第23話「星旄電戟」 #死闘ジュクゴニア
【目次】【キャラクター名鑑】
<前回>
小バカにした笑い。暗黒のような染みが拡大していき、それが巨人の姿を成していく。その周囲に風が吹き荒れ、暗黒の中を稲妻のごとき光が明滅しはじめた。
「ズガガガガガギシャァーーーーン!!!」
巨人の咆哮! 激甚災害のザスタである!
ズガーンッ! ズガガガーンッ!
轟く雷鳴。閃く雷光。激甚災害のザスタから発せられたその光が、不気味な姿を照らし出していた。ザスタの額に不気味な笑顔だけが浮かんでいる。暗黒の水面に浮かぶ水死体めいたその笑顔の主は、道化芝居のピエリッタである!
ケケケケケケケケ……
甲高い、不気味な笑い声のような音。続いて二本の腕が、にゅっと突き出され、節足動物じみた動きでピエリッタが這い出してきた。
「ふんっ、なかなかしぶといの」
シンキの油断なき眼差し。それに応えるように、ザスタの頭頂でピエリッタはくるりくるりと舞いを踊った。
「さぁさぁ! まだまだ、これからですっ! 皆様にご満足いただけるように。道化芝居は、ここからが本番なのですっ!」
その言葉と共に、不気味に鳴り響くドラムロール。
ドルドルドルドル……
ピエリッタはニタリと笑い、ドラムロールに合わせゆっくりとその右手を上げていく。
ジャンっ!
その手には新たなる創世の種! 黄金色にギラギラと輝くそれを恍惚と眺めながら、ピエリッタは言った。
「ジュクゴニア帝国の皆様。わたくしは嘆かわしい。実に嘆かわしく思っているのです。皆様はご存知ない。ジュクゴのなんたるかをご存知ないっ!」
そう言いながら左手を額に当て、大袈裟に嘆いてみせた。
「皆様はジュクゴの術理を理解なさらず! その深淵さも知らず! さながら原始人のごとく! ウッホウッホと力を振るうのみ! あ~、なんと嘆かわしいことか……」
嘆息し、わざとらしくぶんぶんと首を振る。
「猿っ。言うなれば皆様はさぁるっなのです! しかーし! ウキャウキャウキウキ喚くその猿どもが、世界を統治するなどと言っている……」
ピエリッタの瞳が不気味に輝いた。
「そのような猿どもには! そろそろご退場いただきたい! わたくし、そのように思うわけなのでございますっ!」
ピエリッタがそう言うや否や、
ビカカッ!
創世の種から閃光が放たれ、ザスタの巨体に突き刺さった!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
大気が震え、大地が振動する! ザスタの巨体が唸りをあげ、その体から凄まじい突風が吹き荒れた。その暗黒の体から稲妻が迸り、大地を貫いていく!
「うふはっ、いいじゃねぇかっ。いいじゃねぇかよぉっ!」
喜びに顔を歪ませるフォル。その眼前でゴゥンゴゥンと唸りをあげながら、ザスタは更なる巨大化を遂げていた。ジンヤをも上回る、山のごとき巨体。まさに災厄の巨人! その恐るべき巨体が絶望的な災厄の叫びをあげた!
「ズゥゴゴガガガギルジャャァーーーーン!!!」
おお、そして見よ! その体にはあり得ざるジュクゴが輝いている! それこそは……
超 激 甚 災 害 !!
「ふむ、完全にインフレじゃの」
ピエリッタが勝ち誇ったように両手を広げ叫んだ!
「ふっふっふっ! これこそがっ! 我らが誇る創世の種! ジュクゴブーストバァ~ジョンっ! なのですっ!」
ドスを利かせてピエリッタは凄んだ。
「さぁさぁ、猿どもっ! オーバーキルってやつをっ。見せて! もらおうじゃねーかっ!」
「ヌガガガガズギギギルジャャァーーーーン!!!」
凄まじい咆哮とともにザスタがその巨大な腕を振るった。嵐のような突風とともに稲妻、雹、土砂が爆発的に放たれていく!
