

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