ヒゲを剃って、思ったこと
つい先日、1か月以上伸ばしてきたヒゲを剃った。
無骨なちょび髭と、あご全体にもわらわらと生えたヒゲをみて、「え?会社員なんですか?」とよく驚かれた。「いや、web系の仕事で、基本オフィスワークなんで問題ないんですよ」というと、たいてい納得された。
ぼくがヒゲを伸ばした理由は、どうにもこうにも見栄えのしない風貌に、ダンディーな印象を持たせて「個性」を確立したいという、せせこましい見栄からくるものだった。ほとんど苦肉の策として取り入れた、付け焼刃的なファッションスタイルだったわけである。
けれど、「ただ伸ばすだけじゃ、ダメなんだ」という、ごく当たり前のことに気づいてしまったのだ。ヒゲを無造作に伸ばし続けるだけでは、絵に描いたような「ぼうぼう」になるし、単なる不潔でだらしのない人に映ってしまう。こんなの、ぼくが欲しかった「個性」じゃない。鏡をみてそう思った。
ヒゲを伸ばすには、メンテナンスのための道具をしっかりそろえ、定期的にお手入れしなければならない。その前提を抜きに、ヒゲをファッションとして生かし切ることは不可能。計画の甘さに気づいたぼくは、生えそろった毛に手を入れる決断を下した。
いま残っているのは、短く切りそろえられた顎ヒゲだけである。
一か月以上伸ばしたヒゲと、半日もしないでそり落とすヒゲとでは、思い入れの深さも違うのだろうか。ちょび髭に手を入れる際、ちょっと痛い思いを体験した。
儀式は、風呂場にて行った。
シェービングジェルを塗り付けたあと、カミソリをあてる。最初は下からアッパー気味に剃ろうとした。電気カミソリでヒゲを剃る際も、普通は下からローラー気味に、じょりじょりそり上げる。体毛は皮膚から下へ向けて生えてくるため、上向きに剃るほうが理にかなっているのだ。だから、手剃りのカミソリを使う場合も、ぼくはいつも下からそり上げるようにヒゲの一本一本を摘み取っていた。もちろん、痛みなど感じたことはなかった。
ところが、今回その方法で試したら、ものすごく痛かったのだ。鼻と上唇の間の狭いスペースをほぼ埋め尽くしたヒゲは、長く重く伸びていて、一か月の間に深く根を下ろしていた。ヒゲは太くたくましく育っていて、カミソリを入れるごとに抵抗し、何度となくぼくの手にストップをかけた。
「剃らないで」そんな声が聞こえてくるようだった。
痛みに耐えかねたぼくは、カミソリの向きを変え、上からこすりつけるようにあてていった。すると、痛みはウソのように消え、ヒゲたちもおとなしく剃られるままになり、シャワーのお湯とともに排水溝へ流れていった。
普通、ヒゲを剃ったあとはつるりとした肌に気持ちよくなるものだけど、こんなに後味の悪い処理の日はなかった。もう安易にヒゲを伸ばすことは慎んだほうがいい、そんなことを教えてくれた出来事だった。
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