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Vas en avant!:もっと前へ

「ゲラッシムへ」。

メッセンジャーでやりとり

「元気ですか?アメリカでの活躍の様子は、僕の耳にも届いています。
さて、僕は9月に日本で公演をするのですが、それについて質問があります」。

ゲラッシムはマルセル・マルソーのアシスタントで、マルソーのテクニックを教える専門家。マルソーが世界ツアーなどで不在時は、彼が学校で代講を請け負っていた。

どこまでもカリスマの「ムッシュ・マルソー」に比べると、
「『先生』って呼ぶのは止めてくれよ」
「もっとお互い、親しく呼び合おう(フランスで言うところの"tutoyer")」
と言ってくれた彼は、僕らマイムを習う生徒にとって、兄貴分的存在だった。
卒業後も何かと僕を気にかけ、遠くはイスラエルのマイムフェスティバルにまで、一緒に演じに行った事がある。

「公演は、60分の間に小作品をオムニバス形式で並べる構成です。
その中で、 « Conventions de caractère »と名付けた作品を演じるのですが、タイトルを見て分かる通り、我々がムッシュー・マルソーに習った『マイムの文法』を応用しています。」

« Conventions de caractère »。
コンヴォンシオン・ドゥ・キャラクテール。マルセル・マルソーのメソッドには欠かせないこの言葉を日本語で説明するには、少し骨が折れます。


音楽の中にクラシックやポップスやがあるように、マイムの中にもいくつかのジャンルがあります。

日本では「マイム」と言えば、コメディや風刺、時には観客とコミュニケーションを取って楽しませるようなパフォーマンスをイメージする方が多いでしょう。これは「パントマイム」に属します。

今日はこの話を続けるに当たり、もう一つのマイム、「ミムコーポレルドラマティック(mime corporel dramatique)」について、触れておきます。
この単語は「身体的演劇マイム」と直訳でき、フランスのエティエンヌ・ドゥクルーによって開発された技法を指すことが一般的です。マルソーの「マイム芸術」を語る上でも欠かせないテクニックで、物語や感情を表現するために身体の動き・姿勢を使用します。台詞を使用せずに、物語やエモーションを純粋に身体の動きだけで伝えます。

他にもいくつかあるのですが、これらの言葉を使わず、演技をし、話を伝えることの広義の単語を「マイム」と僕は考えています。

そして、僕の中でもまだしっくりと来る対訳が出ていないのですが、ここでの « Conventions de caractère » コンヴォンシオン・ドゥ・キャラクテールは、「マルセル・マルソー的なマイム芸術の文法の一つ」だと思って下さい。

「投げる」「発見する」などのキャラクターを、この中から選ぶことができますか?

ゲラッシムへのメッセージに戻ります。


「序盤はムッシュー・マルソーが編み出した、いくつかの『マイムの文法』の演技。それが徐々に変化し、僕オリジナルの『マイムの文法』ポーズへ移行する、という構成です。

以上の作品意図を聞いた上で、ゲラッシム自身は、この作品が『ムッシュー・マルソーの著作権や知的財産権を尊重したものである』と思えますか?
そしてマルソーが使っていた« Conventions de caractères »というテクニックを、タイトルとして使うことをどう考えますか?」

ゲラッシムからのメッセージは、思ったよりもすぐに来た。
「シュウ」
僕の名前を呼びかけたあと、しばらく間が空く。が、僕が続けて受け取った返事は、想像以上に情熱にあふれていた。

「君はとても素晴らしい!そう言ったルールに対して注意を払う君は、とても思慮深い!
個人的には、君が選んだタイトルに問題があるとは思えない…

むしろ私が思うには、君の仕事(※« Conventions de caractère »を演じること)を通じて、ムッシュー・マルソーについて世に伝える素晴らしい機会です!!!
もし誰かが、マルソーの著作権に関してあなたに言及したならば、お願いだから私に知らせてください!
私はマルセル・マルソーの権利保持者ではありませんが、あなたのクリエイターとしての、特にMarcel Marceauに育てられたクリエイターとしての権利を、守る手助けができると思います」
「(そして多少なりとも、君は私から育てられたクリエイターだから、その権利もね…ひひひ)」」

「行け!!! もっと前へ!!!
そして特に、君がたくさんの観客を集め、長く演じることができることを願っています!」
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9月14日から24日まで、豊岡演劇祭2023にてソロの舞台を演じます。
タイトルは『BLANC DE BLANC―白の中の白―』で、身体表現とマイムによる、言語を使わない一人舞台です。
まだ日本語のタイトルが定まっていない« Conventions de caractères »も披露します。

マイムを観たことがないという方は、ぜひパリ公演の雰囲気をご覧ください。久しぶりの日本ソロ公演です。スタッフ一同、素敵な時間に徹します。

ÔBUNGESSHA BY SHU OKUNO
パリ在住のマイム俳優・演出家です。

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