#028 Chat GPTに勝つ「Surprising yet Right」のポジショニング

先日、「ChatGPTに勝ちたければ中央値のアウトプットを避けて外れ値で戦え」というツイートをしたところ、大きな反響をいただいたのですが、一方で「外れ値で戦え、というアドバイスが今ひとつわかりにくい」という反応も頂きまして、確かになと思うところもあり、少し考察を深めてみたところ、どうもこういうことじゃないかという方向が見えたので共有しようと思いました。

まず、考えなければならないのが、知的成果物に対して予想される受け手の反応です。知的成果物を受け取った相手は、基本的に次の4タイプの反応をします。

知的成果物に対する受け手の反応の4パターン

まず、最もありがちなのが「B=わかるけど、当たり前だよね」という反応、つまり「Non-Surprising and Right」です。

おそらく、何らかの企画提案を顧客の立場で受ける立場の人であれば、ほとんどの人がこの気持ちをどこかで体験していると思います。当の提案するクリエイターやコンサルタントも薄々、それは感じているのですが「経営に飛び道具はありません」とかなんとかいって、その「普通さ」を「王道」のように糊塗して乗り切ってしまうのが通例です。答えがスタンダードであるだけに「紛糾する」といった状態にはなりにくいのですが、ちょっとシラけるような空気が流れますね。

しかし、これはやっぱりちょっとマズイだろうと思うわけです。受け手にとって内容が想定の範囲内にあるということは、顧客に付加価値を出せなかったということですから、状況によっては深刻な問題になる可能性がある。たとえば高額のフィーをもらって実施した調査やコンサルティングのプロジェクトであれば「あれだけの時間とお金をかけてこの程度なら僕たちだって思いつくよ」というもので、次のプロジェクトの依頼はこれだと期待できません。

コンサルティングのレポートの半数以上はおそらくこのポジショニングになってると思いますが、それはそれで価値があると思っています。なんでもそうですけど、ああ、やっぱり地道にやるしかないんだな、という気づきが個人や組織の運命を変えるわけですね。だからこそ、企業も個人も往々にしてどん底まで追い込まれないと変われないわけで、コンサルタントとしては「真っ当」なことを言うことで高額のフィーが取れたわけですが、ちょっと待ってと。

というのは、個人的に、この領域のアウトプットこそ最もChatGPTに食われやすいと思うわけです。だって、戦略コンサルが出してるレポートの半数以上は「当たり前のことを、当たり前にきちんとやりましょう」という内容になっているからです。前回の記事にも書きましたけれども、ChatGPTは統計的に中央値の答え、すなわちスタンダードの王道の答えを返すので「真っ当なこと」はとても得意なわけです。

今後は、まずはスタンダードの答えを知りたいということであれば、高額のフィーをかけて人間を雇うより、まずは機械に聞いてみようという流れに、どんどんなっていってしまうのではないでしょうか。この象限のアウトプットであとは「実行力で勝負」と考えている人はちょっと気をつけた方がいいかもしれません。

ということで、このような事態を避けようとして、斬新で新奇性のある提案に飛びつこうとすると、ポジションは往々にして「C=面白いとは思うけど現実的なの?」という象限、つまり「Surprising and Wrong」に滑り落ちてしまいます。ここでは順接である「AND」で繋がれてるのがポイントですね。

顧客からすれば、確かに斬新で面白いアイデアではあるけど、本当にそれは実現可能性があるのか?倫理的に問題がないのか?等、実行に踏み込んでいく上での懸念材料がたくさん出てきてしまうような提案で、一歩踏み出してもらうためには、さらに多くの検証や検討が必要になる提案です。これはつまり、時間もコストも付加的に必要になることを意味します。経験的に言えば、この種の知的成果物は結果的にお蔵入りになることが多いように思います。

ChatGPTとの戦いを避けるために「外れ値」で戦おうとする場合の落とし穴がここにあります。ChatGPTとの差別化はできるけど「外れ値」すぎて、顧客にとって極めて受け入れがたい提案になってしまうわけですね。

そして、言うまでもありませんが「D=陳腐な上に納得感がない」、つまり「Non-Surprising and Wrong」の象限は、最悪というしかありません。これを読んでいる方のなかには「そんなことが起こりうるのか?」と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、この種のアウトプットは世の中に少なくありません。なぜかというと、世の中でよく言われていることの多くは間違っていることが少なくない・・・あるいは少なくとも実行が極めて困難だからです。

