タピ子_Queen_of_the_Sweets_03

「バイラル・ライバル #05」 タピ子 Queen of the Sweets

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 それはまるで火炎の旋風だった。一回転、二回転、三回転! 熱風渦巻く回転蹴りがタピ子を襲い続けていた!

「こいつ……!」

 一歩、二歩、三歩──タピ子は半身にかわしながら後退をし続ける。「ははっ!」吠えるように笑うホユン。その蹴りは回転するごとに速度を増していき、その熱量も加速度的に増していく!

 辺りにたちこめる甘く香ばしいホットクの匂い。凄まじい大技だ。しかも(スキがない!)タピ子は驚嘆していた。ここまでの大技を放ち続けながら、その視線、その体軸、全てにおいてスキが生じない。油断ならぬ流行力(ブームちから)。恐るべき使い手である!

(でも……)タピ子は静かに息を吐いた。(私は、覚悟を決めているよ)その瞳に静かに覚悟が宿っていく。タピ子は腰を落とし、頭をガードするように腕を上げた。そして──放ったのは裂帛の気合いである!

「哼っ!」

 直後、唸りをあげる恐るべき蹴りがタピ子を襲った! ズバアァアン! 凄まじい炸裂音。熱によりたちこめる水蒸気。ホユンは目を見開く。確かに蹴りは直撃している──それなのに……それなのに、なぜだ!

 水蒸気の切れ間。ホユンを見つめる静かで鋭い眼差しがそこにはあった。蹴りの直撃を受けてなお、タピ子の体は微動だにしていない。まるで山を蹴ったかのように──いや違う。それはさながら、うず高く積まれたタピオカのごとし! タピ子はホユンの蹴りを真っ向から受け止めたのだ!

「反撃だ」

 タピ子は静かに宣告した。その体から麗しい茶葉の香りが漂う。そして、こぉぉおおお──タピ子は深く息を吐きながらその拳を弓のように引き絞っていった! だが──

「ちょっと待ったぁ!!」

 ホユンの絶叫。「は?」呆気に取られるタピ子。ホユンはいきなり大地に跪き、叫んだ。

「あたしの負けだっ! タピ子姐さん!」
「……は?」

🍬🍬🍬

「だぁからぁ! 荷物持ちますって、姐さん!」
「……失せろ」
「あっはっはっ、遠慮はいらないですって。ね、姐さん!」
「…………」

 苛立ちを隠さず、前だけを向いて歩くタピ子。その歩みは早足だ。そのタピ子の顔を覗きこむようにして横を歩くのはホユン。にこにこと満面の笑みを浮かべている。

「……いったい何のつもりだ」
「だーかーらー。さっきも言ったじゃないですかぁ。姐さんをつけ狙うやつって山のようにいるわけですよ。そいつらをあたしが全部ぶちのめすって寸法ですよ!」
「……それで?」
「だ! か! ら! そいつらを全部ぶちのめせば、そいつらの流行力も奪える。そしてあたしの実力もつくわけじゃないですかぁ」

 ホユンは白い歯を輝かせて笑った。「そしたらまた。姐さんともう一戦! お願いしやす!」

「(こいつはいったい何を言っているんだ……?)失せろ」
「あっはっはっ、嫌ですよぉ」

 街道に黄昏が訪れようとしていた。二人の顔に夕日の朱がさしていく。むすっと前だけを見つめるタピ子。にこにこと笑うホユン。その後方。付かず離れず二人を追う一人の美少年。

「タピ子ちゃん……! なんだよそいつ……なんだよそいつ!」

 嫉妬でぎりぎりとハンカチを噛む、自称タピ子のお婿さん。ティラミスのティラ夫

 かくして。奇妙な二人と一人、三人(?)の道連れは、一路、聖地ジユー・ガ・オーカへと向かうのであった。

🍧🍧🍧

 ──人間界。

 きゃぴっとしたテレビレポーターがマイク片手にかしましい声をあげている。

「今! こちらチキジョー寺で話題になってるスイーツがあるんですけどぉ! 愛弗さん、ご存じですかぁ」
「えー、知らないですぅ」

 ゲストの美少年アイドルだ! その出演目的は自分の番宣である!

「インスタとかでも凄い人気でぇ。毎日凄い行列、なんですよぉ」

 その二人の前にひとつの器が運ばれて来た。

「じゃーん、こ・れ・な・ん・です!」
「んー。なんですかぁ、これ。……かき氷?」
「あはは。そう思いますぅ? では、お願いしまぁす!」

 そのガラスの器に盛られていたのは、一見、かき氷とおぼしきスイーツだった。その上に店員が謎めいた液体をかけていく。そして──

「えぇー!?」

 驚くアイドルの顔をカメラがズームアップ。その目の前で、かき氷状のスイーツが……燃えていた!

「これが今話題のスイーツ! 燃えるかき氷。焼き氷、なんでぇす!」

🔥🔥🔥

 ──スイーティア。

 ボゴリ! 地面から丸太のような腕が突き上げられた。そして大地を割り、這い出してきたのは巨躯の少女だった。その体からは冷気が漂い、そして、その腕は燃えている!

「ふっふっ……感じる……新しい流行力が……新たな力が……体の底から湧いてくるのを……」

 少女は肩を震わせ笑った。その顔は歓喜と、そして憎悪とで不気味に歪んでいる!

「ふっふっふっ!」

 少女は立ち上がった! そして獣のように吠えた!

「ふっふっ! タピ子ぉ! 私ともう少し……遊ぼうぜぇっ!」

 復活したのだ! かき氷のかき子が!

【「バイラル・ライバル」終わり。第三話「バトル・オブ・ジユー・ガ・オーカ」に続く】

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