タピ子_Queen_of_the_Sweets_03

「バトル・オブ・ジユー・ガ・オーカ #02」 タピ子 Queen of the Sweets

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「あっれ。確かになーんか変っすねぇ……」

 手で庇(ひさし)をつくり、きょろきょろと辺りを見渡すホットクのホユン。

 ここはジユー・ガ・オーカの大通り。巡礼のスイーツ妖精が行き交い、出店や売り子も賑やかに、甘い香りが漂い続ける楽しげでふわふわとした大通り──であるはずなのだが……。

 タピ子とホユン、二人が歩む今の大通りにはそのような楽しげな様子は欠片もない。数メートル先が見えないほどの深くて濃い霧。スイーツ妖精たちの気配もなく、ただひたすら不気味な静けさだけが漂っていた。ただ、ひたすらの静寂──。

「うへぇ、姐さんの言う通り、死の匂いっつーかなんつーか。まぁなんかそんな感じっすねぇ……」

 タピ子はホユンの言葉を無視するように、ただ前を見つめて決然と歩いていく。ホユンは頭の後ろで手を組みながら、ぶらぶらとした足取りでそれについていく。

「むぅ。なんだぁ?」

 訝しげな表情で立ち止まるホユン。眉間に皺を寄せ、まじまじと見詰めるように大通り傍らの建物に近づいていく。そして壁に顔を近づけ「ん~?」──

「ゲェッーーー!?」

 ホユンは腰を抜かさんばかりに叫んでいた。「ね……ね、ね、姐さんっ!」ホユンは震える指で壁を指差した。「マ、マジかこれ……! 姐さん……これ……これ!」

 ホユンはほとんど絶叫するように叫んでいた。

「カビてますっ! この街、カビてやがる!!」

 カビ──それはスイーツにとって最も忌むべき病である! 直後、タピ子の瞳が鋭く光った。「……来る」

 うぉっうぉっ

 突如木霊する、遠吠えのような不気味な声。

「え!?」

 ホユンは辺りを見渡した。

 うぉっうぉっ、うぉっうぉっうぉっ……

「はぁ!?」

 大通りに唸りが反響していく。それは二人を取り囲むようにして、徐々にその数と勢いとを増していく。

 うぉっうぉっ、うぉっうぉっうぉっ……
 うぉっうぉっ、うぉっうぉっ……
 うぉっうぉっ、うぉっうぉっうぉっ……うぉうぉ!

「はぁ!? なんすかなんすか? なんなんすか!」
「我々は囲まれている……この街に入った直後からな」
「はぁっ!?」

 タピ子はしゃがみこむようにしてその身を沈めながら、ホユンを一瞥して言った。

「ホユン。自分の身は自分で守れ……できるな」
「え? 唐突になんすか……って、ちょ、ちょっと姐さん?……あぁ!?」

 ホユンは見上げていた。その視線の先、凄まじい速度で跳躍するタピ子の姿があった! 壁を蹴りあげ、高く高く跳び上がっていく!

「悪いが……私はここを一気に突破する!」

「ちょちょっ、姐さん!」

 ドサッ!

「……どさ?」

 ホユンは振り返った。振り返った先、まるで投身自殺のように倒れているスイーツ妖精──ボロをまとった男。ごくり。ホユンは唾を飲み込んだ。「う……うぉ……ぁ」ボロの男は呻きながら、ゆっくりと立ち上がっていく。

「お、おう、やるのか?」

 身構えるホユン。ボロの男はゆっくりと顔をあげ──

「は?」ホユンの時が一瞬止まった。その男の顔は──カビにまみれていた!

「ぎぃゃぁああああーーー!!!」

🍫🍫🍫

「セ、セア羅様……こ、これは!」

 狼狽するエッグタルトのエグ造。その隣ではシナモンロールのシナ香がガタガタと震えている。

 うぉっうぉっ、うぉっうぉっうぉっ……
 うぉっうぉっ、うぉっうぉっ……

 不気味な唸りをあげながら、カビまみれのスイーツ妖精たちが彼らを取り囲み、徐々にその輪を狭めている。

「案ずるな」

 泰然と歩みだした少女。その黄金の髪がたなびき、きらきらとした光の粒子が周囲に舞った。セアダスのセア羅! セア羅はその黄金の瞳を煌めかせ、周囲を取り囲む不気味な一団を見渡した。

「感じる……邪悪なる企みを」セア羅の輝く瞳が憂いを帯びる。「この者たちは操られている……この者たちは姿を変えられてしまったのだ。邪悪なる者の手によって!」

「セ、セア羅様……!」不安げにセア羅を見詰めるエグ造とシナ香。セア羅は振り返らずに静かに、しかし決然と告げた。

「言ったはずだ……案ずるな、と」

 セア羅は悠然と腕を交差させた。それは奇妙な構えであった。しかしその構えは──

(なんと雄大で力強いお姿……これはまるで……まるで滔々と流れる大河のようではないか……!)

 エグ造はその姿を見詰め、まるで神話を見ているかのような気分になっていた。信仰にも似た不思議な気持ちに満たされていく。

「信じよ……我が力を」

 その黄金の髪がざわめく。その体が黄金の輝きに包まれていく!

「信じよ……我が悠久の力を!」

 セア羅の瞳がカッと見開かれた。そして発せられたのは戦女神のごとき獅子吼であった!

「イル! グランデ・ヴェント・ドォーロ!!」

 その獅子吼とともにセア羅の背後から煌めく黄金の風が吹きあがる! その風は深く濃厚な甘味と輝きとを載せ、辺り一帯を包み込んだ!

「あぁ!」

 エグ造とシナ香は見た。黄金の風に包まれた不気味な一団が次々と浄化されていく──カビが消え、穏やかな表情のスイーツ妖精へと変わっていく──

「すごい……」

 エグ造とシナ香は感極まっていた。セアダスのセア羅とは何者なのか? まるでわからない。しかし二人にはわかっていた。セア羅の持つ神話にも似た神秘的な力が。そして知っていた。その体から溢れる慈愛にも似た優しき力を!

 セア羅は憂いを帯びた眼差しで二人に告げた。

「先を急ごう……スイーティアの危機がすぐそこまで迫っている……!」

03に続く】

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