個人金融資産2000兆円が投資に回ると何が起きるか?

日経平均株価が1989年の最高値を更新し、いよいよ「貯蓄から投資へ」という流れが本格化するかもしれない、という声がよく聞かれます。

日本の個人金融資産は2000兆円で、これをS&P500の株式の長期平均リターン=10%を掛ければ、それだけで毎年200兆円のリターンが得られることになります。

これがいいことなのか、悪いことなのか?日本の経済成長はここ10年、事実上ゼロになっているので、これが実現すれば、まさにピケティの示した式

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つまり資本収益率が経済成長率を上回っているという状況が生まれ、「投資する余力のある人」はどんどんお金持ちに、そうでない人は置いてけぼりという社会を招く、というのがピケティの主張でしたが、今日は少し、別の角度から「貯蓄が投資に回ることの意味」について考えてみたいと思います。

投資先の行動を変えたければ「株売却」より「意思表明」を

経済学者のアルバート・ハーシュマンはその著書「離脱・発言・忠誠」で、システムを改変するためには「離脱=エグジット」と「発言=ボイス」の二つが重要だと指摘しました。

これは企業のステークホルダーにおいても同様に言えることです。例えば顧客という立場であれば、商品やサービスが気に入らないときは、クレームをつける(=ボイス)こともできますし、それで状況が改まらなければ購買を停止する(=エグジット)することができます。

難しいのは従業員で、仮に自社の経営がおかしいのではないかと思っても、日本の場合、これを表立って批判する(=ボイス)のは大きなデメリットを伴いますし、退職する(=エグジット)にも大きなリスクが伴います。

ドイツでは、一定規模以上の企業であれば、取締役会に従業員代表を半数以上入れなければならないことが法律で定められており、従業員が経営に対して発言する機会が保証されているのですが、日本は米国型のガバナンスのモデルを採用しているので、これができないわけです。

で、考えてみたいのが、株主というステークホルダーについてです。株主はもちろん、経営が気に入らなければ、株主総会等の場所で発言=ボイスすることができますし、それでも改まらなければ株式を売却するという形で離脱=エグジットすることができます。

では、このうちのどちらが、経営を是正する効果があるのか?

スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビューに、この論点に関する興味深い記事が出ていました。

コーポレートガバナンスを専門とするシカゴ大学ブース経営大学院教授のルイジ・ジンガレス(財政学)は、最近、ハーバード大学教授のオリバー・ハート(経済学)とイタリアのトレント大学教授のエレオノーラ・ブロッカルド(経済学)と共同論文を発表しました。

その論文では、社会や環境への問題意識が高い投資家は、経営陣の判断に影響を与え、企業がより大きな社会的貢献を果たすように方向転換させるとともに、収益の改善にも貢献できることが明らかになったとしています。

この研究では、ステークホルダーが企業に対して圧力をかける戦略を

「離脱=Exit」と「発言=Voice」

という二種類にモデル化して比較しています。

離脱戦略は、「株の売却」や「顧客、従業員によるボイコット」など、自らの行動を通して意見を表明する方法です。

主張戦略は、主に株主総会での投票を通して意見を伝え、企業の経営判断に積極的に関わろうとする方法を指します。

上記の二つの戦略を比較したところ、よりよい社会的なアウトカム成果を生むためには、主張戦略のほうがはるかに効果的であることが明らかになった、というのですね。

ジンガレスは次のように話しています。

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