「事業仕分け」を再考する

2010年度予算編成のために民主党政権が導入し、蓮舫参議院議員の「2位じゃだめなんでしょうか?」発言もあり、一大センセーションを巻き起こした「事業仕分け」。

今回は、この事業仕分けはどんな意義と課題があるのかについて再考してみたいと思います。

1 事業仕分けの事業廃止効力

実は、事業仕分けの導入は、国よりも自治体が先であり、2002年から取り組みが行われてきました。

事業仕分けでは、外部の有識者等が公開の場で事業の必要性についてそもそも論から議論し、事業の廃止、継続が決められます。

本来、行政評価が機能していれば、事業仕分けは必要ないはずです。しかしながら、行政評価は一般的に内部評価であるため、事業を廃止する機能という面では弱いといわざるをえません。

行政では、一度つくられた事業は温存される傾向があります。たった一つの事業を廃止するため、管理職からなる検討会を組織し、詳細な報告書を作成したという例があるくらい、行政の事業を廃止するのは容易ではありません。

なぜならば、行政の事業は便益を受ける関係者が多く、たとえば「少しでも利用している人がいるから」といった具合に、内部で様々な要因を考慮しはじめると、なかなか廃止に踏み切ることができないからです。

そこに外部の目を入れようというのが事業仕分けといってよいかと思います。事業仕分けは、これまで原則非公開で行われてきた予算の査定を市民に公開し、甘くなりがちな内部評価に外部の目を入れたところに一定の意義が見い出されます。

公の場で廃止と判定された事業を継続するには、それなりの説明が必要となります。逆に、廃止と判定されれば大義名分が生まれ、事業を廃止しやすくなります。一部では、「廃止すべきと考えていた事業を簡単に廃止できた」という職員の声もあるくらい、事業仕分けは事業を廃止するツールとしては大きな効力を持っているといえます。

2 事業仕分けの限界と本質

一方、事業仕分けには多くの批判があります。「予算査定等のプロセスの無視、議会軽視になる」「議論を尽くすには、あまりに時間が短い」「仕分け人の選任基準や、仕分けの判定基準が不明確」といったことです。

また、仕分け結果を受けて最終的に廃止を決定するのは行政側であることから、「実効性に乏しい」「仕分け人がインパクトを与えるために廃止判定を過剰に出す可能性がある」など、多くの問題も抱えています。

これらの批判や問題点は確かに的を射ています。しかし、事業仕分けには前述したような大きなメリットもあり、万能のツールではないという前提に立って、うまく活用していくのが前向きではないかと思います。

留意すべき点は二つあります。

第一に、事業仕分けは、成果を定性的に測らざるを得ない事業には馴染まないということです。国でも科学技術費や学術研究費等が仕分けに馴染むのか議論があったように、定性的なものは評価しにくく、事業仕分けにも向いていないといえるでしょう。

第二に、長期的な成果を図るべき事業が、短期的に成果が出ていないため「不要」と判断されてしまう危険性を持っていることです。

これらは、事業仕分けが「費用対効果の面のみに焦点をあてたツール」として認識され、活用されている場合には、必然的に発生する問題であるといえます。

つまり、一つのツールですべての事業を仕分けるのは土台無理であり、幅広い事業に一律に適用しようとする発想が、そもそも間違いなのです。「この課題を議論する(仕分ける)には、このツール」といったように、目的と対象を明確にしてツールを活用することが重要といえます。

3 事業仕分けの進化

行政の事業はいうまでもなく、過去のいきさつと利害関係、政治的な事情も加わり、複雑な構造を持っています。そのため、多くの要因を考慮しなければならず、すべてを同時に議論するには、多くの時間を要します。そこで、ある側面に絞った議論をする際に、事業仕分けのようなツールが有効性を発揮するといえます。もちろん、使い方を間違えると、大きな問題を発生される可能性がありますが、要は使い方次第です。

たとえば、国では民主党政権下で、「事務権限仕分け」というものが行われました。これは地域主権を進めるため、出先機関の事務を国が実施すべきか、地方が実施すべきか仕分けるものです。これまでの事業仕分けでも、最終判定の中で国か、地方か、民間かを仕分けることになっていましたが、「事務権限仕分け」は明確に事務権限の部分に絞って仕分けを行うものです。国の権限を地方へ委譲するということに特化したツールといえます。

最近の事業仕分けでは、外部の仕分け人が議論を行い、市民仕分け人が判定を出す方式が主流となっています。さらには、事業仕分けの生みの親である構想日本では、2013年の高松市を皮切りに「施設仕分け」を行っています。これは、厳しい財政状況の中で「総論賛成・各論反対」となりがちな公共施設の見直し・再配置に特化して仕分けを行う取り組みです。これらは、事業仕分けの進化系とも言えるもので、住民協働のツールとしての活用の可能性示唆を与えています。

また、同じく構想日本のコーディネートにより、無作為抽出で選ばれた住民が地域課題や解決策を考える住民協議会を開催しています。これは、プラーヌンクスツェレ(Planungszelle:計画細胞)と言われる仕組みに近い取り組みです。プラーヌンクスツェレは、ペーター・C・ディーネル(Peter C. Dienel)ドイツ・ヴパタール大学名誉教授により1970年代に考案された市民参加の手法であり、参加者を地域から無作為に選ばれた市民から募り、実施プログラムに沿って少人数で話し合いを行い、出た意見を集約して広報を行うとともに、行政機関に提言し、市民の声をまちづくりに反映させる手法です。サイレントマジョリティの意見を含めて抽出することが可能であり、開催後には地域に対する参画意識が高まる効果も期待できることなどから、住民協働の有効なツールといえます。

このように、ツールはこれまで踏み込めなかった領域に立ち入り、行政の仕事の枠組みを変革する可能性を秘めています。

今後は、各自治体で特定の目的を達成することのできる新たなツールを開発・活用するという視点も重要と考えられます。それは事業の質を高めるツールかもしれませんし、住民協働に寄与するツールかもしれません。

そして、ツールの特性と限界を認識したうえでどう成果を出すか、それは各自治体の創意工夫にかかっており、その取り組みが地方分権の新しい時代を築いていくことになるでしょう。

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