自治体の「政策評価」の再評価を―その2 アウトプットばかり評価していては意味がない?―

1 自治体の政策評価へのよくある批判

前回は、自治体の政策評価における指標設定の難しさについて述べましたが、今回はその続きです。

自治体の政策評価に対しては、以前から様々な批判がされています。ただ、それらの批判の中には、感情的なものや理論的でないものも散見されます。

よくある批判として、「アウトプットばかり評価していては意味がない」もしくは「アウトカムを測定しなければ意味がない」というものがあります。

今回は、この批判について考察してみたいと思います。

2 アウトカム指標は政策の改善に結びつくのか?

指標は、一般には、アウトプット指標、中間アウトカム指標、最終アウトカム指標といったように段階的に設定されます。

例えば、自治体がメタボリックシンドローム防止プログラムを住民向けに実施した場合に、アウトプット指標を「プログラム参加者数」、中間アウトカムを「プログラム参加者のメタボリックシンドロームの改善率」、最終アウトカムを「早世率」や「健康寿命」に設定したとします。

このうち「早世率」は65歳未満死亡率のことであり、若くして亡くなる人の率を示したものですが、若くして亡くなる要因には様々なものがあります。仮に「早世率」が前年度比で減少していたとして、中間アウトカムで設定した「プログラム参加者のメタボリックシンドロームの改善率」は「早世率」の減少に寄与しているのかもしれませんが、その他にも様々な要因が合わさって「早世率」が減少している可能性もあります。

そのため、最終アウトカムである「早世率」が下がったことがわかったところで、メタボ防止プログラムが本当にそれに影響を及ぼしているのかはわからず、プログラムを改善するために何をすべきなのかは見えてきません。

もう一つの最終アウトカムである「健康寿命」については、「早世率」よりもさらに複数の要因が合わさって「健康寿命」の増進につながっていると考えられます。そのため、「早世率」よりも、より政策の改善に活用しにくい指標であるといえるでしょう。

このように、アウトカム指標だけを見ていても、政策の改善にはつながらないといえます。

3 アウトプット指標は政策の改善に結びつけやすい

一方で、アウトプット指標である「プログラム参加者数」と、中間アウトカム指標である「プログラム参加者のメタボリックシンドロームの改善率」の関係性を分析すれば、少なくともプログラムに参加した人のメタボ改善が進んでいるのかいないのかはある程度の分析ができます。それをもとに、プログラムをより効果的なものにしていく試行錯誤をすることはできます。

このように、アウトプット指標の方が具体的な事務事業の改善に結びつけやすく、アウトカムを測定する指標になればなるほど、指標を分析しても政策を改善するために何をすればよいのかが把握しづらいといえます。

これは、指標の代表性とコントロール性という特性からも理解することができます。指標の代表性とは、その指標がビジョン・ニーズをどこまで包括的に表現できるかを示すものです。一方のコントロール性は、指標内容の実現手段をどのように想定できるかを示すものです※1。

たとえば、社会指標※2や幸福度指標※3のようなビジョンやニーズを全体的・包括的に把握しようとする指標は代表性が高いため、分析して政策の改善に結びつけることが難しい傾向があるといえます。一方で、政策評価の事務事業分析シートで設定されるようなアウトプットの指標はコントロール性が高く、事業の改善に結びつけやすいといえます。

4 アウトプットとアウトカムの関係性の分析こそが重要

以上示してきたように、「アウトプットばかり評価していては意味がない」「アウトカムを測定しなければ意味がない」といった批判は、額面通り受け取れば、少し的が外れたものであるといえます。

アウトカム指標を設定すること自体は全体的な政策の成果を把握するために重要であるものの、アウトプット指標が不要ということではありません。アウトプットとアウトカムの関係性を見ていくことの方が重要であるといえるでしょう。

※1 斎藤達三(2003)『総合計画と政策評価』地域科学研究会、p.8
※2 国民の豊かさはGNP(国民総生産)では測定できないという問題意識から、社会の状態や豊かさを評価するために1960~70年代以降作成された指標。国民生活の全体的な目標を示すため、健康、教育、労働、余暇、雇用、所得、消費、住居、環境、安全といった生活領域ごとに個別指標が設定された
※3 住民の幸福度を指標化したもの。社会指標と同様に、GDP(国内総生産)では住民の幸福を表現できないという問題意識から2000年代中頃から自治体や国で作成された

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