「ぬぅ!?」
吹き荒れる災厄がシンキを直撃! その小さな体が暗黒の渦の中へと消え……直後、
ドゴゴゴオォォォォン!!
爆音とともに吹き飛ぶ調布の街。一撃。一撃でその四分の一が壊滅!
「ぐふはっ! シンキのやつ、死んじまったのかぁ?」
フォルは笑いながら、その体の前で青龍偃月刀を猛烈な勢いで回転させていた。回転から生まれた瘴気の渦、それが彼女の体を守っているのだ!
一方、ダカツは長虫たちによって黒い繭状に包まれ、じっと沈黙を護っている。
ピエリッタは奇妙な動きでピョンと跳ね、パンパンと手を叩いた。
「さぁさぁさてさて。次にふっ飛ぶお猿さんは、果たしてどっちだっ!?」
その時であった!
沈黙を守り続けていた星旄電戟のバーン。その眼がカッと見開かれた!
「シンキさんっ! あなたの仇は……このボクがとりますっ!」
バーンはその手に持つ方天戟をピエリッタにかざすと、ザスタの轟音をも打ち消す雄叫びをあげた!
「賊よ! さぁ見るがいい! 満天を埋め尽くす、我が星旄電戟の輝きを!!」
「……はっ? はぁっ? わはは、わーお」
ピエリッタが驚きの笑みを浮かべた。突如として夜空に出現した超新星のごとき輝き。それが百、千……いや、万! 常軌を逸した輝きが、まさしく満天を埋め尽くしたのだ!
めくるめく輝きの中で、バーンは方天戟を水平に掲げ叫んだ。
「賊よ! 知るがいい! 我が率いるは、星旄はためく万の軍勢である!!」
満天の輝きがその姿を変えていく。おお、それは騎馬の軍勢。星のように煌めく旗。神獣のごとき光の騎馬。輝ける武者たち。目も眩む騎馬武者の大軍勢が、満天の空に出現した!
バーンは凪ぎ払うように方天戟を振るった。
「賊よ! 聞くがいい! 電雷の戟を振るう、我らが熱き雄叫びを!!」
うぅううぉおおおおぉぉおおーーーーっ!!!
輝く騎馬武者たちがその手に戟を掲げ、世界を揺らさんばかりの鬨の声を上げた!
「そして刮目せよ! これがっ! ジュクゴニア帝国最強の力っ!」「ぐは、最強は言い過ぎだろ……」フォルがすかさず突っ込む。
バーンは方天戟をぶんぶんと回転させながら叫んだ!
「星っ! 旄っ! 電っ! 戟っ……!」
そして方天戟を天に突き上げながら、巨龍のごとき咆哮をあげた!
「覇ぁぁあああああああああああっっ!!!」
叫びと共に、輝く万の騎馬武者たちが怒涛の勢いでザスタに向けて殺到した!
うぅううぉおおおおぉぉおおーーーーっ!!!
「すっげ……」
呟くピエリッタ。その体が光に包まれた。
ギュンズガガガガガガガガガガガガッ!!
ズズン!
ズガガガガガガガガガガガガッ!!
ズガガガガガガガガガガガガッ!!ズズン!
ギュンズガガガガガガガガガガガガッ!!
ズガガガガガガガガガガガガッ!!ズズズン!
目も眩む閃光、そして轟音!
「ぐふはっ。相変わらずめちゃくちゃだぜ!」
煌めく光と轟音の中で、フォルが叫んだ。
ズガガガガガガガガガガガガッ!!
ギュンズガガガガガガガガガガガガッ!!
……ドドドカァーンッ!!!
