スティーブ・ジョブズの本当の偉大さ

1990年代に深刻な経営危機に陥ったアップルを復活させた中心人物は?と聞かれれば、誰もが「スティーブ・ジョブズ」と即答するでしょう。ジョブズの確信と明確なビジョンによってiPhoneをはじめとした画期的なイノベーションが生み出され、これが時価総額世界一への道筋を切り開いたのだ・・・と一般的には考えられています。

しかし、実際には、ジョブズは携帯電話業界に参入することに真っ向から反対していました。では、誰がアップルに携帯電話を作らせたのか?

2004年、エンジニア、デザイナー、マーケターから成る小規模のチームがアップルのヒット製品iPodに通信機能を持たせ、携帯電話に変えるというアイデアをジョブズに売り込みます。結果は・・・

お前らは、一体なんのために、そんなバカげたことをするんだ・・・冗談もほどほどにしろ

よほど気に障ったのでしょう。このとき、反論・罵倒するジョブズの手は怒りで震えていたといいます。俺の可愛いiPodちゃんをお前らはよりによって携帯電話に変えようというのか!?

しかし、結果から言えば、このとき正しかったのはジョブズではなく、チームの方でした。音楽プレイヤー機能を備えた携帯電話はすでに他社によって開発され始めており、そのニーズが高まるだろうとチームは予測していたのです。

携帯電話を手放すことはできません。音楽プレイヤーも手元においておきたい。両者が別々の個体であれば二つのデバイスを持ち歩くしかないわけですが、他社のつくる携帯電話に音楽プレイヤーの機能が備わったとき、果たして顧客はiPodをそれまで通り、携帯してくれるだろうか?

チームの結論は「NO」でした。

早くしないと、他社のつくる携帯電話に音楽プレイヤーの機能が搭載される・・・しかし、ジョブズはiPodという製品のミニマルさを愛しており、余計な機能をつけることを非常に嫌がりました。

また、生来の権威嫌いでもあったジョブズは、携帯電話会社に対して不信感を抱いており、通信キャリアが課す様々な制限の中で製品をデザインしたくない、とも思っていたようです。

通話が途切れたり、ソフトウエアがクラッシュしたりすると、いら立ちのあまり自分の携帯電話を 叩きつけて粉々にしたこともあり、私的な立場でも公的な場でも「絶対に携帯電話はつくらない」と何度も断言していました。

それでも、同社のエンジニアは水面下でリサーチを始め、ジョブズの美意識を満たすような、画期的でミニマルな美しい携帯電話の開発を進め、何度も罵倒されながら、アップルがiPodに通信機能を持たせない限り、競合が音楽プレイヤーの市場を奪っていくと訴え続けたのです。

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