自治体シンクタンクは地方分権推進の原動力となるか?

1 民間シンクタンクとの違い

自治体シンクタンクとは、地方自治体が抱える課題等について調査研究を行い、政策提言等を行う自治体独自のシンクタンクのことです。例えば、戸田市政策研究所、新宿区新宿自治創造研究所、荒川区自治総合研究所、大田区未来創造研究室、かすかべ未来研究所等、各地で設置されています。

設立の背景には、地方分権による地域間競争を勝ち抜くために政策形成力を高める必要があること、自治体を取り巻く環境や課題が多様化・複雑化する中で、科学的な理論に裏打ちされた政策の実施が求められるようになっていることがあります。実際には、本来、政策形成を担うはずの企画部門が調整業務に追われ、それに代わる組織が求められているという事情もあります。

その機能は、当該自治体への政策提言機能、各部署へのコンサルティング機能、外部有識者等と調査研究を行うことによる人材育成機能、大学・他シンクタンク等とのネットワーク形成機能など多様であり、自治体政策に関する中心的役割を担うことが期待されています。

しかし、よく言われるのは、自治体シンクタンクは企画部門と何が違うのか、民間シンクタンクを活用すればよいのではという意見です。

確かに、自治体シンクタンクでなければつくれない政策はないでしょう。しかし、そのメリットを挙げるとすれば、これまで諮問機関的な位置づけが多かった外部有識者等を組織内部に取り込んでより専門的な研究ができること、大学や民間シンクタンクから見れば喉から手が出るほど欲しいような現場の生の情報・データ等をもとに調査研究が可能なこと、ノウハウを自治体内部に蓄積していくことができることなどがあります。

2 提言にとどまると批判も

しかしながら、思うような成果を挙げられていない自治体シンクタンクも多いといえます。実際、設立はしたものの廃止される組織もあり、様々な課題を抱えています。

例えば、自治体シンクタンクでは専門性のある有識者等をいかに確保するかが重要ですが、行政の研究テーマは幅広いため、すべてに対応できる人材を確保するのは容易ではありません。

また、職員の人事異動によるノウハウの断絶や専門性の低下をいかに補うかといった課題もあります。さらに、様々な機能や幅広い分野の調査研究が求められる割に、その人員は少なく、十分な体制があるとは言えないのも現状です。政策提言だけで終わり、実行されないという批判もつきまといます。

3 成功の5つの鍵

それでは、厳しい体制の中で成果を出していくためにはどうすればよいでしょうか。

第一に、機能の絞り込みです。先に挙げたような自治体シンクタンクに求められる機能すべてを満たそうとしても消化不良にかりかねなません。たとえば政策提言機能に特化するなど、必要最小限の機能に絞り込み、成果を上げられる体制を構築すべきでしょう。

第二に、具体的なテーマ設定です。地方分権の在り方といったような抽象論も必要ですが、短期的に政策に結びつけられるような具体的なテーマ設定も盛り込み、常に成果を還元していくことが重要です。

第三に、現場との適切な距離感と緊張感の確保です。学術的な視点も必要ですが、現場の実態とかけ離れてはなりませんし、現場だけで政策をつくるなら企画部門と変わりません。接近しすぎず離れすぎず、一定の緊張感のある関係が望ましいといえます。

第四に、外部有識者の参画方法の工夫です。ある程度オールマイティーな研究者を採用して幅広く研究をすると同時に、テーマごとに専門性を有する研究者に適宜アドバイスを求めるといったように、場面に応じた工夫が必要です。

第五に、実行の確保です。実行(Do)が伴ってこそ頭脳(Think)も活きます。研究だけでなく具体的な実行を伴う組織をドゥタンク(Do Tank)と言いますが、研究段階から各部署と密接に連携して政策を実行できる成果志向型の組織を目指すべきでしょう。

4 結節点の役割

しかし、ここまで述べてきたことも、自治体シンクタンクでなければ実現できないことではありません。では、自治体シンクタンクの本当の存在価値とは何でしょうか。

本来、シンクタンクは、政策形成過程に様々な主体の参加と連携を確保する役割を担うものです。これからの自治体シンクタンクに期待されるのは、地域の住民や企業、NPO、大学、行政等を結びつけるコーディネーターの役割、つまり地域の様々な知恵を結集し、政策を生み出し実行していく結節点の役割を果たすことではないでしょうか。

その実現のためには、一定程度自治体から独立・中立を保っている方が望ましいかもしれません。中立的な立場で地域の各主体を結びつけていく可能性を、自治体シンクタンクは秘めているといえます。

現在の行政中心の政策形成システムを変革しない限り、自治体シンクタンクがいくつできても、それは「行政の政策」に過ぎず、地方分権は進まないといえます。自治体シンクタンクが真の地方分権実現の原動力となることができるか。今後の進化に期待したいと思います。

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