自治体の「政策評価」の再評価を―その1 指標設定の難しさ-

自分の頭の中を整理する意味も含めて、自治体の「政策評価」の課題について、何回かに分けて、思うところを書いてみたいと思います。

1 政策評価とその課題

自治体に「政策評価」という仕組みが導入されて、もう20年近くが立ちます。政策評価とは、自治体が実施する政策や施策、事務事業(以下「政策等という。」について、それらが成果を上げているのかを把握するために指標を設定するなどして評価し、改善に結びつけていこうという仕組みです。

行政改革のツールとして大きな期待とともに導入された政策評価ですが、よく、事務事業レベルの改善くらいにしかつながっておらず、思ったような効果が出ていないという批判がされています。政策評価の課題としてよく挙げられるのが、指標設定の難しさ、予算との連動の難しさ、評価の負担と職員の不満、チェック機能の弱さ等です。ただ、多くの自治体では、これらの課題を認識してはいても、具体的な課題への対応ができているとはいえないのが現状といえます。

2 指標の測定の難しさ

今回は、これらの課題の中から、指標設定の難しさについて述べてみたいと思います。

もともと行政には、アウトカム志向、つまり、成果を求める意識が薄いといわれています。本来、政策等の成果を測定して課題を把握し、政策等を改善したり、効果の高い政策等に重点投資したりすべきはありますが、そこまでは至っていないのが現状です。この背景には、売上高等の明確な評価基準がある民間企業と異なり、行政の扱う社会課題に関するアウトカムの測定は難しいということがあります。

通常、政策等の成果は、インプット(政策等の実施) ⇒ アウトプット(政策等の実施の結果) ⇒中間アウトカム(中間的な成果) ⇒ 最終アウトカム(最終的な成果。インパクトともいう)という流れでとらえられます。例えば、自治体が実施する「禁煙講習会」のアウトプットは「講習会の参加者数」ですが、中間アウトカムは「禁煙講習会を受講して禁煙した人の割合」、さらには「禁煙を継続している人の割合」となり、最終アウトカムは「喫煙によって引き起こされる疾病の減少割合」となります。

政策等を評価するためにはこのように指標設定をしていく必要があるわけですが、健康分野のように、「健康寿命」のような健康のアウトカムといえる指標や「生活習慣病による死亡率」のような死亡原因を把握可能な指標、健康寿命に影響を与える「BMI」のような検診データといったように、収集できる既存のデータが多く存在する分野では、比較的、指標設定がしやすいといえます。

ただ、このような指標設定が容易な分野ばかりではありません。既存のデータがない場合、世論調査やアンケート調査等で収集するほかありませんが、無作為抽出で行う大規模な世論調査はコストがかかりますし、サンプル数の少ない小規模なアンケート調査では回答結果の信憑性が低くなります。

ここで問題提起されるのが、政策評価を実施するために、どこまで指標を求め、どこまでコストをかけるのかということです。

3 新たな指標の模索

しかしながら、安易に既存のデータを用いるのではなく、新しい指標を見つける努力も必要でしょう。

2010年頃から、住民の幸福度を指標化しようという取り組みがブームとなりました。もともと、ブータンがGNH(Gross National Happiness)という国民の幸福度を指標とした政策を実施していくという動きに触発されて、日本の自治体でも住民の幸福度を指標化しようという取り組みが行われました。東京都荒川区の荒川区民総幸福度(GAH:Gross Arakawa Happiness)が有名です。国レベルでも、内閣府が幸福度指標を出しています。

このような、自治体にとって究極のアウトカムともいえる住民の幸福度を指標化していくという取り組み自体は、それが本当に政策の改善や意思決定に活用されるのかは別として、アウトカム指標を設定する試行錯誤をしていくという点では意義があるものと思います。

ただ、一方で、前述したような、どこまで指標を求め、コストをかけるのかというジレンマもあります。やはり、測定したものが政策等の改善に本当に活用できるのかという観点から考えていく必要があると言えます。

以上、自治体の政策評価における指標設定の難しさについて述べてきました。政策評価というのは様々なジレンマを抱えた制度だと思います。今回はこの程度にして、政策評価についてはまた色々な視点から書いてみたいと思います。

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