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エア本屋・いか文庫の空想ブックフェア【第18回】「書店」がもっと好きになる!フェア

お店も商品も持たない「エア本屋」・いか文庫。

テレビにラジオに書店の棚に、神出鬼没のいか文庫が『小説すばる』誌上で開店しました!

第18回のフェアのテーマは「書店」です。

いか文庫中

いか文庫 ◆店主(リアルでも書店員)と、イカが大好きなバイトちゃん(ベトナム支社)、バイトぱん(東京支社)、バイトもりもり(関西支社)、バイトいも(イギリス支社)の計5名で活躍中のエア本屋さん。

バイトぱん(以下、ぱん) 店主、もりもり、聞いてください!最近面白い漫画を読んだんです!

店主 どれどれなになに〜?

ぱん 佐久間薫さんの『カバーいらないですよね』っていう、書店が舞台の漫画なんですけど、もう、書店員あるあるが満載でクスクス笑ってしまうんですよ。

カバーいらないですよね

『カバーいらないですよね』佐久間薫(双葉社)

バイトもりもり(以下、もり) あ!私その漫画最近Twitterで見てます!

店主 もりもりさすが!私たち3人は、いか文庫のほかに、リアル書店でも書店員をやってるからよけいに楽しめそうだね。

ぱん そうなんですよ。私があるある〜!ってなったのは、大人買いのカバーかけ大変っていう話で……。

もり わかるー!!

ぱん カバーかけは好きなんだけど、一気にたくさんだとあわわ〜ってなるんですよね。

店主 あははは!わかるわかる!「え、ほんとに?これ全部かけるの?」って聞きたくなっちゃうよね。他にはどんなあるあるがあるの?

ぱん あとは、書いたPOPの本の売れ行きが気になって、頻繁に売り場を確認しちゃうっていうのもあるある〜って思いました。

店主 わかるー!POPって、想像以上に良くも悪くも影響するから、気になっちゃうよね。そういえば、もりもりもよく、夜なべして看板POP作ってるって言ってたね。ぱんちゃんも、フェアのPOPのデザインやったりしてるんだよね?

ぱん そうですね、でも実は私POP書くの苦手で、ひとつ書くのにもすごく悩んじゃうんですよね。

もり わかります! 文言もデザインも、どうやったら一番伝わるんだろうって考えると難しいですよね。

店主 POPといえば、私これ、最近一気読みしたんだった!『青森の八戸にある小さな本屋さんの猫がかわいいポップの本』

青森八戸

『青森の八戸にある小さな本屋さんの猫がかわいいポップの本』
ポプ担(小学館)

ぱん 書店員のポプ担さんが実際書いたPOPを紹介してる本ですよね!私も読みました!その本屋さん、実は私が小さい時によく通っていた地元の本屋さんで、懐かしいな〜と思って読んだんですけど、POPのクオリティがすごく高くてとっても勉強になるんですよね。

店主 私もそう思った!イラストもかわいいし、文章もすごく興味がそそられるよね。何度も「うまい!」って思ったもの。

ぱん POPを紹介している本なのに、読み終わる頃には読みたい本が増えてるという……。

店主 うんうん。あと、本の上からひょこっとPOPが飛び出すようにする形なのも、なんて良いアイデア!って感激したよ。

ぱん しかも、そのPOPは買った本と一緒に持って帰ることができるんですよね。

もり へぇー!そんなアイデアが!POPにもいろんな魅せ方があるんですね。

店主 あ、じゃあさ、次のフェアは「書店フェア」にするのはどうかね?いろんな人に、書店の良さを知ってもらえる本を並べて。

もり いいですね!賛成です!

ぱん 書店って働いている側から見てもいろんな魅力があるので、知ってもらえたら嬉しいです!

