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孤独とのペアリングの提案

 孤独はかなり甘い。とはいえ、白砂糖のようなシャープさもなければ、和三盆ほど穏やかにあとを引くこともなく、黒糖のような、はっきりとしたピークはなさずに太く続く、土臭い甘さがある。かすかにうま味も含んでいる。固体にめり込むような歯ざわりがある。常温で提供される。おそらく、孤独は黒糖を使った羊羹に最も近い。


 それにアルコールがとてもよく合う。あまり複雑ではいけない。風味より五味がはっきりしたほうがいいから、ボタニカルではない蒸留酒、ウオッカやピスコのカクテルがいい。あくまで孤独を引き立てるよう、ストレートやロックほどのアルコール度数ではなくカクテルで。孤独をアルコールで際立たせつつ、洗い流してもいけないないので、甘めのカクテルがいいだろう。シンプルなシロップ。表情として甘さだけを残さないよう適当な酸味を。フルーツの表情や特殊な酸の印象がないほうがよいから、酸味は単純にレモンで。


 ここに何か食べ物を合わせるとしたらロメインレタスやサニーレタスを中心としたシンプルなグリーンサラダ。オリーブオイルとバルサミコのドレッシングで、ごくごく普通に。葉っぱのほのかな苦さ、わずかなナッツの風味、柔らかな歯ざわり、バルサミコの深さ、オリーブオイルの緑の香り。ふわふわに仕上げることで、フォークに刺さるまでに一瞬の間があることも大事だ。皿に残って鈍く輝くドレッシングも回想に誘う。孤独を際立たせるというより、孤独を新たに捉え直させる、ニュアンスを与えるためのよすがとなる。ただ、ペアリングのように後味を高め合うという関係ではなく、時間をおいてそれぞれの記憶に深みを与える関係であることには留意してほしい。


 スープが続いてもよいだろう。芹と鶏肉と舞茸で鍋をした鍋の汁が土臭くて理想的だ。口には何も残らないのがよいので、脂もなく、具もないほうがいい。自然に濁っていてほしい。最初から最後までぬるいのが、孤独のくすんだ甘さを主役として引き立てるこつ。


補足:

 ここまで書いたあと、「羊羹 酒」で検索をかけると、出てきたのが羊羹とウイスキーの組み合わせについて語る以下の一節。

すると、芳醇で甘やかなマッカランの香りが口中に広がる。そして、口あたりなめらかな羊羹を噛むごとに、2つの異なる甘さが絶妙なハーモニーを生み出す。
【羊羹とウイスキー】お酒は、意外な組み合わせが面白い 《あなたの上手な酔わせ方?TOKYO ALCOHOL COLLECTION?》

本記事が提案するのはあくまで孤独を主体としたペアリングなので、ウイスキーではなく、ウォッカやピスコのかすかな甘さとレモンの酸味によって孤独を引き立たせる、という構成でよいと思う。

これから書きたいと思っているのは「家でできる日本酒の作り方」「ペルー料理を理解するための料理・レストランガイド」「セビーチェのすべて」「ペルー料理を日本料理化する:日秘料理の構想」「砂漠への虚無旅」です!乞うご期待!