タピ子_Queen_of_the_Sweets_03

「バイラル・ライバル #04」 タピ子 Queen of the Sweets

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 タピ子は歩む。スイーティアの大地を踏みしめ、一歩、そしてまた一歩。タピ子は見据える。真っ直ぐに前を。地平の彼方へと続く長い長い街道のその先を。

 街道の遥か向こう、そこに彼の地はある。スイーツ妖精たちの聖地──ジユー・ガ・オーカ

 歩みの中、タピ子は一人の少女を思い浮かべていた。
(ショコラダ・マイ……)
 可憐にして高貴なる少女。偉大なるスイーツ大帝。彼女の統治のもと、かつてのスイーティアは幸せであった。

(ショコラダ・マイ。あんたはなぜ……)

 タピ子は立ち止まり、想いにふけた。それはまるで昨日のことのように思い出される。それは嵐の夜。スイーティアにしては珍しい、激しい風雨が吹き荒れたある日の夜のことだった。

(あの時、あんたは──)

🍰🍰🍰

 ダンダンダン! ダンダン! ダンダンダン!

 嵐の中、独りあばら屋で眠るタピ子は激しい物音で目を覚ました。外は嵐。ごうごうと唸りをあげる風雨の音。そこに被せるようにして、激しく何かを叩く音が鳴り響いている。タピ子はがばりと身を起こすと、闇の中、静かに神経を研ぎ澄ませた。

 この激しい物音はあばら屋の戸を叩く音だ。しかしこの嵐の夜、来訪者などいようはずもない──普通であれば。薄く粗末な布団から身を剥がしながら、タピ子は思った。これは尋常の状況ではない、と。

 タピ子は静かに息を吐き、その目を半眼に保ちながら心を静め、気配を消した。タピ子の心はまるで曇りなき鏡のようだ。それはまさに明鏡止水。そして豹のようにしなやかに、音もなく戸に近づき手をかけ、すっと引いた。吹き込む風雨、そして──

「!? あんたは」

 激しい風雨に飛ばされるように一人の少女が転がり込んできた。そして力尽きたようにどうと倒れこむ。「そんな……なぜ……」タピ子は動揺を隠すことができなかった。震える手で少女を抱えると、その顔を覗く。それはボロボロに傷つき、息も絶え絶えとなったショコラダ・マイ──スイーティアを統治するスイーツ大帝、その人であった。

 ショコラダ・マイはその光なき瞳をタピ子に向ける。そして弱々しく微笑んだ。

「あはは……タピ子……あたし……負けちゃった……負けちゃったんだよ」

🍭🍭🍭

 タピ子は顔を起こし、再び前を見た。そこは遥か彼方まで続く街道。
(あの時あんたが語った言葉、今でもこの胸の奥に残っている)
 タピ子は前を向き、再び歩きだす。
(だから私は行くよ。ジユー・ガ・オーカへ)

 そのタピ子の後方。気配を消し、付かず離れず追い続けるひとつの影。

「ししし。やっぱりやつはジユー・ガ・オーカへ向かっている……すべてはやつ音様の読み通り! さすがはやつ音様!」

 いちご大福のふく美!

「つまりやつは……」ふく美は口に手を当て、しししと笑うと目をギラリと輝かせた。
「やつは知っている! ショコラダ・マイの王笏の在りかを! このスイーティアを統治する大帝権の象徴、その在りかを!」

 ふく美はその丸々とした拳を握りしめた。

「やるか? やっちまおうか? おう? 袋にして、ボコボコにして、その口割らしちまおうか? ししし! やつ音様。このふく美、必ずや御身のお役に……ぐぼぉっ!?」

 ふく美は下を向いた。そして見た。自分の喉から、ぎらりと鋭い何かが伸びている。「ごぼっ、ご、ごぼぼー、ご、ごれはいっだい……」すっとその鋭い何かが抜き取られた。ふく美は喉を押さえ、咄嗟にその背後へと振り返った。

「だめだよ、そういうの。僕は嫌いなんだ。こそこそするの、ほんとよくないよね」

 髪をかきあげ、爽やかに微笑む美少年がそこには立っていた。その少年はヨーロッパ貴族風装束に身を包んでいる。

「ごぼっ、おっ、お前はいっだい……」
「僕はティラ夫。ティラミスのティラ夫だよ。タピ子ちゃんのお婿さんなんだ。では、じゃあね」
「ごぼ?」

 目に見えぬ何かに額を貫かれ、ふく美は倒れた。ティラ夫は優しく微笑みながら、遠くを歩くタピ子を見た。

「タピ子ちゃん。君のことは僕が守るよ。どんなことがあろうと、きっとね」

 彼はその甘さの中に苦味を忍ばせている。恐るべきティラミス暗器術の使い手である! その愛は濃厚であり、自称、タピ子のお婿さんである!

 彼こそはティラミス。ティラミスのティラ夫! なおタピ子は彼の存在を知らない!

 ティラ夫はため息をついた。

「あー……やれやれ、君なんかに構っていたから、また一人取りこぼしちゃったじゃないか……ごめんね、タピ子ちゃん」

 タピ子は再び立ち止まった。その視線の先、およそ20メートルほど。人間界のテニスコートほどに離れた向こう側に一人の少女が立っていた。その体は白い道着に包まれ、奇妙なことにその全身からはゆらゆらと陽炎が立ち昇っている。

「……なんの用だ」問うタピ子。
「聞くまでもないでしょ」白い歯を輝かせ、笑う少女。

 二人の間に刹那の沈黙が流れた。そして──。

「!?」タピ子は目を見開いた。それは一瞬の出来事であった。その眼前、瞬時に間合いを詰めた少女が迫っている。そして放たれる強烈な縦蹴り! 「くっ!」それを紙一重でかわしたタピ子の顔を、猛烈な熱風が掠めていった。

「ははっ! あんたタピ子だろ? あのタピオカミルクティー爆裂拳の使い手ってやつ!」

 タピ子は跳び退き、距離を取るとどしりと腰を落として構えた。

「だとしたらどうする?」
「ははっ。あんたを倒して、あたしが最強なんだと証明すんのさ!」

 再び熱風が迫る! それは凄まじい回転をのせた胴回し回転蹴りであった!

「あんたを倒すのはこのあたし! ホットクのホユンだ!」

05に続く

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