例えば次のようなアドバイスをされたら、皆さんどう思いますか。

まず水の上に一歩踏み出します。そして、その一歩が沈む前に次の一歩を踏み出します。そしてさらに、その次の一歩が沈む前にさらに次の次の一歩を出します。これを繰り返すことで、水の上を歩くことが可能になります。

別にロジックがおかしいわけではませんが「そんなことできねーよ」ということが書かれているわけで徹底的に納得かんはないわけですね。いまではどうか知りませんが、昔の戦略系コンサルティング会社のレポートには実質的に同じようなことを提案していることが少なくなかったように思います。

まあ上記は突飛な例としても、現実的には例えば、競争戦略的にオーソドックスな提案をしたところ、同様の戦略を既に数年前に実施して、しかもそれが大失敗に終わっていた、といったケースもよくあります。

顧客からすれば既に実施済みの打ち手、つまり「意外性はない=Non-Surprising」なわけですが、失敗に終わってるということは「Wrong=間違っている」であることが明白であり、当然のことながら知的成果物として高い価値を認めてもらえません。

わざわざ言うまでもありませんが、これは四つのセグメントのなかでは最悪の結果と言えます。もし、提案前にこの反応が予測されるのであればそもそも知的生産の作戦そのものをこの時点で抜本的に考え直す必要があるでしょう。ちなみに、これまでのChatGPTの個人的な使用経験からすると、ChatGPTはこの手の答えをいけしゃあしゃあと述べてくることが少なくありません。

たとえば、いま流行りのエンゲージメントについて、「企業におけるエンゲージメントを高めるためには何が必要ですか?」という問いに対して、ChatGPT様の答えは次のようなものでした。

企業におけるエンゲージメントを高めるためには、以下のような要素が重要です。

1:クリアなビジョンと目標の伝達
社員が企業のビジョンや目標を理解し、共有することは、彼らが自分たちの仕事に意義を感じることにつながります。企業のビジョンや目標を明確に伝え、社員がその目標を達成するために必要な手段を提供することが重要です。

2:コミュニケーション
社員が企業とのコミュニケーションをとることができる環境を作ることが重要です。社員が自分の考えや意見を自由に共有できる場を提供し、フィードバックを受け取ることができるようにすることが重要です。

3:成長の機会
社員が自分自身を成長させることができる機会を提供することが重要です。トレーニングや研修、プロジェクト参加の機会などを提供し、社員が自分自身を成長させることができるようにすることが重要です。

4:ワークライフバランス
社員が仕事とプライベートのバランスを取りやすい環境を作ることが重要です。フレキシブルな勤務時間やリモートワークのオプションなどを提供し、社員が仕事とプライベートの両方に時間を費やすことができるようにすることが重要です。

5:社員の関与
社員が企業の決定に関与することができるようにすることが重要です。社員が企業の方向性に貢献し、自分たちの意見が反映されることを実感できるようにすることが重要です。これらの要素が組み合わさることで、企業は社員のエンゲージメントを高め、生産性や創造性を向上させることができます。

山口の問いに対するChatGPTの解答

それなりにまとまってはいますが、やはり「いや、それはやってみたんだけど難しかったんだよね」というのが多いように思います。

ということで、最も望ましいのが「A=意外だけど言われてみれば納得感がある」、つまり「Surprising(意外性がある)、Yet(けれども)、Right(正しい)」のポジショニングだと思います。

知的成果物がこのポジショニングで受け止めらた相手は、いわゆる「アハ!体験」をすることになります。会議の場は華やぎ、行動の実行に向けて一気に勢いが出てくることになります。そして、このポジショニングの知的成果物こそ、ChatGPTに対して人間が取るべきポジショニングということになります。

Surprising=意表をつく、というのが、この場合「外れ値」ということに該当するわけですが、単に「意表をつく」のではなく、その上に「言われてみれば確かに・・・」という納得感が必要なわけです。これが「外れ値で戦う」場合の勝機ポジショニングということになると思うのですが、では、どうやって「納得感」を生み出すか。

なんだが牽強付会に思われるかもしれませんが、ここにこそ「教養=リベラルアーツ」というものが求められると思うのですね。え?この解答自体が「Non-Surprising and Wrong」だって?

うーん・・・意外性がある皆さんはどう思われるでしょうか?



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