小説|だいたいお前が悪い【放課後】

メイドさん達(いずれにせよ)の過去編です。タグ「 #シリーズ_お前 」にまとまってるやつ。


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「話をしよう」
 一ノ宮がそう言ったので、透は、何の?とその続きを問うた。しかしそれきり一ノ宮は、後ろの席の透と話しやすいよう真後ろにひっくり返した学生椅子の、その上で足を組んで窓の外を眺めているままだった。透は眠たげに欠伸をすると、机に両肘をつき、それと同じように窓の外を見た。
 赤く落ちた日の中を同級生や、下級生が友人らと談笑しつつ帰っていく。引かれる自転車の影が学生服の影と一緒に背後に伸びる。そんな光景は夕刻、校舎の一階、教壇に向けて一番左の席、つまり透と一ノ宮の席にいれば毎日のように見ることができる。
「愛され可愛がられる為に存在する生き物の話だよ」
 ああ、つまり、お前の事。そう思ったのが顔に出てしまっていたのか、一ノ宮は嫌に不服そうな顔をした。比較的整っていると言えるのであろうその顔に、肩ほどに伸ばした髪がぱさりとかかる。少し目にかかっている前髪に、そろそろ切らないといけない、と数日前に呟いていたのを思い出す。
「何、愛玩動物か、それとも人間の?」
 うん、そう言ってまた一ノ宮は窓越しに外を見て、くらげのようなもの。と言った。
 くらげ。
 透が繰り返すと、一ノ宮は此方を見もせずに目を閉じた。透は薄っすらとした眠気に机に突っ伏し、顔だけを一ノ宮に向けた。
「海岸沿いに打ち上げられるゼラチン質とか、遊泳中に人間が握り潰すそのくらげ」
「くらげは毒を持ってる」
「例え話を間に受けないでよ、ミズクラゲだとでも思っておけば良いでしょうが」
「はい」
 一ノ宮がようやく体ごと此方を向いて話す気になったようなので、透も緩んでいた体を起こして向き合った。
「愛され弄ばれる幸福と、排斥される不幸な自由の話だよ」
「一ノ宮さんは俺にわざと分からないよう喋っているんじゃないかと思うんだけど」
 それは、尤も。そう呟いて一ノ宮は透を、まるで透自身の価値を測るかのように見据えた。透がその居心地の悪さに辟易しだした頃、一ノ宮はひとつ答えのような宣言を呟いた。
「君は私がどうあろうと否定はしないかい、考え直せと喚くかい」
「俺がそんな殊勝な奴に見える?好きにすりゃ良いよ、ただし、その結果どうなろうが俺は知らない」
「言いそうだと思った事を的確に言いますね」
「分かった事を聞くのはわりかしたちの悪い部類だよ、一ノ宮さん……じゃあついでに」
 透は先刻自身がされていたのと同じように一ノ宮を見据えると、少しばかり楽しそうに口を開いた。そしてその間中一ノ宮は大変に嫌そうな顔をして透を見ていた。
「俺になんかあった時は一ノ宮の家にでも住まわせてくれよ」
「図々しいなあ」
「図々しいかはともかくそういう事だろ、別宅にでも一人で住むんなら、そんなら俺も入れてくれたって良いだろ、金はあるんだし」
「私の家の金なんだけれども」
「そうだね」
 まあ、うん、と一ノ宮が少しばかり頷いて、考えておくよなんて言うものだから、透は少しばかり驚いてしまった。そうしてその驚きに被さるように最終のチャイムが教室に響いたので、二人は一緒とも別々とも付かないような足取りで、荷物をまとめると教室を後にした。

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朱沼

小説と漫画

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