死闘ジュクゴニア_マガジン

第38話「強襲!蛟竜毒蛇」 #死闘ジュクゴニア

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前回

 ザーマが、黒の世界が、輝ける翼に打ち砕かれ崩壊していく。バラバラと闇が崩れ落ち、ザーマの肉体は涙とともに四散していった。

 闇が晴れていく。霧のように黒が消える中、ハガネは再び刑場の大地に立っていた。ハガネは目の前に対峙する相手を見た。

「ミヤビ……」

くっくっくっ……これか……! これなのだな、お前が見せたかったものとは。実に素晴らしい……素晴らしい余興ではないか、ハンカール!

 尋常ではない輝きが煌めいている。その中から漏れ出す含み笑い、そして歓喜の叫び。そう、この輝きの主こそは地上を睥睨する絶対者にして現人神、ジュクゴニア帝国皇帝フシトである!

 白亜に輝く謁見の間。そこに鎮座するフシトの眼前。窓のように歪んだ空間が浮かび、その空間には外部の情景が映し出されている。その情景、それはミヤビと対峙するハガネの闘姿である。

 歓喜するフシトの様を見て、傍らに立つバガンがその黄金の瞳を曇らせた。バガンは訝しむように超自然の声音を響かせ、フシトに尋ねた。

「「何故に……このような下賎なる者に陛下御自らご関心を?」」

「くっくっくっ……」フシトは応えた。「この者は同じなのだ。お前とな……バガン。わかるであろう、お前にも!」

「「………!」」

 バガンの表情が、そして目付きが変貌した。バガンはハガネを凝視した。その様はまるで獲物を睨め付ける獰猛なる野獣のようであった──そしてその直後。

 ──パン!

 二人の注意を引くかのように、ハンカールがその手を打ち鳴らした。フシトとバガンが視線を移したその先で、ハンカールは超然と微笑みながら言った。

「ではこの余興。そろそろ幕引きといきましょう」

「ミヤビ……」

 対峙するミヤビを見つめ、ハガネは押し出すようにその名を呼んだ。二人の傍らにはライとフウガ。

「くそっ……!」フウガはその拳を握りしめていた。

(不甲斐ねぇ……そして気に食わねぇ……)

「……はっ」フウガの口から思わず自嘲の笑いが漏れ出す。

(……なぁにが「練り上げ続けた武の力」だ。その結果が暗黒の中を無様にのたうち回ったアレかよ……。そしてそんな無様な俺を救ってくれたのが……)

 フウガはハガネを見た。

(あの坊やってわけかい。泣けてくるね……)

 ハガネはミヤビの目をまっすぐと見据えていた。ミヤビはその不屈の輝きをまっすぐに見返していた。ハガネは告げた。

「ミヤビ……お前にはもうわかっているはずだ」

 すっ、とミヤビを指差す。

今の俺に……お前は勝てない

「ふんっ」

 ミヤビは鼻を鳴らした。それはミヤビにもわかっていた。

「そうかもしれん……そうかもしれんな。だがな、仮にそうだったとして」剣を突きつける!

「それで引き下がる私だと思うのか?」
「…………」

 ハガネの瞳に一瞬、悲しみのような翳りが宿った。しかしそれは本当に一瞬の出来事であった。その翳りは即座に消え、直後、二人の間に緊迫した空気が流れ込んだ。そして──じりっじりっと回り込むようにして二人の間合いは近づいていった。

 それに呼応するようにライとフウガもまた、互いの間合い、そしてハガネとミヤビの間合いとを睨み、目に見えぬ牽制を繰り広げていた。

 刑場に乾いた風が吹き抜けていく。ミヤビの花鳥風月がその輝きを強めていく。

「……ザーマがどのような意図を持って我らに攻撃を加えたのか。ふん、おおかたハンカール辺りの差し金であろうが」

(……果たしてそうだろうか)フウガを牽制しつつ、ライは思った。(あの黒の攻撃は……)ライの胸に浮かぶ疑念。(あれは、私を狙ったものではなかったのか……?)

「いずれにせよハガネ、私はお前との決着をつけ! そして陛下に……フシト陛下に真意を問い質さねばならぬ……」

 ミヤビは己に言い聞かせるように言葉を続けた。

「私は己の誇りにかけて、お前との決着をつけ! そして……もしジュクゴニア帝国に正すべき過ちがあるのであれば……」

 その表情が決意に染まっていく。

「それを正す! 私にはその使命がある!」

 ──しかし、その時であった。

 ゴゥンゴゥンゴゥン!

 突如として鳴り響く、移動幕営ジンヤの不気味なる鳴動! そして。

 ファァアァァァァアン!

 奇妙な怪音。それとともにジンヤから輝きが放たれ、禍々しい光の弧を描いた。その光の中に──

「はぁあ、くだらん」

「……これは!」ミヤビが目を見開く。

 光の中に浮かび上がる巨大な七つの影。それはハガネたち四人を取り囲むようにして、その醜悪なる鎌首をもたげていた。その正体。それは蛇とも竜ともつかぬ巨大なる七匹の長虫であった! 一匹一匹が三十メートルはあろうかという巨体がぬらぬらと蠢き、刹那の間にハガネたちの周囲を取り囲んでいたのだ!

(バカな。一切、気配を感じることができなかっただと……!?)

 フウガが奥歯を噛みしめ、再びその拳を強く握りしめる。

 不気味に蠢く長虫の胴体は尾に近づくにつれ細くなっていき、それは光を背景にして宙に立つ男の頭髪へと連なっていた。男はミヤビを見下しながら言った。

「はあー……くだらん。なぁ、ミヤビ。さっきの言葉、もう叛逆の意思ありってことで解釈してもいいよな……なぁ、恨むなよ?」

 その左頬には禍々しき蛟竜毒蛇の四字! ミヤビは忌々しげに吐き捨てるようにして言った。

「蛟竜毒蛇の……ダカツ!」

 蛟竜毒蛇のダカツ──帝国宰相ハンカールの直属、恐るべき四戦士の一人である!

「はぁああああ、ミヤビにはわかってるよなぁ。この状態になったら、もはや逃げることなどできんってことは。たとえ……」

 ダカツはその能面のような顔を表情ひとつ変えずに続けた。

「疾風怒濤や電光石火の超スピードでも、俺の攻撃から逃れることなんてできっこないってな……ぁあ、くだらない」

「……おい」

 口を開いたのはフウガであった。

「冗談でも……そういうことは言っちゃあいけねぇなぁ、ダカツさんよぉ。なぜお前ごときが憲兵団を……ミヤビ様を処断できるって……」

「はあぁあああああああ、くだらない。もう終わり!」

 ビガガガガガガガガガ!!

 直後、問答無用とばかりに虹色の怪光線が長虫たちの口から放たれた! 四人に致死の殺人光が降り注ぐ! 

(これは……逃げ場がない!)

 時間が静止したかのような刹那の間において──電光石火の力でも逃れ得ぬと悟ったライは、咄嗟にハガネを庇おうとしていた。ほぼ同時、ハガネもまたその翼を広げ、ライを庇おうとしていた。

 一方。フウガは光線の中に飛びこんででも、ダカツに一矢報いようと身構える。そしてミヤビは──

「!?」

 その時、ハガネたちは見た! 舞い散る花びらが壁となり、すべての光線からハガネたちを護っていく様を!

【第三十九話「花鳥風月、散る」に続く!】

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