地方自治の先進地・ポートランドに見るまちづくりのヒント

ポートランドという街をご存じでしょうか。「全米で最も住んでみたい街」「全米一の環境先進都市」「歩行者に最も優しい街」など、数々の名声を博す、米国オレゴン州にある街です。

今回は、地方自治の先進地であるポートランドから日本の地方自治体が学ぶべき点について、私の体験も含めてお話したいと思います。

1 地方自治の先進地=ポートランド

私は1か月半という短い期間ではありますが、ポートランド州立大学にプチ留学し、ポートランドで生活したことがあります。自然と調和した街並みは美しく、コンパクトにまとまった街では買い物も便利で治安も良い。路面電車やバスが縦横に整備され、車がなくても十分生活できる環境にあります。実に生活しやすいこの街に、私はすっかり魅了されてしまいました。

このポートランドという街は、地方自治の先進地として世界的に有名な街です。1970年代のポートランドにおける住民活動は他の同規模の都市と同程度でしたが、その後20年間で他都市の住民活動が減少する一方、ポートランドだけは増加したといいます。

私がポートランドにプチ留学したのは、その自治について学ぶためでした。

2 なぜポートランドだけ自治が盛んになったのか?

しかし、なぜポートランドだけが自治が盛んになったのでしょうか?私が1か月半、現地で見て、聞いて、私なりに理解したのは、次の答えです。

第一に、住民の意見が反映されやすい議会制度の存在です。ポートランドでは、公選の市長と4人の議員(コミッショナー)の5人が行政機関の局や部の責任者となる、全米でも珍しいコミッショナー制が採用されており、行政の責任者が選挙で選ばれることから、住民の声を意識した行政が行われやすくなると考えらえます。

また、議会では、住民が議決案件に関することだけでなく、どのような話題でも発言でき、住民により構成される委員会も多数設置されています。このような制度の存在が自治を促進していったと考えられます。

第二に、様々な部分に住民を巻き込むプロセスが設けられていることです。例えば、市が地域に関する決定をする際には、ネイバーフッド・アソシエーションという地域ごとに設置されている住民組織との対話の機会を必ず設けることになっています。

また、防犯に関する取り組み一つをとっても、レストランで酒類を販売する経営者に対し、周辺に悪影響がないか地域住民との対話を義務付けたり、アパート等の管理者に対して住民による防犯組織の設置を義務付け、防犯活動の実施や社交の場の設置を促したりといったように、様々な部分に住民を巻き込むプロセスが設けられています。

一つの施策だけで自治が活発化するわけではありません。様々なプロセスの積み重ねが自治を促進していったと考えられます。

第三に、行政の柔軟な対応です。ポートランドでは1960年代後半に、高速道路の撤去を求める住民運動が起き、これを契機に30代の革新派市長が誕生しました。この頃から、住民の要望にすぐにNOといわず、YESといえるように難しいことも何とかしようとするようになったといわれています。このような柔軟な対応が住民の信頼を生み、市政への参加を促していったと考えられます。

第四に、成功体験の積み重ねです。自分の意見が市政を動かすという成功体験を積むことによって、それが新たな活動を生んだり、活動家を地域に呼び込んだりといった連鎖反応を起こし、活動することが常態化していったと考えられます。

ポートランドが「全米で最も住んでみたい都市」になったのも、私が感じた生活のしやすさも、この活発な自治がもたらした結果と考えられます。

3 日本への適用はできるか?

以上のようなポートランドから得られたヒントを何とか日本の自治体に取り入れられないものでしょうか。

海外の事例を日本に取り入れようとする時によくあるのが、「歴史的・文化的背景が違うから無理」「制度を変えないと無理」という意見です。

確かに、市民革命が起きていない日本では、元々住民の自治意識が薄く、根付きにくいということはあると思われます。ただ、ポートランドも前述したような様々な取り組みを行って少しずつ自治が盛んになっていったのであり、無理と決めつけたり、制度論に終始したりするのではなく、本腰を入れて地道にあらゆる取り組みを進めていく以外にはないのではと思います。

日本の自治の発展にはまだ長い道のりが必要でしょうが、ポートランドの自治が20年をかけて活発化したように、今から20年後に日本の自治がどう変わっていくのか、私自身もその当事者として考え、行動していければと思います。

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