ひときわ巨大な爆音。そして閃光。
やがて光が薄らぎ、辺りに静けさが戻ってきた。フォルが目をしばたたかせて呟く。
「……ぐはっ、跡形もねぇ」
目を瞑り、空を見上げるバーン。
「シンキさん。あなたの仇。しっかりと討ちましたよっ……!」
ゴンっ!
「痛いっ! えっ、あれ? シンキさん、え、なんで!?」
バーンの背後には無傷のシンキ。
「勝手に殺すなや、バカたれ」
「そうそう、そういうとこだぞっ」
その横にはぷりぷりと怒った風のピエリッタ。
直後、三人の間に極限の殺気が漲った!
方天戟を構えるバーン。拳を突き出すシンキ。
「道化。本当にしぶといの」
シンキのその言葉には、暗い殺意が込められていた。
「おぉっと、ちょーっと待った待ったぁー!」
ピエリッタがおどけたように両の手のひらを前に突き出した。
「いやはや皆様、実にお強い。このピエリッタ、心から感服いたしましたっ! もはや皆様と争う意思、今はまぁったくございませんっ」
「それが通用すると思うかの」
「ふっふっふっ。さてはて、はてさて。ところでところでぇ! どーでしたか、このピエリッタの三下ムーブは。楽しんでいただけたでしょーかっ!」
「……問答無用」
シンキの拳が螺旋状に唸りをあげて突き出された。
「ピギュ」
直後、奇妙な声をあげ潰れていくピエリッタ!
「おやおや、まぁまぁ、これは残念」
くるっくー、くるっくー
可愛らしく鳴きながら上空を旋回する鳩。その上に小人のようなピエリッタが乗っている!
「ぐふはっ、マジでうぜぇ。。なんだこいつ」
呆れたように呟くフォル。
「はぁあ、くだらなすぎる……」
溜息をつくダカツ。
「ではでは皆様、わたくしはそろそろお暇します。またお会いする機会がございましたら。より趣向を凝らした道化芝居、お見せすることをお約束しましょう。ではではではでは、ごぉ機嫌ようっ!」
手を振る小さなピエリッタ。
ジャン!
音と共に鳩とピエリッタは消えた。
「とらえどころのない奴。どこまで本気だったのか、さっぱりわからんの」
「……おい」
フォルが無表情のまま、つかつかとライの下まで歩み寄った。
ズムッ
そして青龍偃月刀の石突で、ライの腹を鋭く突いた。ライはうなだれたまま、微動だにしない。
「ぐふはっ、反応なし。虫の息……いや、そのフリか?」
フォルはライに背を向けて言った。
「ぐはは、まぁいいさ。いずれにせよお前は明日までの命。まぁもっとも……」
フォルの顔に侮蔑に満ちた笑みが浮かんだ。
「処刑を仕切るのは、あの糞雑魚ミヤビだ。案外、逃げ出すチャンスもあるかもなぁ~、ぐふはっ」
去っていく四人のジュクゴ使いたち。ライはうつむきながら、心の中でピエリッタの言葉を反芻していた。
ではでは信用いただくために。差し当たってその全身の傷、治してさしあげましょう
確かにピエリッタはそう言っていた。ライは薄目を開け、己の右腕を見た。無惨。叩き潰され、凄惨としか言い様のない状態。
しかし。
ライにはわかっていた。治っている! いかなる魔術なのか。見た目は変わらず偽装されながら、確かにその右腕は回復していた。いや、右腕だけではない。全身の傷が治癒し、十全なるジュクゴ力(ちから)が全身を駆け巡っている!
ズクン
胸の近く。ジャケットの内ポケットで何かが疼くように力を放っていた。ライは心のさざ波を抑えるように、静かに息を吐きだした。
創世の種。
それがジャケットの内ポケットの中に、確かに存在している。それも二つ。
ズクン、ズクン、ズクン……
不気味な力の律動を感じる。
(私は……あぁっ……私は……私はっ……!)
夜の闇が、深まろうとしていた。
【第二十四話「崩壊の日」に続く!】
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