店主 よし決まった!じゃあ私、これも並べたいです。ガブリエル・ゼヴィンの『書店主フィクリーのものがたり』。ある島にある小さな書店の店主フィクリーと、彼の店に突然置き去りにされた女の子、そして彼らと共に生きる島の人たちの物語です。

書店主フィクリー

『書店主フィクリーのものがたり』ガブリエル・ゼヴィン(早川書房)

もり あたたかそうな雰囲気の表紙ですね。店主が特に惹かれたポイントは?

店主 やっぱり、書店があって、店主が居て、そこに人が集まる風景はいいなぁって思わせられるところかな。とにかく悲喜交交なことがたくさん起こるし、店主フィクリーはすごく偏屈で憎たらしい物言いをするタイプの人なんだけど、それでもみんなが放っておかないんだ。

もり 本への愛情はたっぷりあって、それを通して伝わってくるあたたかさがあるから、でしょうか?

店主 ううん、フィクリー自身が、周りの人たちのあたたかさに触れて変わっていくの。それがとても良いの。それにね、置き去りにされた幼い少女・マヤはフィクリーが育てることになるんだけど、マヤが一日中店の中で過ごしている風景や、マヤをきっかけに街の人たちが店に訪れたり、本を読むようになったりする様子を見ていると、書店という存在への愛おしさが、より高まるのよね。

ぱん 本がきっかけで人が繫がっていくのって、書店で働いているとたまに見かける光景なので、本や書店っていう存在は偉大だなって改めて思いますね。

もり 愛おしさといえば、私も最近ある書店主の手記を読んで、胸が熱くなりました。京都にあった「ガケ書房」という書店の店主をされていた山下賢二さんが書かれた『ガケ書房の頃 完全版』という本です。

ガケ書房

『ガケ書房の頃 完全版』山下賢二(ちくま文庫)

ぱん その本読みたいと思ってました!今は「ホホホ座」ってお店になってるんですよね。

店主 私も読まなきゃって思ってた!「ホホホ座」にも行かなきゃ!って。

もり そうなんです。ガケ書房は2015年に移転して「ホホホ座」に改名されていて。この本は、山下さんの幼少期の本屋さんの思い出から、いろんな仕事を経験してガケ書房を始めるまでの経緯とか、始めてからの悩みとか喜び、そしてどうしてホホホ座に移行したのかっていう話も含めて本音で綴られた青春記なんです。

店主 フィクリーは物語だけど、山下さんは現実にあったことを書いているってことだね。より一層、書店のことを考えるきっかけになりそう。どんなところが印象に残った?

もり いっぱいあるんですが……。ホホホ座はもう書店を名乗っていなくて、でもそれは書店に失望したからではなく、本と書店を愛しているから、本を読まない人にもっと本を買ってもらいたいからそうしたのだと書かれていた部分です。形は変わっても変わらない愛情というか、本や書店へのまっすぐな思いが伝わってきました。

店主 なるほどなぁ。私たちいか文庫も、本に興味を持ってもらえるようにって気持ちで、一見本と関係なさそうなもの、例えばイカとか、音楽とか、食べ物とかを組み合わせた活動をして来たから、すごく共感できそう。

ぱん 私がいか文庫に出会ったきっかけも、みんなで本を読みながら、その本に登場した食べ物を食べるっていう、今まで味わったことのない楽しいイベントでした。それから、本の楽しみ方が増えた気がします!

もり 毎日書店で働いているとどうしても凝り固まってしまうけど、本の届け方伝え方ってまだまだきっといろんな方法があるんですよね。

店主 もう何年も前から活字離れとか言われてるし、実際私も本と同じくらいテレビも動画も見るのが好きだけど、書店に行くことで得られる興奮とか感動とか幸福感とかってあるよね。それが伝えられるフェアにしたいなぁ。

ぱん 書店にしかできない本との出会いってありますからね。書店員の腕の見せどころですね!

もり そうですね!フェアをする私たち自身も楽しんでいきましょう!

※本記事は『小説すばる』2021年11月掲載分です。第19回は『小説すばる』2021年12月号誌面にて掲載予定です。(http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/

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